透明に堕ちるわたしの輪郭

 翌日の昼過ぎから凪と鮎人と一緒に私の家の近くにある海辺に向かった。凪は会った瞬間、「わー路花ー」と抱きついてきて私は相変わらずの距離感の近さに驚くばかりだったが、たった一週間会ってなかっただけなのに何故か懐かしさみたいなものがこみ上げてきて、私も身体を抱きしめる手に力が入った。

 三人で砂浜に腰を下ろし他愛もない話をした。お昼ご飯にはお母さんが用意してくれただし巻き卵と唐揚げをおかずにおにぎりを頬張り、寄せては引いて砂浜を湿らせる波を眺めた。不思議な心地だった。鮎人とは確かに以前から友達だったが、凪とはつい最近知り合ったばかりだ。なのに、もう子供の頃からずっと友人関係だったような心地良さがあった。私が前日に鮎人に買って貰った透明なガラス玉をみせると、「えーかわいい。いいなあ」と唇を尖らせたまま露骨に羨ましがってくれるので、私も嬉しくなってつい「みてみてこうやってやったら太陽を捕まえられんの」と空にかざしてみせた。ふいに潮の香りを孕んだ風が強く吹き抜けて髪がふわりと舞い上がった為に、髪をよけようとした拍子に手からガラス玉を落としてしまった。

 すぐに拾い上げたけれど、一瞬で砂まみれになってしまった。せっかく鮎人が買ってくれたのにと思い、私は急いで海辺へと駆け出した。濡れてしまわないように袖をめくり、波打ち際でガラス玉についた砂を落としていた時だった。

「路花、とれた?」

 辺り一帯には波の音と強い風の音で満ちていた為、凪が後ろから追いかけていた事に気づかなかった。離れたところにいると思って袖を戻さず振り返ると、凪の送る視線の先に私の左手首があることに気付いたが遅かった。凪がふっと悲しげな表情をしたのだ。私は咄嗟に袖を直したけれど、何も見てなかった事には出来なかったように思う。けれど、凪は無理にでも笑みを作ってくれたので私自身もまあいっかと鮎人の元へと駆け出した。鮎人は私が走る姿をみて腕の振り方がおかしいと声をあげて笑った為、話の流れで誰が一番砂浜で早く走れるかを決める競走をすることになった。鮎人はハンデとして十メートルくらい後方からスタートしてくれたが、結果一位は鮎人で二位が凪、そして最下位が私だった。私はいつか必ずリベンジする為、毎日走り込みをすることを決めた。

 夕暮れ前まで海辺で過ごし、ちょっと寄ったらと凪を初めて家に招待した。お母さんは素早く瞬きをしながらも「よく来てくれたねえ」とにんまりと笑みを溢し、三人で横並びになってアイスを食べた。お母さんは私が友達を二人も連れてきたものだから嬉しそうだった。夜ご飯も一緒にどうと誘ったけれど、二人はさすがにそれは悪いからと日が落ちる少し前に帰っていった。