よろづーこれは、かつて人々によって穢され、見捨てられた、もうひとつの世界のお話ー

 空が淀んでいる。
 
 その空の下に、黒々とした海が広がる海岸があった。
 そして、ちょうどその海を見渡すことができる崖があり、その崖を海岸から少し登った辺りには、人が数人ばかり入れそうな、小さな洞穴があった。
 
 その洞穴の中には、肩まで髪を伸ばした着物姿の少女が一人、黒々とした海に視線を落として佇んでいた。
 
 少女は大きく透き通るような瞳を、眼下の海から淀んだ空へと向けた。
 それと同時に、淀んだ空から静かに雨が降り出した。


 
 ——それは、全てのはじまりを意味していた。



 今よりはるか昔、人々は戦に明け暮れていた。
 その醜い争いは、多くの数え切れない犠牲を出した。
 そして、その人々の醜い行いはまた、多くの計り知れない憎悪の念を生み出した。
 
 その憎悪の念はとどまるところを知らず、ついには人々に害を成す『アヤカシ』と化し、人々を苦しめた。
 
 人々はとどまるところを知らぬ憎悪の念と、それから際限なく生まれ続ける『アヤカシ』、そしてそれによる終わりなき苦しみから、いつしかこの世を『よろづ世』——永久・限りなく続く世——と呼ぶようになった。