全校集会が終わったあとの生徒たちの空気感は異常だった。やけに空気がひりつき、皆が不安げな面持ちで昇降口から階段を昇っている。男子も女子も声を潜めなにかを言っている。私には友達がいないから一体何が何だか分からなかった。ただ落書きをされただけだろう。確かに不気味な文章ではあるけれどそんなに引きずるようなものだろうかと考えていた時、隣を歩いていたクラスメイトの女子二人の声が鼓膜に触れた。
──最初にみつけたのは朝練にきたサッカー部の子たちだって。黒板のさ、黒板消しとかチョーク置くとこあるじゃん?
──あそこに大きな魚。たぶん鯛かなにかだって言ってたけど、その魚の目玉にさ二十本くらい花が突き刺されて花束みたいになってたらしい。
──えっ、もう怖いんだけど。なんでうちのクラス? 絶対頭がおかしい誰かがやっ……
耳を傾け、彼女たちの会話に意識を向けていた時、目があった。二人はひっと彼女をのけぞらせ「ち、違うよ。美藤さんのことじゃないから」と足早に階段を昇っていった。その二人の背が消えるまで目で追いかけながら身体を真っ二つに引き裂かれたような気分になった。なんだよ。魚ってなに? 違う。私じゃない。そんな目でみないでよ。私は、そんなことしない。奥歯が擦り切れそうになるまで噛み締め、階段を昇る足に力を込めた。その時だった。
「路花」
肩に手を置かれ、振り返るとクラスメイトの鮎人が立っていた。心配そうな面持ちで私の目をみるなり「どうした? なんかあったか?」といつもの如く声をかけてきた。私の体内を、瞬間で湧く沸騰器みたいに怒りが駆け巡った。
「うるせえんだよっ! いつもいつも気安く私に話しかけてくんな! 目障りなんだよお前」
階段を駆け上がり教室に飛び込んだ。数分後には何事もなかったかのように授業が始まる中、私は自分の内から湧き上がる怒りを抑え込むのに必死だった。ふざけんな。私が、私がなにをしたんだよ。くたばれ。死ね。消えろ、消えろよ。こんな世界、私もろとも粉々に砕け散ってしまえばいい。窓から差す陽の光がひどく疎ましく思えてカーテンを閉めた。傍にいた女の子が途端に「ちょっと暗いんだけど」と言ってきたので睨みつけてやった。女の子は「こっわ」とそさくさと黒板がある方へと消えていく。怒りが抑えられない。手のひらの肉が爪の間に入り込む程に強く強く握りしめ、私はこの波が引いていくのを待った。一限、二限、三限、四限、と私は自分のなかで叫び声をあげ続けた。正午を告げる鐘が鳴り、意識が溶け落ちるその時まで。
──最初にみつけたのは朝練にきたサッカー部の子たちだって。黒板のさ、黒板消しとかチョーク置くとこあるじゃん?
──あそこに大きな魚。たぶん鯛かなにかだって言ってたけど、その魚の目玉にさ二十本くらい花が突き刺されて花束みたいになってたらしい。
──えっ、もう怖いんだけど。なんでうちのクラス? 絶対頭がおかしい誰かがやっ……
耳を傾け、彼女たちの会話に意識を向けていた時、目があった。二人はひっと彼女をのけぞらせ「ち、違うよ。美藤さんのことじゃないから」と足早に階段を昇っていった。その二人の背が消えるまで目で追いかけながら身体を真っ二つに引き裂かれたような気分になった。なんだよ。魚ってなに? 違う。私じゃない。そんな目でみないでよ。私は、そんなことしない。奥歯が擦り切れそうになるまで噛み締め、階段を昇る足に力を込めた。その時だった。
「路花」
肩に手を置かれ、振り返るとクラスメイトの鮎人が立っていた。心配そうな面持ちで私の目をみるなり「どうした? なんかあったか?」といつもの如く声をかけてきた。私の体内を、瞬間で湧く沸騰器みたいに怒りが駆け巡った。
「うるせえんだよっ! いつもいつも気安く私に話しかけてくんな! 目障りなんだよお前」
階段を駆け上がり教室に飛び込んだ。数分後には何事もなかったかのように授業が始まる中、私は自分の内から湧き上がる怒りを抑え込むのに必死だった。ふざけんな。私が、私がなにをしたんだよ。くたばれ。死ね。消えろ、消えろよ。こんな世界、私もろとも粉々に砕け散ってしまえばいい。窓から差す陽の光がひどく疎ましく思えてカーテンを閉めた。傍にいた女の子が途端に「ちょっと暗いんだけど」と言ってきたので睨みつけてやった。女の子は「こっわ」とそさくさと黒板がある方へと消えていく。怒りが抑えられない。手のひらの肉が爪の間に入り込む程に強く強く握りしめ、私はこの波が引いていくのを待った。一限、二限、三限、四限、と私は自分のなかで叫び声をあげ続けた。正午を告げる鐘が鳴り、意識が溶け落ちるその時まで。
