『昼間の私にお願いがあります。いつも鞄からさげているガラス製の透明な球体。あんな感じのやつを雑貨屋かどこかで買ってきて貰えませんか? なんだか今、無性に透明なものに惹かれていて夜はいつも特にすることもないし眺めていたいんです。突然無茶なお願いをしてごめんなさい。』
お昼休み、食堂の列に並びながら注文を待っている間に昨夜の夜の私の日記に目を通した。列にはクラスメイトが何人か並んでいた。皆楽しげに笑い、何やらメニューに指を指している。あれから浅川さんは学校に来ていない。あの日、白石先生は浅川さんは一連の件への関与を否定していると言っていた。だが、翌日の朝礼で一変した。浅川さんが関与を認めたらしかった。
──水槽のなかの魚を殺したのは僕です。僕が酸素の供給を止めても誰かがまたスイッチを押すかもしれない。うつくしさを見せびらかすあいつらが、特別な存在になれるのかどうかのテストをしました。
結果、浅川さんは一週間の停学処分になった。事態が解決したことでクラスには平穏が訪れた。友達だから心配はしていたけれど、浅川さんの連絡先を私は知らない。そもそも携帯すら持っていない。なにも分からない、なにも知ることが出来ない、という現状から私は浅川さんを待つことを決めた。だって、友達だから。
夜の私の日記に再び目を落とし、透明な球体かーと頭に思い浮かべてみる。確かにあれは私にとっても大切なものだけれど何で突然と思っていた時、私の番が回ってきた。券売機には名前をみただけで食欲を駆り立てられるようなメニューがずらりと並んでいる。本当は私の大好きなcランチを頼みたいところだけれど、あれは毎週水曜日と金曜日だけの限定メニューで今日は火曜日だ。うーん、と頭を悩ませた結果一番ハイカロリーなカツカレーにした。揚げ物、油、カロリー。とにかく私は毎日それを摂取したい。
受け取り口から湯気をあげるカツカレーを受け取り、空いている席に腰を下ろした。次から次にカレーのルーとご飯とカツを口に運んでいると、野球部のグループと笑いながら食堂に入ってくる鮎人と目があった。鮎人がすっと手を持ち上げた為に私もよっと手をあげる。しばらくすると、トレイを手にした鮎人が私の前に腰をおろしてきた。
「えっ、いいの」
「何が?」
「野球部の皆と来てたじゃん。ほら、加藤くんとか」
「俺は路花と食べたくて来たんだよ。あいつらとはたまたま行き先が同じだったから一緒に来ただけ」
言いながら、鮎人はうどんが入ったおわんに七味を振りかけている。ちらっと私のお皿に目をやると白い歯をみせて笑った。
「それにしても、よくそんだけ毎日高カロリーな食べ物食べて太らないよな。お前の身体一体どうなってんの」
「いやいや鮎人だってハイカロリーじゃん」
鮎人のうどんのおわんの隣には大盛りの親子丼が湯気を立てているのだ。
「俺は毎日じゃないとはいえ練習で走ってるからしっかりとカロリー消費してんの」
最もな理由を並べられむっとして「私だって」と口走ってしまう。瞬間、鮎人が声をあげて笑う。
「なんだ? いつお前が走ってんだよ。運動のうの字も知らないくせに」
「はあ? あったまきたっ、私だって走ってはないけどけっこう歩いてるから。今日だって学校終わりに雑貨屋行くし」
「雑貨屋? 何しに?」
問われ、「夜の」まで言いかけて踏み留まった。危ない危ない。また怒られるところだった。
「ほら、私透明なもの好きじゃん。鞄からさげてるあの球体みたいな新しいやつ欲しいなって思って」
「へーじゃあ俺も行こっかな」
「えっ練習は? いいの? なんか最近サボってばっかじゃない?」
鮎人はどうやら同学年どころか部活内でもかなり野球が上手いらしく、以前は本気でプロを目指していたと加藤くんから聞いたことがあったのだ。
「いいの。野球はもう、今は本気でやってないから」
ぽつりとそう呟き、勢いよくうどんを啜った。咀嚼してから呑み込むと「だから本当はもう辞めたいんだよな野球部」とからっとした表情で言うものだから私は驚いてしまった。
「えっ、なんで?」
「俺以外の全員はさ本気で甲子園目指してんだよ。中にはプロにいきたいって奴もいる。そんな中で俺みたいな奴がいるのはでデメリットはあってもメリットなんかないだろ? だから監督には一度辞めますって言ったんだけどさ、勿体ないから続けろって。でも、スタメンの席だけはやっぱり奪いたくなかったから試合には今後出ないって了承貰ってんの。さっきも言ったけど俺みたいな奴がいるのは本当は良くないんだよ。でも、あいつら、ほらいい奴ばっかりだからさ誰も俺のことを悪く言わないんだよ」
鮎人は目を細め、悲しそうな、それでいて少しばかり嬉しそうな不思議な表情をしていた。私たちの間にある空気が途端に湿り気を帯びた気がする。鮎人はそんな空気を打ち消すかのように「まあ、だから俺は好きにやらせて貰ってるって訳。これも才能かもな」と顔をキリッとさせた。
「今日は休ませて貰うことにして路花の買い物についてくわ。それに、どっちみち明日のことで予定詰めなくちゃいけないしな」
明日と言われ首を傾げる。鮎人は「えっお前まじ?」と目を見開いた。
「なに? 明日なんかあんの? っていうか、明日って水曜日だけど祝日じゃなかったっけ?」
「そうだよ。だから凪と三人で遊ぶ約束したんだろ?」
瞬間、「あーーっ!!」と声を張り上げてしまう。この一週間いろいろとあり過ぎて正直身も心もへとへとですっかり頭から抜け落ちけしまっていたのだ。
「まじかお前。凪、泣くぞ? あいつめちゃくちゃ楽しみにしてんのに」
「えっ、っていうか凪と鮎人ってそんなに仲良くなったの?」
「あーいや、予定を決めてる内に仲良くなったんだよ。ほら、俺たち連絡先交換したじゃん。路花が携帯持ってないから」
「あっそうか、そうだったね」
私はもう既にぬるくなってしまったカツカレーをスプーンで口に運んだ。咀嚼しながらふいに思い立ち、口元を手で隠しながら「さっきの話、凪には内緒にしてよ」と目を向ける。鮎人は分かってるよ、と呆れたような笑みを浮かべた。
「じゃあ、放課後な」
「うん!」
食堂の至るところから差し込む白いひかりに包まれながら、私たちは笑みを交わした。
お昼休み、食堂の列に並びながら注文を待っている間に昨夜の夜の私の日記に目を通した。列にはクラスメイトが何人か並んでいた。皆楽しげに笑い、何やらメニューに指を指している。あれから浅川さんは学校に来ていない。あの日、白石先生は浅川さんは一連の件への関与を否定していると言っていた。だが、翌日の朝礼で一変した。浅川さんが関与を認めたらしかった。
──水槽のなかの魚を殺したのは僕です。僕が酸素の供給を止めても誰かがまたスイッチを押すかもしれない。うつくしさを見せびらかすあいつらが、特別な存在になれるのかどうかのテストをしました。
結果、浅川さんは一週間の停学処分になった。事態が解決したことでクラスには平穏が訪れた。友達だから心配はしていたけれど、浅川さんの連絡先を私は知らない。そもそも携帯すら持っていない。なにも分からない、なにも知ることが出来ない、という現状から私は浅川さんを待つことを決めた。だって、友達だから。
夜の私の日記に再び目を落とし、透明な球体かーと頭に思い浮かべてみる。確かにあれは私にとっても大切なものだけれど何で突然と思っていた時、私の番が回ってきた。券売機には名前をみただけで食欲を駆り立てられるようなメニューがずらりと並んでいる。本当は私の大好きなcランチを頼みたいところだけれど、あれは毎週水曜日と金曜日だけの限定メニューで今日は火曜日だ。うーん、と頭を悩ませた結果一番ハイカロリーなカツカレーにした。揚げ物、油、カロリー。とにかく私は毎日それを摂取したい。
受け取り口から湯気をあげるカツカレーを受け取り、空いている席に腰を下ろした。次から次にカレーのルーとご飯とカツを口に運んでいると、野球部のグループと笑いながら食堂に入ってくる鮎人と目があった。鮎人がすっと手を持ち上げた為に私もよっと手をあげる。しばらくすると、トレイを手にした鮎人が私の前に腰をおろしてきた。
「えっ、いいの」
「何が?」
「野球部の皆と来てたじゃん。ほら、加藤くんとか」
「俺は路花と食べたくて来たんだよ。あいつらとはたまたま行き先が同じだったから一緒に来ただけ」
言いながら、鮎人はうどんが入ったおわんに七味を振りかけている。ちらっと私のお皿に目をやると白い歯をみせて笑った。
「それにしても、よくそんだけ毎日高カロリーな食べ物食べて太らないよな。お前の身体一体どうなってんの」
「いやいや鮎人だってハイカロリーじゃん」
鮎人のうどんのおわんの隣には大盛りの親子丼が湯気を立てているのだ。
「俺は毎日じゃないとはいえ練習で走ってるからしっかりとカロリー消費してんの」
最もな理由を並べられむっとして「私だって」と口走ってしまう。瞬間、鮎人が声をあげて笑う。
「なんだ? いつお前が走ってんだよ。運動のうの字も知らないくせに」
「はあ? あったまきたっ、私だって走ってはないけどけっこう歩いてるから。今日だって学校終わりに雑貨屋行くし」
「雑貨屋? 何しに?」
問われ、「夜の」まで言いかけて踏み留まった。危ない危ない。また怒られるところだった。
「ほら、私透明なもの好きじゃん。鞄からさげてるあの球体みたいな新しいやつ欲しいなって思って」
「へーじゃあ俺も行こっかな」
「えっ練習は? いいの? なんか最近サボってばっかじゃない?」
鮎人はどうやら同学年どころか部活内でもかなり野球が上手いらしく、以前は本気でプロを目指していたと加藤くんから聞いたことがあったのだ。
「いいの。野球はもう、今は本気でやってないから」
ぽつりとそう呟き、勢いよくうどんを啜った。咀嚼してから呑み込むと「だから本当はもう辞めたいんだよな野球部」とからっとした表情で言うものだから私は驚いてしまった。
「えっ、なんで?」
「俺以外の全員はさ本気で甲子園目指してんだよ。中にはプロにいきたいって奴もいる。そんな中で俺みたいな奴がいるのはでデメリットはあってもメリットなんかないだろ? だから監督には一度辞めますって言ったんだけどさ、勿体ないから続けろって。でも、スタメンの席だけはやっぱり奪いたくなかったから試合には今後出ないって了承貰ってんの。さっきも言ったけど俺みたいな奴がいるのは本当は良くないんだよ。でも、あいつら、ほらいい奴ばっかりだからさ誰も俺のことを悪く言わないんだよ」
鮎人は目を細め、悲しそうな、それでいて少しばかり嬉しそうな不思議な表情をしていた。私たちの間にある空気が途端に湿り気を帯びた気がする。鮎人はそんな空気を打ち消すかのように「まあ、だから俺は好きにやらせて貰ってるって訳。これも才能かもな」と顔をキリッとさせた。
「今日は休ませて貰うことにして路花の買い物についてくわ。それに、どっちみち明日のことで予定詰めなくちゃいけないしな」
明日と言われ首を傾げる。鮎人は「えっお前まじ?」と目を見開いた。
「なに? 明日なんかあんの? っていうか、明日って水曜日だけど祝日じゃなかったっけ?」
「そうだよ。だから凪と三人で遊ぶ約束したんだろ?」
瞬間、「あーーっ!!」と声を張り上げてしまう。この一週間いろいろとあり過ぎて正直身も心もへとへとですっかり頭から抜け落ちけしまっていたのだ。
「まじかお前。凪、泣くぞ? あいつめちゃくちゃ楽しみにしてんのに」
「えっ、っていうか凪と鮎人ってそんなに仲良くなったの?」
「あーいや、予定を決めてる内に仲良くなったんだよ。ほら、俺たち連絡先交換したじゃん。路花が携帯持ってないから」
「あっそうか、そうだったね」
私はもう既にぬるくなってしまったカツカレーをスプーンで口に運んだ。咀嚼しながらふいに思い立ち、口元を手で隠しながら「さっきの話、凪には内緒にしてよ」と目を向ける。鮎人は分かってるよ、と呆れたような笑みを浮かべた。
「じゃあ、放課後な」
「うん!」
食堂の至るところから差し込む白いひかりに包まれながら、私たちは笑みを交わした。
