よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 あれから、かずみと海刃は宿で働いている人たちに色々と聞いて回り、霊に関する情報を集めていた。

 まずは厨房で働いている、中年の女中に話を聞いた。

 かずみが霊のことを尋ねると、女中は周りを見回して、誰も聞いていないことを確かめ、声を潜めてこう話した。

「そのことなんだけどね、女将さんは誤魔化してるみたいなんだけど、この宿に泊まったお客さんの中に奇怪なことが起こったって言う人は、何人もいるんだよ……」

 女中は声を潜めたまま、話を続ける。

「それでね、あんまりこういうことは言いたくないんだけど……前にこの宿で一緒に働いてた女将さんの娘さんがいてね、その人が二年前に山へ行ったっ切り、帰って来ないんだよ。この宿の怪談騒ぎもその頃からだしさ……。
 
「この宿の霊を見たって人は、それが女の霊だったって言うじゃない? だからあたしは、その女将さんの娘さんが事故かなにかで亡くなって、魂だけが帰って来たんじゃないかって思うんだよね。でも女将さんは、今もずっと娘さんが生きて帰って来ると、信じてるもんだからさ……」

 

 かずみと海刃は他の人たちにも尋ねて回ったが、得られる情報はどれも同じようなものだった。

「う~ん。やっぱあの女の霊は女将さんの娘さんってことみたいだな」

 海刃がそう言って、腕を組む。
 すると、かずみは少しうつむいた。

「そうだなぁ。でも、もし本当だとしたら……女将さんは気の毒だよな……」

「まぁな。でも、いつまでも、生きてるのかどうかもわかんねぇ奴を待ってんのも、辛いと思うけどな……。そんならどんな結果でも、さっさとわかった方がいいと思うけどな……」

 海刃は未だ嵐のやまない窓の外を、ぼんやりと眺めたままそうつぶやいた。