現代では、何をするにも、魔法! 魔法!
スマホを使うのにも魔法が必要で、車だって魔法で動いている。
魔法がなければ現代の暮らしは、とても不便になるだろう。
世界大戦のときには、多くの人に不幸をもたらした魔法だけど、平和になった今では、多くの人に幸せをもたらしていると思う。……便利と幸せは違うって主張する人もいるけどね。
そんな現代の日本にも、都会の便利さとは少し縁遠い場所がある。
本土からずっと離れた海の上に浮かぶ、遠凪島(とうなぎじま)だ。名前を聞いたことがなくても不思議じゃない。本当に、ずっと遠くにあるんだからね。遠くにあるものだから、辺境島なんて言われることもある。
飛行機だけでは行けず、最後は船に乗らなければならない。島のほとんどは山と森で、町と呼べる場所も港の周辺に集まっているくらい。大きな商業施設なんてもちろんないし、若い人の中には高校を卒業すると、そのまま本土へ出てしまう人も多いらしい。
その代わり、海はきれいで、魚はおいしくて、昔から続いている祭りや習慣もたくさん残っている。旅行で数日訪れるなら、きっと素敵な島なのだと思う。……住むとなったら、ちょっと大変だけど。
そんな遠凪島では、今でも精霊が信じられている。
魔法なら、日本中どこへ行っても使われている。学校で習うし、専門の資格だってあるし、仕組みを研究している大学もある。けれど精霊は、そういう現代の魔法とは少し違う。
本土に住んでいる人にとっては、昔話や古い伝承の中で聞くことのほうが多い存在だ。本当にいるのかと聞かれれば、信じている人もいれば、昔の人が自然を恐れて作った話だと言う人もいる。
でもね、精霊はいるんだよ。
島の人たちは精霊の存在を疑わない。昔から精霊を敬い、精霊と共に暮らしてきた。その考え方は、魔法がこれだけ便利になった現代でも変わっていない。魔法が人工物を動かすなら、精霊は自然と共存する。
なにしろ遠凪島では島を治める領主様でさえ、精霊の試練によって選ばれるのだから。
それに、遠凪島では昔から、精霊は魔力を嫌うと言われている。
そのせいなのか、島ではたくさんの魔力を持って生まれる人がほとんどいない。精霊を大切にして暮らしてきた島の人たちにとっては、それも昔から当たり前のことだった。
……でもね、精霊を信仰していると言っても、やっぱり魔法は便利だから、こんな辺境の島でも必要なんだよね。
島の人だってスマホを使うし、車にも乗るし、生活のあちこちで普通に魔法を使っている。むしろ本土から遠く離れた島だからこそ、物を運んだり、人と連絡を取ったりするために、魔法がなければ困ることも多いらしい。
そして、魔法を使うのには魔力が必要になる。島の人たちが魔法を使うには、魔力をたくさん持った人が島の礎に魔力を注ぎこまないといけない。でも、遠凪島にはそんな人がいないんだ。
だから、他から呼んでくる。
領主様の花嫁としてね。
本土の方の貴族社会では、魔力がたくさんあって、でもみんなから必要とされていなくて、遠凪島に嫁ぐことになった女性をこう呼ぶらしい――
辺境島の花嫁、と。
