おばあちゃんの家から戻って数日後、朝食を食べていると、つけたままになっていたテレビから「花嫁」という言葉が聞こえてきた。
『――現在、遠凪島では、新たな領主となった御影朔也さんの花嫁探しが話題になっています』
この前、綾香さんやおばあちゃんと結婚の話をしたばかりだったせいか、私はパンをちぎる手を止めてテレビへ顔を向けた。
遠凪島は、おばあちゃんの故郷でもある。
画面には海に囲まれた島の景色が映っていて、その下には『十九歳の若き領主 花嫁探しへ』という文字が出ていた。
『遠凪島では代々、領主が本土から花嫁を迎える習わしがあります。今回、新たに領主となった御影さんについても、すでに花嫁探しが始まっているということです』
画面が切り替わり、一人の男の人が映った。
黒い髪に、きちんとした服装をした人だった。領主と聞いてもっと年上の人を想像していたけれど、顔立ちはまだ若く、学生だと言われても不思議ではない。
『御影朔也さんは十九歳。現在は本土の大学に通いながら、遠凪島の領主を務めています』
「十九歳……」
私より一つ年上なだけだった。
十九歳で領主になって、そのうえもう結婚相手まで探しているらしい。
大変そうだな、と思いながら画面を見ていると、御影さんの肩のあたりに、ぼんやりしたものが浮かんでいることに気づいた。
ぽわぽわとした、色があるのかないのかもよく分からないもの。
少し前までおばあちゃんのそばで見ていたものと、よく似ていた。
テレビの映像がおかしいのかと思ったけれど、御影さんが顔を動かしても、カメラが少し引いても、それは変わらず彼のまわりに浮かんでいる。
私はパンを持ったまま、しばらく画面を見つめた。
あれが見えるのは、おばあちゃんだけだと思っていた。
「……この人にもあるんだ」
御影朔也という名前を、私はそのとき初めて覚えた。
「花嫁探しだなんて、ずいぶん大変そうですわね」
向かいの席にいた妹もテレビを見ていたらしく、カップを置きながらそう言った。
「領主夫人になれるとはいっても、遠凪島でしょう? わたくしなら、あんなに遠いところへお嫁に行くのは遠慮したいですわ」
「そういうことを言うものではありませんよ」
母はたしなめたものの、妹の言ったこと自体を否定するわけではなかった。
「遠凪島には遠凪島の事情があるの。昔から、本土から花嫁を迎えてきた土地なのだから」
「知っていますわ。『辺境島の花嫁』でしょう?」
その言葉なら、私も聞いたことがあった。
本土から遠く離れた遠凪島へ嫁いでいく女性を、そんなふうに呼ぶ人がいる。
「でも、いくら相手が領主でも、十九歳でいきなり島暮らしなんて大変そうですわね」
妹はそれだけ言うと、もう興味をなくしたように朝食へ戻った。
私もテレビから目を離し、手にしたままだったパンを一口食べた。
御影朔也という人も、辺境島の花嫁という言葉も、そのときの私には遠い島の話だった。
『――現在、遠凪島では、新たな領主となった御影朔也さんの花嫁探しが話題になっています』
この前、綾香さんやおばあちゃんと結婚の話をしたばかりだったせいか、私はパンをちぎる手を止めてテレビへ顔を向けた。
遠凪島は、おばあちゃんの故郷でもある。
画面には海に囲まれた島の景色が映っていて、その下には『十九歳の若き領主 花嫁探しへ』という文字が出ていた。
『遠凪島では代々、領主が本土から花嫁を迎える習わしがあります。今回、新たに領主となった御影さんについても、すでに花嫁探しが始まっているということです』
画面が切り替わり、一人の男の人が映った。
黒い髪に、きちんとした服装をした人だった。領主と聞いてもっと年上の人を想像していたけれど、顔立ちはまだ若く、学生だと言われても不思議ではない。
『御影朔也さんは十九歳。現在は本土の大学に通いながら、遠凪島の領主を務めています』
「十九歳……」
私より一つ年上なだけだった。
十九歳で領主になって、そのうえもう結婚相手まで探しているらしい。
大変そうだな、と思いながら画面を見ていると、御影さんの肩のあたりに、ぼんやりしたものが浮かんでいることに気づいた。
ぽわぽわとした、色があるのかないのかもよく分からないもの。
少し前までおばあちゃんのそばで見ていたものと、よく似ていた。
テレビの映像がおかしいのかと思ったけれど、御影さんが顔を動かしても、カメラが少し引いても、それは変わらず彼のまわりに浮かんでいる。
私はパンを持ったまま、しばらく画面を見つめた。
あれが見えるのは、おばあちゃんだけだと思っていた。
「……この人にもあるんだ」
御影朔也という名前を、私はそのとき初めて覚えた。
「花嫁探しだなんて、ずいぶん大変そうですわね」
向かいの席にいた妹もテレビを見ていたらしく、カップを置きながらそう言った。
「領主夫人になれるとはいっても、遠凪島でしょう? わたくしなら、あんなに遠いところへお嫁に行くのは遠慮したいですわ」
「そういうことを言うものではありませんよ」
母はたしなめたものの、妹の言ったこと自体を否定するわけではなかった。
「遠凪島には遠凪島の事情があるの。昔から、本土から花嫁を迎えてきた土地なのだから」
「知っていますわ。『辺境島の花嫁』でしょう?」
その言葉なら、私も聞いたことがあった。
本土から遠く離れた遠凪島へ嫁いでいく女性を、そんなふうに呼ぶ人がいる。
「でも、いくら相手が領主でも、十九歳でいきなり島暮らしなんて大変そうですわね」
妹はそれだけ言うと、もう興味をなくしたように朝食へ戻った。
私もテレビから目を離し、手にしたままだったパンを一口食べた。
御影朔也という人も、辺境島の花嫁という言葉も、そのときの私には遠い島の話だった。
