よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 来華と小雨はというと、二階の全く人気のない廊下を歩いていた。
 嵐のせいで宿全体が軋む音がする上に、夕方のように薄暗い。

「う~ん。調べるって言っても、実体のない霊をどうやって調べればいいの……?」

 来華は、廊下の一番奥の部屋に入り込みながらつぶやいた。

「そうだよねぇ。それにしても、どこの部屋も薄暗いね……」

 小雨は布団がしまわれている押入れを、恐る恐る開く。
 来華は掛軸の前に立つとニヤッと笑った。

「ねぇ、知ってる? よく霊が出る部屋には掛軸なんかの裏にお札が貼ってあるんだよ」

「……そうなの?」

 不安そうに答える小雨に目配せをし、来華はゆっくりと掛軸をめくって後ろの壁を覗き込んだ。

「っえ? うわっ!」

 来華は思わず声を上げて、掛軸から飛び退いた。

「え! 来華、どうしたの?」

 小雨は急いで彼女の元へ行くと、そっと掛軸をめくった。

「! な、なんだ来華……。違うよ。ただの小さい子供の落書きだよぉ……」

 小雨はほっとして笑う。
 そこには、赤い色で犬のような、なにかよくわからない、幼い子が描いたと思われる落書きがあったのだ。

「なんだぁ、血かと思っちゃった。もう、紛らわしいことするなぁ。でも暗いところで見ると、やっぱ気味悪いよねぇ……」

 来華も安心して苦笑いをした。
 しかしそのとき、急に小雨の様子がおかしくなり始め、来華の表情は再び強張った。
 小雨は小さくうずくまって震えている。

「ちょ、小雨どうしたの?」

 来華は小雨の前にしゃがみ込むと、彼女の肩に手をやって顔を覗き込んだ。

「!」

 小雨の目から、大量に涙が溢れている。

「……っ小雨」

 来華はどうして良いかわからず、ただ彼女の前に座り込んでいた。