よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 真夜中に小雨は目を覚ました。

(もう、解決したから大丈夫だよね……)

 小雨は独りで厠へ行くと、一階へ通じる階段の踊り場にある窓から、外を眺めた。

(良かった……嵐やんだ……)

 外は、今までの嵐が嘘のように穏やかな風が吹き、月まで出ている。

「?」

 不意に美しい笛の音が聞こえてきた。
 小雨は窓に近寄って鍵を開け、そっと開いた。
 冷たい夜風が流れ込む。
 小雨は窓から顔を覗かせて、辺りを見回した。

 そこには窓の近くの太い木の枝に、一人の青年が静かに横笛を吹きながら腰かけていたのだ。

 髪を後ろで短く一つに束ね、着物の上に深緑の破れた外套をまとっている。
 腰かけている枝の傍らに、長い弓、腰には刀とやなぐいを携えている。
 そして首には、紫檀色の長い大きな襟巻……。

「あっ、あの!」

 小雨は思わず身を乗り出して声をかけた。
 青年は笛を吹くのをやめ、そっと小雨に目を向けた。
 不思議に深い茶色の瞳……。

「来ると思っていた……」

 青年がポツリとつぶやく。

「? え、えっと夜代の人ですよね? よろずが今どこへ向かっているか、知りませんか?」

 小雨は相手が夜(・)代(・)とわかっているのに、不思議と怖くはなかった。

「……やっぱり奴を追うのか。何故そこまで必死になる?」

 青年は小雨の質問には答えずに、逆に問いかける。

「え……?」

 小雨は、そんなことを聞かれるとは思ってもいなかったので、きょとんとした。

「自分の身を危険に晒してまでも、連れ戻したいのか?」

 青年は表情ひとつ変えずに、再び問いかける。