よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 小雨は真っ直ぐと彼を見つめて、はっきりと答えた。

「はい。とっても大切な人ですから」

 青年はじっと深い茶の瞳で小雨を見つめると、傍らの弓を掴んでスッと立ち上がった。

「あの……あ、あなたのお名前は……?」

 小雨はおずおずと尋ねたが、青年はひらりと木の枝から飛び降りた。

「お前が知りたいのは、奴(よろず)の行き先だろう?」

 青年はそう言うと、小雨に背を向けて歩き出す。

「えっ! で、でも、それも教えてくれてませんよ?」

 小雨は冷たい夜風に吹かれながら、精一杯身を乗り出す。
 青年は歩き続けながら、のんびりとこう言った。

「強く望むなら、ちょうど七日後の正午に黒竜山のふもとへ向かえ……。どんな結末になろうと、それを望むならばな……」

 小雨は夜風を受けながら、闇夜に消えてゆく青年を呆然と見送った。

(……なにあの人……気まぐれそうな人だなぁ)

 小雨は星の瞬く夜空を見上げて、独りつぶやいた。

「黒竜山のふもと……」