#1
夕日に照らされた街。
街の人々で賑わう大通りには幾つもの屋台が並んでいた。
「まいど!」
商人の声が賑やかな街並みに溶ける。
「どうも!」
そんな街中に元気な少年の声が響く。少年らしい笑顔を浮かべ商人に手を振り屋台を後に歩き出した。
彼の名は伊座ナミ セト(いざなみ せと)。夕日を跳ね返す瞳で街並みを眺めながらゆった髪の毛を揺らし、前に後ろにと移りゆく人混みの中を歩く後ろ姿。
角を曲がると夕日が明るく照らすものの、人の通りが無い住宅街が広がった。
そこを登りきりセトは一件の家の扉に手をかける。
「……」
カラスの鳴き声が太陽との別れを告げる。
あたりは薄暗くなっていくというのにセトはその扉にかけた手を話さないままその場からしばらく動かなかった。
先程までの笑顔は消え、ハイライトの入らない虚ろな瞳で、そして無表情で扉を見つめる。
ガチャッ
暫くするとセトが扉を開け家の中へ入った。
手を離すと扉がゆっくりと音を立て閉まる。
紙袋を棚に置く。
棚には伏せられた写真立てと枯れた花が悲しく散らばっている。
セトはただ上に来ていたローブを脱ぎ紙袋を手に取り廊下を進む。
扉のしまった部屋の横を通り過ぎた時、中から音が聞こえる。
ガシャン
セトの瞳孔がピクっと開く。そしてまるで時が止まったようにその場で固まった。
「おい、どこへ行ってた」
ふと扉の開く音とともに一人の男の声がした。
怒りのこもった、低く、大きく、冷たい声。
セトが引きつった顔のまま振り返ろうとする。
と、突然拳がセトの頬を直撃した。
#2
月明かりが照らす坂道を走る人影。走っては躓きそれでもまるで何かから逃げるように前へ、前へと走り続ける。
開いたままの自宅の扉が風で揺れる。
握りしめる拳。服の袖が少し焼け焦げている。
「はぁ……はぁ……」
焦りと不安の表情を抱え息を切らしながら走るセト。
瞳孔は開いたまま、眉間に皺を寄せ怯えた表情で坂をひたすら必死に駆け下りる。
夜風が頬にあたり、髪の毛を宙に舞わせる。
角を曲がり、大通りへと向かうセト。
その後ろに黒い影が蠢き地面を這いつくばってセトの後を追う。
地面を蹴るセトが大通りの灯りのもとへと踏み出した途端、その影がゴウっと音を立て一気にそらめがけて膨れ上がる。
「きゃぁぁあ!」「なんだありゃあ!」「影だ!!」
先程まで華やかに賑わっていた街並みが恐怖の悲鳴に染まる。
慌てて逃げ惑う人々は大切な自分の命しか見えていない。
その声に疑問を抱き大通りに差し掛かったセトの足が止まった。
風邪がますます強くなり木々の葉が抜け落ち空で踊り始める。
セトは後ろを振り向かないまま地面を見つめると突然目を見開き呼吸を止める。
ギギ……
目線の先。街灯に照らされた大きな影がセトを覆った。
セトが固まった顔でゆっくりと振り返る。
「!?」
目の前にいたのはセトよりも随分大きな黒い化け物。
死ぬ
それを見た人間は咄嗟にそう察した。
生物の常識を超え乱雑に着いた目と口、そして足、その手でセトに襲いかかる。
(——ッ)
その影から身を守るようにセトは反射で拳を振るった。
ボウッ
するとその拳は一瞬の間に炎を纏い化け物へと直撃する。
炎が辺りをさらに明るくてらした。
拳が直撃した化け物はそのまま近くの屋台へとふっとぶ。
化け物にぶつかった屋台はバキバキと音を立て無惨に崩れる。
砂埃が煙幕のように化け物を喰らった。
(まただ——ッ)
よろける化け物を他所に自分の拳を見て驚きを隠せないセト。
拳にまとっていた炎は静かに空へと舞い上がるように消えていった。
ぱちぱちと点滅を繰り返す街灯が辺りを安心に照らしては不安に消えてを繰り返す。
ドドドドドドッ
次にあかりがつくと、影が辺りを支配した。
すぐに体制を直した化け物はセトへと襲いかかる。
「なんでこっちに——!」
おい!と言い終わるまもなく襲いかかる化け物から逃げる。
それを横目に人々は店の中や路地へと散っていく。
大通りは先程までの賑わいをなくしてしまった。
クソっ!
化け物が突撃してくる度にセトはギリギリでそれを避ける。その度に街のあらゆるものが破壊されていった。
しかし化け物は一度捕らえた獲物を逃すまいとひたすらにセトを追いかけ続ける。
(追いつかれる——ッ)
化け物が手でセトを地面に叩きつけようとするのをジャンプし避け、セトは化け物を見るように着地し向かい合う。
化け物の手が叩き落とされた地面が大きく割れた。
セトが化け物を閃光のような視線で睨む。
「こうなったらー!」
腕を後ろに引き拳を構えたセト。
化け物は再びセトへと体ごと突進してくる。
化け物が地に足をつける度に地面が揺れる。
月に雲がかかる。点滅を繰り返す街灯だけが辺りを弱くも示した。
セトが拳を振り上げる。
しかしセトの体が宙を舞った。
化け物が突進し、そのまま吹き飛ばされてしまったのだ。
「くっ……」
立ち上がることもできず苦しそうに地面にで横たわるセト。
そこにとどめをさそうと化け物が振り返った。
あちこちが崩壊してしまった大通り。
チカチカと点灯する街灯。
再び化け物が体を上へと上げる。
セトは思いっきり目を瞑った。
(こんな——所で……)
カッ
突然街中に雷撃のような光が横に走る。
そしてその光は化け物の体に突き刺さり貫通した。
化け物が後ろへと揺れ、そのまま前にバタンと倒れる。
地面にヒビを残したあと、砂埃が辺りに広がる。
再び顔を出した月が全てを照らした。
倒れた化け物は砂埃に混ざりサラサラと灰化し粒子となり風に流され消えていってしまった。
「助かっ……た……?」
セトが驚き目を見開いたまま顔をあげる。
「それで終わりか?」
黒い長外套のスーツを前は閉めずにきっちりと着こなした男。黒髪の二十代後半から三十代ほどの彼はふっと嫌味ったらしく笑ってこちらを見ている。
月明かりがさらにその嫌味な姿をはっきりと映し出す。
「……は?」
地面に横たわり男の方を見上げたままセトが予想外の声掛けに目を見開いたまま睨みつける。
しかし男は構わず続けた。
「もう少し粘るかと思った。」
若いながらも威厳がありそうな立ち姿の男はまたふっと笑う。
「……あんた、誰だよ」
眉間に皺を寄せ、さらにセトは男を睨む。
無力にも立ち上がれず地面の上で拳を握りしめる。
「命の恩人に対して、随分と警戒心が強いな」
その男の言葉にセトが歯を食いしばる。
「……なんか、気に食わねぇ」
笑われている。
腹が立つ。
けっと吐き捨てセトはよろよろと立ち上がる。
街灯がまた点滅をした。
それを横目で見ながら男は口を開く。
「奇遇だな。私もだ。」
ニヤリとまた嫌味な笑みを浮かべた後、男は手を頭に当てた。
「たまたま通り掛かった通行人なのに助けてやったんだ。その態度はないだろう。」
やれやれと男はため息をつく。
(……は?)
しかしセトが口を開くも、言葉を出す前に男はこちらを見た。
「次からはもう少し上手く逃げることだな」
「は??」
先程化け物に突撃されズキズキと痛む腹を抱え呆然と立ったままのセト。
男は手を顔の横にぷらぷらと上げた。
風が二人の間を通り抜ける。
「あれだけ目立つ逃げ方をされると追う方も楽で助かる」
「追ってたのかよ!」
さっきたまたま通りかかったって言ったじゃねえか。
思わずセトが突っ込んだ。
突然、サイレンの音が鳴り響いた。
サイレンを光らせた黒い車が数台、こちらにやってきて速度を落とすとすぐ近くで止まった。
気が付けば街の人たちがぞろぞろと大通りに集まりだしていた。
「まずいな……」
それを見た男が考えるように月を見上げる。
「何が」
突然男がゆっくりと歩きセトに近寄る。
「っ!?」
そして男がセトの腹にすっと拳を入れた。
セトが首を傾けるより先に男の肩へと操り人形の糸が切れたように寄りかかる。
車の扉が開き数名の軍人が中から走って出てきた。
男はセトを片手でホールドしてかつぎ上げる。
「おい!待て!」
軍人が慌てて車の扉を閉め追いかけるが男はセトを担いだまま走り出した。
立ち止まってこちらを見る人々をかわし、先程の化け物が荒らしたことで散らかった障害物をラクラクと飛び越える。
「……え?」
担がれながらうっすらとセトが目を覚ます。
ザワザワと人々がこちらに注目を向けている。
「まったく。まるで私が悪いみたいではないか。このクソガキが。」
なぜか格好悪い大人の顔で舌打ちをしながらも走り続ける男。
「はっ!?えっ!?離せよ!」
意識がはっきりとしてきたセトが抱えられながらもがく。
すると、別の男の声がセトの耳へとはっきり届いた。
「あばれなーい、あばれない」
気がつくと隣を別の男が並走していた。
だらしのない見た目の男だ。蓬髪頭に着崩したシャツにコート。
オマケに眠そうな瞳。
えっと動揺するセトを他所にふたりはそのまま走り路地を曲がった。
「えー……あれ、大佐では……?」
一方そんな逃走劇を唖然と見ていた軍人のうちの一人。
彼はパトカーに手をかけながら呆然と口を開けて走り去る男を眺め、間抜けな顔で疑問を浮かべ首を傾けた。
#3
明かりのほとんど入らない薄暗い路地に入ると、二人の男は動きを止めた。
先程の大通りよりも薄暗い街灯は月明かりに負けチカチカと点滅を繰り返している。
「ここまでは、軍もおってこないんじゃないかな」
だらしの無い見た目の細い若い男が明かりの漏れている大通り、来た方向を見た。
「ここからは我々の管轄ではないからな。あとは好きにするといい」
そう言いセトを担いでいた男は、セトを地面に下ろしこちらに背を向け、カツカツと静かに音を立てながらこちらに背を向け暗闇の中へと去っていった。
「おーい、少年、生きてるー?」
痛みを堪えた顔で建物の壁に寄りかかり座り込んでいるセト。
その言葉にゆっくりと目を開ける。
景色がぼんやりと映る。
(酒臭い——)
さらに不満そうな顔で眉間に皺を寄せた。
「僕の名は月宮 コウ(ツキミヤ コウ)。君は?」
蓬髪頭の男がポケットから手を出しセトに手を差し伸べようとする。
(——ッッ)
その手の動きにセトが一瞬、びくっと明確に怯えた。
そして思いっきり目を瞑る。
その反動で手で顔を覆う。
梟の鳴き声が響き渡る。
それを見た月宮の瞳孔が一瞬開くがそのまま手を差し伸べる。
「まあまあ、そんなに警戒しなくてもいいのだよ」
怖い……?
ゆっくりと目を開き差し伸べられた手を見るセト。
そのまま恐る恐る手を取ると月宮に引っ張られながら立ち上がる。
「俺は……伊座ナミ セト(イザナミ セト)……。」
セトが月宮から離れるようにしてそっぽを向きそう言った。
「ふむ……」
君が例の……と月宮がセトを見定めるように見る。
「よし、セト君、うどん屋行くよ」
ぱちんと閃いたように唐突に月宮が歩き出した。
「えっ!ちょ、うどん?えっ?」
その背中に向かってセトが戸惑い顔をあげる。
伸ばした手が届かない。
「いやだって君……」
月宮が立ち止まり振り返り指を指す。
セトのお腹がぐぅーっとなった。
あっ、とセトが自分の腹を見る。
「お腹すいてるでしょ?」
#4
暗い路地で唯一光る看板には『おっちゃん特製ぶっかけうどん』の文字。
その店内、客はわずか二人。
ズズズっ
うどんを貪るセトの手も口も止まらない。
「幸せそうに食べるねぇ……三十二杯目だなんて……」
向かいの席で少し引き気味に笑みを浮かべながら頬杖を着き月宮がセトを見ていた。
しかしセトは気にせずに食べ続ける。
机には沢山の器が積まれていた。
月宮がふわぁと欠伸をする。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
セトが三十二杯目のうどんを食べ終わると月宮が言った。
「んえ?」
さらにおかわりを頼もうと伸ばした手を途中で止めセトは月宮を見た。
手が悲しく下へと沈んでいく。
「セト君さ、だいぶ派手に暴れたみたいで、逮捕状がでてるんだけど」
「え!?」
(さっきの色々破壊した事か……?いやでもあれはあの化け物が悪いし——)
心当たりしかない。
だって実際軍が追いかけてきた訳だし。
(——やべぇ)
にっこにこの月宮にセトは目を逸らし笑うしかないと言わんばかりに口を開けたまま口角を上げる。
が、冷や汗が垂れる。
「まあでも、逮捕状とは言ってもどちらかと言えば保護かな」
「……?」
へ?と腑抜けた顔でセトが月宮を見る。
相変わらず笑顔の月宮。
「なんでとは言わせないよ」
「なんで?」
「……」
笑顔のまま止まる月宮。
「本当に何も知らないんだ……」
月宮がああ、と笑った。
セトはわけがわからず月宮を睨む。
「だってほら、君はラズライトとしての能力を勝手に使って勝手に暴れたでしょ?」
「ラズライト……?」
首を傾げる。
それと同時にコップの中の氷がカランと音を立てた。
「やっぱり知らないか……」
月宮がやれやれとため息をつく。
知らないったって……。
セトがさらに首を傾げた。
「君はさっき、拳に炎を纏っただろう?」
月宮がセトの手を指さす。
セトはそれに驚いたあと自分の手を見つめる。
「ああ、これ……」
そして自分の手を確認するようにぐーぱーさせた。
「なんか気づいたら使えるようになっててそれで……」
「それで?」
「ヒーローにでもなれたのかと思った!」
セトがキラキラと目を輝かせながらドヤ顔をした。
月宮の顔ががくっと頬杖から外れる。
「う、うーん、そうだね。」
(それで隙をついて家を出て——)
一瞬だけセトの顔から感情が抜け落ちたように無表情になりハイライトが消えた。
のもつかの間。
「……もしかしてこの力を使ったのがやばかった!?」
元通りの少年らしく驚きの表情で月宮を見る。
「そうそう。やばかった」
月宮がいえすと指を鳴らす。
「要は君は能力者で、その力を無闇矢鱈に使ってたらお国のお偉いさんから野放しにするなって指示が出た僕らが拾いに来たってわけだ。」
月宮が説明を始めると店長のおっちゃんがビールを片手にやってきた。
「あいよ!」
生ビールの入ったジョッキが店長によって勢いよくテーブルの上に置かれる。
そして月宮が一気にビールを飲み干した。
「っ……」
セトがそれを見てまたびくりと少し動揺する。
そして嫌なものでも見るような目で月宮の手元のジョッキを遠くから睨んだ。
「ラズライトってのは君みたいに普通の人が持っていないような能力を開花させた者のこと」
月宮がセトを横目にジョッキをそっとテーブルに起き話を続ける。
「能力……」
「さっき影が襲ってきたでしょ?」
「ああ、あの化け物……」
セトはジョッキから目を逸らし月宮を見る。
結露がジョッキの外を覆う。
「それ、カゲツキって言って人間の負の感情から生まれ、伝染し増え、人を襲う。」
カゲツキ……
先程の化け物を思い返す。
人間の負の感情から生まれ、人を襲う……。
「大昔、それに対抗するように能力持ちの人間が現れた」
セトが肩からズレたローブを手で直す。
「それが能力者、ラズライト」
月宮の真面目な笑みがセトを捉える。
「……ヒーロー……?」
セトが無意識に呟く。
「ラズライトはカゲツキを倒す反抗勢力。人々の希望の光だ」
月宮はそれをこぼさないよう頷いた。
「でもその能力を悪用するものが現れたら?国の反乱勢力になったら?」
セトがごくりと唾を飲んだ。
月宮が目を細め口を開く。
「危険すぎる。」
はっとセトが机を見つめた。
「だから国が全て管理する決まりになってる。ラズライトになってしまえばどう、国の管轄下に入るしかないわけだ。」
月宮が頬杖をついたまま覗き込むように不敵な笑みを浮かべた。
悪魔のようなその笑み。瞳の奥には何が写っているのだろうか。
「ッ!」
セトが勢いよく立ち上がる。
テーブル上の食器が音を立てた。
そして出口へと走る。
焦りが顔へと滲み出る。
(ようやく——!ようやく自由になれたんだ!こんな所で——!)
直感でわかった。
ここにいては行けない。
しかし次の瞬間月宮の声が響く。
「どこかあてはあるのかい?」
店の出口の手前でセトが立ち止まった。
月宮が冷たい視線でセトを見ていた。
「家には帰れないんだろう?」
そしてそのまま興味が無さそうな顔をした。
「ッ!」
その言葉にセトがなにか言いたそうにばっと勢いよく振り返った。
月宮がセトの腕を見る。
焼けこげた片方の袖は肘の長さまでしかない。
そこから顕になっているのは新しいものから古いものまで、幾つもの痣や傷。痛々しく覗いていた。
その視線に気がつきセトが腕を後ろに隠し歯を食いしばり床を見つめる。
(でもッ!)
セトが歯を食いしばる。
こんな所で——
「こんな所で!こんな所でまた誰かに閉じ込められている訳にはいかないんだ!」
こちらを見ている月宮の方へと顔を上げ叫ぶ。
店長が驚いた顔でその様子をカウンターから見守っている。
「俺にはやらなくちゃいけない事が——ッ」
「兄を探すんだろう?」
月宮の言葉がセトの焦った叫びを遮った。
「!」
月宮がふふっと笑いセトを見た。
セトが唖然として、何故それをと目を見開く。
「ああ、これは正規情報。ルートは秘密」
月宮がまた優しく微笑んだかと思えばにまっと笑みを浮かべた。
「正規情報?ルート?だって俺は誰にも——」
「そこでひとつ提案!」
手を叩き立ち上がる月宮。
「ヒルガオの社員にならないかい?」
セトの方へと歩み寄りながら言う月宮。
笑顔を絶やさない。
「ヒルガオ……?」
「ラズライトたちが集まる何でも屋」
「何でも屋って……」
「ヒルガオに所属してくれれば逮捕もされないし、仕事をやってくれればあとは自由に行動してもらって構わない」
ある程度の距離を保った所で立ち止まり月宮は続ける。
セトが一歩後ずさる。
「それに、情報もあげるよ。」
「でもそんなことしてる暇は——」
「別にここから逃げ出してもいいけど、軍も黙っちゃいないよ。」
ふうんと腕を組んで他人事のように月宮が言う。
「さっきも言ったよね。別に自由行動していいよ。軍じゃあるまいし」
セトは迷ったように目を瞑ってうーんと考えたあとカッと目を見開く。
「騙されるかッ」
するとすぐ目の前に月宮がいた。
近距離で目が合う。
「騙してないし」
月宮がセトの目を捉え決して離そうとしない。
しばらくの沈黙の後、セトが口を開いた。
「本当に……嘘じゃない?」
「当たり前」
月宮が指を鳴らした。
セトがはぁぁあと、大きく溜息をつき何かを決心したように拳を握る。
「まあでも、兄さんも探せて誰かを救うことが出来るなら、一石二鳥だよな……」
自分に言い聞かせるように言葉に出す。
「よし!おっちゃん!ご馳走様!お金は置いといたよ!」
月宮が満足気な顔でそう言って歩き出そうとした。
「え?まだ——」
突然すぎる状況にセトが月宮を止めようとする。
すると突然月宮がセトの目の前まで顔をちかづけた。
「っ……」
フワッと漂った酒の匂いに先程までの元気はどこへやら、セトが身震いをし怯えたように身構えた。
「……君、僕のこと嫌い?」
あえて顔の近くまで近づきめを細め月宮が聞いた。
「……別に」
そのままそっぽを向くセトを横目に、ふぅーんと月宮が店を出る。
「おう!また来いよ!」
先程の月宮の言葉に答えるように厨房から店長の声がした。
店を出た月宮が振り返る。
「じゃ、行こうか」
「……ああ」
セトがそれを追うように一歩踏み出した。

