辺境島の花嫁

 箒を持ち直して、私は残っていた段の掃除に戻った。

 上から順番に埃を集めてきたので、あとはこの踊り場と、その下に続く階段を終わらせればいい。まだ窓枠や手すりを拭く仕事も残っているけれど、ひとつずつ片づけていけば、暗くなる前には終われると思う。

 そう考えながら壁際へ箒の先を入れたとき、上の階から靴音が聞こえてきた。

 この階段を使う人はほとんどいないから、掃除を始めてから誰かとすれ違うこともなかった。だから最初の一歩が聞こえたときには気のせいかと思ったけれど、少しすると、また硬い靴底が階段を踏む音がした。

 誰かが下りてきている。私は箒を動かす手を止めて、階段の上を見た。

 やがて先に見えたのは、制服のスカートの裾だった。その下にきれいに磨かれた靴が現れ、さらに数段下りてきたところで、ようやく顔まで見える。

 妹だった。

 放課後になってそれなりに時間が経っているのに、妹の制服には朝とほとんど変わらないくらい乱れがなかった。襟元はきちんと整っているし、長い髪も後ろへきれいに流れていて、階段を下りるたびに毛先だけが小さく揺れている。私だったら一日の終わりにはどこかしら崩れてしまうのに、妹はそういうところまで気を抜かない。

 それに、誰も見ていないような古い階段でも歩き方は変わらなかった。背筋をまっすぐ伸ばしたまま、一段ずつゆっくり下りてくる姿には、急いでいる様子も、狭い階段を歩きにくそうにする様子もない。

 途中で私に気づくと、妹の足が止まった。

 目が合ったので、私は何となく箒を持ったまま小さく会釈した。

 妹はすぐには何も言わなかった。

 まず私の顔を見て、それから手元の箒へ視線を落とす。次に階段の隅へ集めていた埃を見て、最後に私の足元に置いてあるちりとりまで確認したところで、ほんの少しだけ眉が上がった。

 ……そんなに珍しいものを見つけた顔をしなくてもいいと思う。

 妹はそのまま階段を下りてきたけれど、私が集めた埃のすぐ手前で足を止めた。靴の先が埃に触れないことを確かめるように一度だけ足元を見てから、今度は私を正面から見る。

 それから、片手で髪を肩の後ろへ払い、ほんの少し顎を上げた。

 昔から、妹はこういう仕草がよく似合う。

「まあ、お姉さま」

 少し驚いたように目を細めてから、妹は私の箒をもう一度見た。

「こんなところで何をなさっているのかと思えば……お掃除をしていらしたの?」

「うん。今日、ここの掃除当番だから」

 私が答えると、妹は箒を持った私を上から下まで眺めてから、ふっと鼻で笑った。

「まあ。こんな薄暗いところで、一人でお掃除だなんて……ずいぶんとみすぼらしいですのね、お姉さま」

「みすぼらしい?」

「その格好をご覧になって。袖には埃がついていますし、箒まで抱えていらっしゃるでしょう? 白石家の娘がそんな姿をしているところを誰かに見られたら、わたくしまで恥ずかしくて仕方ありませんわ」

 私は自分の袖を見た。

 たしかに、いつの間についたのか、白い埃が少しだけ残っている。

「でも、掃除してたらこれくらいはつくと思うけど……」

「そういうことではありませんのよ」

 妹は呆れたように私を見てから、口元だけで笑った。

「――そんなんだから、お姉さまはいつまで経っても落ちこぼれなんですわ」

 おちこぼれ。

 分かっていたことだけど、妹の口からそう言われると、やっぱり少しだけ苦しかった。