よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 正午を少し過ぎた頃には、黒竜山のふもとがすぐ近くに見えてきた。
 黒竜山を越えるには、この大きく険しい一本道しかないので、迷うことはない。

 二人は黒竜山のふもとにある、大きな一つの岩の近くで足を止めた。

「待っていたぞ」

 岩の陰から桜在と、続いて座朗が現れる。
 桜在はよろずを見下ろして、早速問いかけた。

「書物は見つかったか?」

「ああ、ここにあるぞ」

 よろずは自分の懐から書物を取り出して、桜在に手渡した。

「ご苦労だった。……他に、なにか気づいたことはあるか?」

 桜在は彼を見つめて、謎めいたことを尋ねてくる。

「? 他に気づいたことって、なんだ?」

 首を傾げる彼を見て、桜在は僅かに視線を落とす。

「いや、わからなかったのならいい……」

 座朗は相変わらず笠に手をやると、低い声でこう言った。

「そろそろお別れだ、桜在」

 桜在は座朗に目を向けてうなずく。

「ああ」

 光我とよろずの視線がぶつかる。
 光我は目を泳がせて頭を掻くと、ぎこちなく口を開いた。

「……じゃあな、よろず」

 よろずは僅かに微笑んで別れを告げた。

「ああ、またな、光我」