よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

「なるほどな……。死んだ人間は、忘れられてゆくってことか……」

 影利は真っ直ぐ女を見つめて口を開く。

「それは、大切な人を苦しめる存在になってもか? お前の母親はそんなに簡単に、自分の子を忘れてしまうような奴なのか? それに……それなら何故、小雨に自分が死んだとわからせるようなことをしたんだ? お前も苦しいんだろ? 本当は、気づいてほしいとも、思ってるんじゃないのか?」

 女は急に泣きじゃくるのをやめた。
 ゆっくりと顔を上げる。
 その顔はもう、血にまみれた恐ろしい顔ではなかった。

「自分の親ぐらい信じてやれ……。そしてお前自身も、あの人も、楽にしてやるんだ……」

 影利は優しくそう言うと立ち上がった。
 大きな数珠を懐から取り出して手を合わせると、静かに目を閉じる。
 来華も彼の傍らに立ち、手を合わせて目を閉じた。
 女の身体は白い光に包まれ始める。

「……ありがとう……。母に……これを……」

 女は小さな赤い櫛を、影利に差し出す。
 彼はそれを受け取った。
 そして、再び手を合わせて目を閉じる。
 女は静かに消えていった。
 後には小雨が、その場に倒れて横になっている。

 そのとき、かずみと海刃が部屋に慌てて入ってきた。

「あっ! 小雨、大丈夫か?」

 かずみが急いで小雨を抱き起こす。
 小雨はゆっくり目を開くと、彼女に大丈夫と笑いかけた。

「そ、それが大変なんだ! さっきまた、かずみが女の霊に——?」

 海刃は、影利も来華も妙に落ち着いているのに気づき、不思議そうな顔をした。

「なんか、あったのか?」