HERO of Music


 「私が守るんだ。この世界を」
 
 路地から突然花びらが閃光のように飛び出し真っ直ぐに列車目掛けて進んでいく。
 
 人々は当然のことに振り返るがその花は既に列車へと到着しており壊れたトランペットのような大きな化け物、ノイズへと一直線にロットを振り突き刺した。
 
 バランスを崩したノイズの手から列車が離れ急降下を始める。
 
 「あっ!」
 
 ムジカがロットを振ると列車はそれに引っ張られるように降下をゆっくりと止め慎重に線路へと戻された。
 
 それを見て安心したようにムジカが線路の上にひらりと舞い降りた。
 
 ノイズはやがて体制を立て直すと再びムジカ目掛けて耳障りな不快な音で空気を震わせながら攻撃を仕掛ける。
 
 つかさずムジカはロットを横へと振る。
 
 するとそれは花びらに包まれたかと思うと形を変えムジカの背丈の半分以上ある大きな銃となった。
 
 ムジカがそれを構え姿勢を低くし向かってくるノイズに狙いを定める。
 
 エネルギーをためた銃口が光を膨らませやがて全てを解き放ちそれらは一直線にノイズを撃ち抜いた。
 
 グガァァァア
 
 ノイズがさらに嫌な音を立てる。
 
 耳を劈くその音に人々は眉間に皺を寄せ目を瞑り耳を思いっきり抑える。
 
 ムジカが静かに武器を横に振ると武器は花びらに包まれ消えた。
 
 ぎぃいぃぃい
 
 町中の空気を轟かすノイズの声の中にぽた、とまるで静寂に落ちる雫のように優しい音が突然現れた。
 
 「————♪」
 
 全てを包み込むベールのように優しく、しかし心臓を揺らすほどの力強さを持ったバラの花のように美しい歌声がノイズの叫びをかき消すように空気を穏やかに震わす。
 
 それは、長年人々が忘れていた記憶。
 
 音楽。
 
 その心地よい歌声に人々はゆっくりと手を耳から離し思わずまた上を見上げる。
 
 止まっている列車の上を軽やかに歩き、回っては飛び、そしてまた歩きながらムジカは歌っていた。
 
 手を伸ばしては揺れ、自分の全てをさらけだし世界を優しく包み込む彼女の歌声に皆が聞き入った。
 
 やがてノイズの声は完全に消え、その化け物は美しい花びらとなって空へと散っていった。
 
 ムジカが歌い終わり線路へ降り立つとゆっくりと目を開く。
 
 視線を感じ目をぱちぱちと開いて当たりをキョロキョロとびっくりしたように見回す。
 
 「あ、えっ!?えっと……」
 
 忙しくキョロキョロと周りを見渡したあと、はてなと首を傾げる。
 
 辺りの静けさがよりムジカの腑抜けた声を響かせた。
 
 暫くの沈黙が続く。
 
 すると突然、下からどっと大きな感性が上がった。
 
 ムジカが大きな瞳をさらに大きくしてその光景を見る。
 
 「!?」
 
 ムジカの体が前へふわっとおおきくゆれた。
 
 列車から出てきた人々がムジカをばっと抱きしめたのだ。
 
 人々はわらわらと列車から出てくる。
 
 よかった、よかったと涙を流していた。
 
 「ちょっ、大丈夫!?泣かないで」
 
 囲む人々をムジカが慌てて心配そうに見回す。
 
 すると誰かが大きな声で言った。
 
 「ありがとう。本当にありがとうね」
 
 涙の混じった、けれども悲しくない、嬉し涙の混じった喜びの感謝の声。
 
 ムジカの顔になにかがぶわっと走る。
 
 ありがとう——
 
 ほかの人々もそれにつられ感謝の言葉を口にする。
 
 ありがとう
 
 ムジカが下を向いたかと思うと大きな瞳をさらに輝かせ太陽のような笑顔で周りを見た。
 
 「うん!もう大丈夫だよ!」
 
 ムジカのその優しく元気な言葉に人々の歓声はさらに大きくなった。
 
 
 
 
 こっちには何があるの?
 
 相変わらず輝きをともしたその瞳は真っ直ぐと前を見ていた。
 ムジカは先程の大通りをあとにし街を眺めながらルンルンと進み続けた。
 
 行くあてもなく。
 
 ぐぅぅう……
 
 お腹から大きな振動が伝わる。
 
 「あ……」
 
 ムジカはその場に立ち止まり自分の腹を見つめた。
 
 それから何分だっただろうか。
 
 ムジカはその場を動くことなくただ腹を見つめて何かを考えていた。
 
 そしてようやくぱっとまるで難しい問題の答えが導き出された時のようにスッキリとした顔で前を向く。
 
 「お腹が空いたんだ!」
 
 しかし前を向いたムジカの視界は暗かった。
 
 「えっ!?」
 
 思わず目を丸くしてぱちぱちと瞬きをする。
 
 目の前には黒いネクタイ。
 
 「先程のノイズを倒したのはお前か」
 
 低い、けれどもどこか浅い青年の声が耳に届く。
 
 影を落とした正体は目の前にいるスーツ姿の青年であった。
 
 ムジカはゆっくり上を見上げる。
 
 まるで見下すように青年の何も移していなそうな瞳がこちらを捉えていた。

 「あ、さっきのね!うん、私が——」
 
 ムジカが言い切る前に青年が口を開いた。
 
 「少し付き合ってもらおうか」
 
 青年が問答無用とでも言うように半ば強引にムジカの手を引き無言で歩き出した。