最近学校で良くないことが起こっている。そんな風に感じたのは昼間の私と朝の私の日記の内容に異変が生じたからだった。壁の落書き、目玉を突きされた魚、更には水槽内の魚が殺された。それだけのことが起きていても尚、わたしはどこか他人事だった。どうせわたしには関係ない。何故ならどう頑張っても彼女たちが生きる世界には足を踏み出すことが出来ないからだ。この夜から生み出された世界からは、決して抜け出せない。
わたしが日頃することといったら二人の日記に目を通し、大切にしている透明な置き物たちを眺めること、あとは悠と話すか手首を切ることくらいだ。痛みは悲しみと苦しみを和らげてくれる。言わば、わたしの精神安定剤みたいなものだった。もう何度も切り刻まれ肉が盛り上がった手首をみて思う。痛みが崇高なものに思えたのはいつからだろう。いや、そもそもわたしはいつからこの世界に閉じ込められたのだろう。記憶がない半年前より後なのかそれとも前なのか、今となってはもう思い出せない。なんだか最近は身体がずっと重い。ベッドに身体を預けていたら、そのまま沈み込んでいってしまうような気すらする。悠は部屋の隅っこで積み木をして遊んでいた。あんな積み木いつ買って貰ったんだろう。少ないともわたしは買ってあげてないから、もしかしたらお母さんが買い与えたのかもしれない。
ぼんやりと天井をみあげ、それから時計に目をやった。時刻は九時を差したばかりだった。既に眠い。ベッドに身体を預けている内に、わたしの意識はゆっくりと溶けていった。
わたしは平原にいた。くるぶしよりも更に低い草が一面に生い茂るその場所で、わたしは背を預け空を見上げていた。触れてしまっただけで割れてしまいそうな程に透き通る空のなかを、どこからか流されてきた雲の切れ端が風に流され横切っていく。それが完全に通り過ぎてから太陽が姿を現した。季節は春や秋だろうか。直視しても眩し過ぎない程度の柔らかなひかりが降り注いでいた。そのときだった。ふいにわたしが身体を起こした。平原の向こう側から誰かが歩いてくる。顔は見えなかったが、わたしその誰かに空や陽の光の美しさを教えている様子だった。誰かはふわりと微笑むとポケットからガラス製の球体を取り出した。その頃には手のひらを広げていて、その球体を置いてもらった。ただのガラス玉だったように思う。けれど、何故かわたしはそれを大切そうに握りしめ、最後はその手ごと胸に抱き寄せた。
気付いたら眠ってしまっていたようだった。薄く開いた瞼から煌々とした部屋の明かりが差し込んできて思わず目を眇める。時計に目をやると深夜一時を過ぎたばかりだった。身体を伸ばしながら、ついさっきみた夢をあめ玉みたいにして頭のなかで転がした。わたしは夢をよくみる。でもあれは、初めてみた夢だった。なんだろう、と思わず胸に手を添える。不思議な心地だった。別になにかが起きた訳でもないのに満たされたような感覚を覚える。
「……あのガラス玉」
部屋のなか一人呟いた時、似たような形状のものを思い出す。すぐにベッドから身体を起こし、普段学校に持っていっている指定の鞄を手に取った。やっぱり、と思う。ファスナーのところからキーホルダーで吊るされているそれは、正しく夢でみたものと同じ形状だったのだ。これ、いつ付けたんだろう。覚えてない。いや、そもそもいつ買ったかすら思い出せない。けれど、何故か今のわたしにとってはこの世の何よりも美しいものに思えた。透明な球体。それを手にし胸に抱き締めた時、微かに温もりを感じた。
わたしが日頃することといったら二人の日記に目を通し、大切にしている透明な置き物たちを眺めること、あとは悠と話すか手首を切ることくらいだ。痛みは悲しみと苦しみを和らげてくれる。言わば、わたしの精神安定剤みたいなものだった。もう何度も切り刻まれ肉が盛り上がった手首をみて思う。痛みが崇高なものに思えたのはいつからだろう。いや、そもそもわたしはいつからこの世界に閉じ込められたのだろう。記憶がない半年前より後なのかそれとも前なのか、今となってはもう思い出せない。なんだか最近は身体がずっと重い。ベッドに身体を預けていたら、そのまま沈み込んでいってしまうような気すらする。悠は部屋の隅っこで積み木をして遊んでいた。あんな積み木いつ買って貰ったんだろう。少ないともわたしは買ってあげてないから、もしかしたらお母さんが買い与えたのかもしれない。
ぼんやりと天井をみあげ、それから時計に目をやった。時刻は九時を差したばかりだった。既に眠い。ベッドに身体を預けている内に、わたしの意識はゆっくりと溶けていった。
わたしは平原にいた。くるぶしよりも更に低い草が一面に生い茂るその場所で、わたしは背を預け空を見上げていた。触れてしまっただけで割れてしまいそうな程に透き通る空のなかを、どこからか流されてきた雲の切れ端が風に流され横切っていく。それが完全に通り過ぎてから太陽が姿を現した。季節は春や秋だろうか。直視しても眩し過ぎない程度の柔らかなひかりが降り注いでいた。そのときだった。ふいにわたしが身体を起こした。平原の向こう側から誰かが歩いてくる。顔は見えなかったが、わたしその誰かに空や陽の光の美しさを教えている様子だった。誰かはふわりと微笑むとポケットからガラス製の球体を取り出した。その頃には手のひらを広げていて、その球体を置いてもらった。ただのガラス玉だったように思う。けれど、何故かわたしはそれを大切そうに握りしめ、最後はその手ごと胸に抱き寄せた。
気付いたら眠ってしまっていたようだった。薄く開いた瞼から煌々とした部屋の明かりが差し込んできて思わず目を眇める。時計に目をやると深夜一時を過ぎたばかりだった。身体を伸ばしながら、ついさっきみた夢をあめ玉みたいにして頭のなかで転がした。わたしは夢をよくみる。でもあれは、初めてみた夢だった。なんだろう、と思わず胸に手を添える。不思議な心地だった。別になにかが起きた訳でもないのに満たされたような感覚を覚える。
「……あのガラス玉」
部屋のなか一人呟いた時、似たような形状のものを思い出す。すぐにベッドから身体を起こし、普段学校に持っていっている指定の鞄を手に取った。やっぱり、と思う。ファスナーのところからキーホルダーで吊るされているそれは、正しく夢でみたものと同じ形状だったのだ。これ、いつ付けたんだろう。覚えてない。いや、そもそもいつ買ったかすら思い出せない。けれど、何故か今のわたしにとってはこの世の何よりも美しいものに思えた。透明な球体。それを手にし胸に抱き締めた時、微かに温もりを感じた。
