掃除をするときは、目につくところから始めてはいけない。
階段なら、まず壁際や段の隅に箒の先を入れて、そこに溜まっている埃を掻き出す。広いところはあとからいくらでも掃けるけれど、隅に残った汚れは、先に取っておかないと最後まで残りやすい。
そう教えてくれたのは、おばあちゃんだった。
小さいころ、おばあちゃんの家へ遊びに行くと、私はよく掃除について回っていたらしい。自分ではあまり覚えていないことも多いけれど、箒の持ち方や雑巾の絞り方だけは、今でも身体が覚えている。……あとはもちろん、掃除に対する考え方も。
『小鳩ちゃん、掃除っていうのはね、汚れたから仕方なくするものじゃないのよ』
そう言いながら、おばあちゃんは私にも小さな雑巾を持たせてくれた。
掃除はお手伝いさんの仕事だと思っていた。
おばあちゃんの家にも、もちろん何人もお手伝いさんがいた。朝になれば部屋を整えてくれるし、食事のあとには食器を片づけてくれる。床や廊下だって、放っておけば誰かがきれいにしてくれるのだから、おばあちゃんが自分で雑巾を持っていることのほうが、私には不思議だった。
『でも、おばあちゃんがお掃除しなくても、お手伝いさんがしてくれるでしょう?』
たぶん、悪気なんてまったくなかったのだと思う。
私の家でもそうだったし、それが普通だと思っていたから、どうしてわざわざ自分でやるのか知りたかっただけだ。
するとおばあちゃんは怒るでもなく、そうねえ、と少し考えてから、手にしていた雑巾をきれいに畳み直した。
『もちろん、お手伝いさんにはいつも助けてもらっているわ。でもね、誰かがしてくれることと、自分では何もしなくていいことは、同じじゃないのよ』
『同じじゃないの?』
『ええ。自分が使ったものを元の場所へ戻したり、汚したところを少し拭いたりするくらいなら、おばあちゃんにもできるでしょう? できることまで全部誰かにしてもらっていたら、そのうち自分が何を使って、どうやって暮らしているのかまで分からなくなってしまうもの』
そこまで聞いても、幼い私にはまだ少し難しかった。
そんな私の顔を見て、おばあちゃんは少しだけ言葉を考えるように間を置いた。
『それにね、小鳩ちゃん。自分できれいにすると、気持ちがいいのよ。そこを次に使うのが自分でも、ほかの誰かでも、きれいなほうが嬉しいでしょう?』
それなら、私にも分かった。
きれいな部屋のほうが気持ちいいし、埃のない床のほうが嬉しい。
だからその日から私は、おばあちゃんが掃除を始めると、その後ろを小さな雑巾を持ってついて回るようになった。
階段なら、まず壁際や段の隅に箒の先を入れて、そこに溜まっている埃を掻き出す。広いところはあとからいくらでも掃けるけれど、隅に残った汚れは、先に取っておかないと最後まで残りやすい。
そう教えてくれたのは、おばあちゃんだった。
小さいころ、おばあちゃんの家へ遊びに行くと、私はよく掃除について回っていたらしい。自分ではあまり覚えていないことも多いけれど、箒の持ち方や雑巾の絞り方だけは、今でも身体が覚えている。……あとはもちろん、掃除に対する考え方も。
『小鳩ちゃん、掃除っていうのはね、汚れたから仕方なくするものじゃないのよ』
そう言いながら、おばあちゃんは私にも小さな雑巾を持たせてくれた。
掃除はお手伝いさんの仕事だと思っていた。
おばあちゃんの家にも、もちろん何人もお手伝いさんがいた。朝になれば部屋を整えてくれるし、食事のあとには食器を片づけてくれる。床や廊下だって、放っておけば誰かがきれいにしてくれるのだから、おばあちゃんが自分で雑巾を持っていることのほうが、私には不思議だった。
『でも、おばあちゃんがお掃除しなくても、お手伝いさんがしてくれるでしょう?』
たぶん、悪気なんてまったくなかったのだと思う。
私の家でもそうだったし、それが普通だと思っていたから、どうしてわざわざ自分でやるのか知りたかっただけだ。
するとおばあちゃんは怒るでもなく、そうねえ、と少し考えてから、手にしていた雑巾をきれいに畳み直した。
『もちろん、お手伝いさんにはいつも助けてもらっているわ。でもね、誰かがしてくれることと、自分では何もしなくていいことは、同じじゃないのよ』
『同じじゃないの?』
『ええ。自分が使ったものを元の場所へ戻したり、汚したところを少し拭いたりするくらいなら、おばあちゃんにもできるでしょう? できることまで全部誰かにしてもらっていたら、そのうち自分が何を使って、どうやって暮らしているのかまで分からなくなってしまうもの』
そこまで聞いても、幼い私にはまだ少し難しかった。
そんな私の顔を見て、おばあちゃんは少しだけ言葉を考えるように間を置いた。
『それにね、小鳩ちゃん。自分できれいにすると、気持ちがいいのよ。そこを次に使うのが自分でも、ほかの誰かでも、きれいなほうが嬉しいでしょう?』
それなら、私にも分かった。
きれいな部屋のほうが気持ちいいし、埃のない床のほうが嬉しい。
だからその日から私は、おばあちゃんが掃除を始めると、その後ろを小さな雑巾を持ってついて回るようになった。
