透明に堕ちるわたしの輪郭

 潮の香りが孕んだ風が頬に触れる。胸元まで流した私の髪も微かに揺れている。もう何日も洗ってない髪の毛は随分傷んでしまったようにみえる。お風呂には入りたいと何度か思ったけれど、その気力も体力も私には無かった。蛇口を捻り溢れ出る水が身体に触れただけで、私の活力やこの透明な肉体までもが排水口に流れていきそうで恐怖すらあった。

「路花、車に乗ってくれるかい?」

 車のドアに手をやりながらお母さんが声をかけてくる。私は防波堤に添えていた手をふっと持ち上げちいさく頷いた。この肉体を手に入れてから、初めて外に出たのが昨日。その日は目覚めた時から不思議と気分が良かった。久しぶりに海の匂いを身体に取り込みたいと思ったのと、私の肉体を陽の光にかざしたらどんな風に輝くのか試してみたくなったのだ。

 車に乗り込むとお母さんが発進させた。今日は里中先生のところにいくらしい。防波堤の更に向こうに広がる海がきらきらと星みたいに瞬くその様を、私は横目に眺めた。