よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 影利は独り、自分たちが寝泊まりしている部屋の中央に座り込み、そのときが来るのを目を閉じて静かに待っていた。

 不意にひんやりと冷たい風が吹いて、そっと目を開く。
 そこには、長い髪の女が静かに座っていた。

(来たか……)

 影利は、目の前にぼんやりと見える女に問いかけた。

「……お前は誰だ?」

「…………」

 女は黙っている。

「なんでこの宿にいるんだ? ……なにがあったんだ?」

 しかし女は、なにも答えずに泣き始めた。
 髪が長く、顔を手で覆っているので、どんな顔かも窺えない……。
 不意に女の顔から、だらりと赤黒い血が流れ出た。
 そしてゆらりと揺らめくと、影利の前で溶けるように消えてしまった。
 
 影利はしばらく、女の消えた後を見つめていた。

(……なにが伝えたいんだ……)




 全員は昼食を食べながら、自分たちが得た情報、あるいは起こったことを、それぞれ報告し合った。
 かずみは、みんなから得た情報を上手くまとめ上げた。

「う~ん。じゃあまとめると、この宿に取り憑いてる霊は、おそらく女将さんの娘さんで、小雨が見たのはその娘さんが死んだ瞬間。つまり、山へ行ったときに、足を滑らせて崖から転げ落ちて死んじゃったってことか。そうして、魂だけがここへ帰ってきた……」

 海刃は腕を組んだままこう言った。

「影利さんが言うには、小雨のときもそうだったけど、その人泣いてたんだよな……? どうすれば未練が晴れるんだ……?」

 来華も眉間に皺を寄せて考え込む。

「それが一番問題だよね……」

 影利が口を開いた。

「それに、なんで小雨だけに霊が取り憑くのかも謎だな……。ただ単に憑かれやすい体質なのか……?」

 小雨はうつむいて、小さな声でぼそりとつぶやく。

「あぁ……それは、たぶんアタシが……」

 しかし最後までは言い切らずに、口をつぐんだ。

(雨女——アヤカシだから……)

 そんな小雨を、影利は黙って見つめていた……。