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なにから話せばいいのかは分かりませんが、これだけは誓います。ぼくはこれを読んでくれた方には出来るだけ誠実な態度で、純粋無垢なぼくの感情を垂れ流そうと思っています。
何故ぼくが壊れたのか。まずは、そこから話さなければなりません。ぼくは昔、幸せな家族の一員でした。お父さんとお母さん、お姉ちゃん、それからぼく。
お母さんとお姉ちゃんはいつもぼくの世話をしてくれました。この世界で生きていくうえで必要なことも、この世界自体のことも、教えてくれたのは二人でした。たとえば、食べたお菓子の袋はポッケにはいれずちゃんとゴミ箱に捨てること。手がチョコレートまみれになったなら、服では拭かず洗うこと。なにかをいただいたらありがとうございますとお礼を言って、赤信号はとまること。鳥は空を飛び、魚は泳ぐこと。全部、お母さんとお姉ちゃんが教えてくれました。特にお姉ちゃんからはそれと同時に沢山の愛を貰った気がします。だからぼくは、まだ世界にうまく馴染めなかった時はお姉ちゃんの影になれたし、そのおかげで自力で立つ足を養うことが出来ました。例えるなら、ぼくは飛べない雛でした。大空に飛び立てるその時がくるまで、お姉ちゃんとお母さんは無償の愛でぼくのことを守ってくれていたのです。
二人が家のなかにある世界を教えてくれたのだとしたら、お父さんは外の世界を教えてくれました。よく連れて行ってくれたのは、水族館でした。そうです、魚が沢山泳いでるところです。
お父さんの働いている場所がそこだったからというのも理由のひとつにあるのかもしれませんが、ぼく自体が魚が大好きでした。ぼくは泳げません。お風呂のなかで顔をつけたらすぐに苦しくなってしまいます。でも、水族館で泳ぐ魚たちは、まるでそんなぼくにみせつけるように、すいすいって水槽のなかを泳いでいました。色とりどりの、大きさも違う魚たちは、青いひかりのなかで気持ちよさそうでした。お父さんはひとつひとつに指を差し「あれは──だよ」って魚の名前と、その魚の生態を教えてくれました。ぼくはそれを一生懸命に覚えました。辛くはありません。むしろ、楽しくて楽しくて仕方が無かったのです。ひとつの魚の世界を知れば、ぼくの世界もひとつ広がっていくような気がしました。
ぼくはもっともっとって、どんどん世界を広げたくなりました。お父さんはそんな僕に本を与え、写真をみせ、いろんな水族館につれていってくれました。ついには魚を買ってきてくれたこともありました。ネオンテトラというちいさくて青いひかりを纏う魚です。五匹。みんな、生きていました。
お母さんとお姉ちゃんは、あまりにも喜ぶぼくをみて良かったねって抱きしめてくれました。そして、お父さんには。
──お前がこの子たちの面倒をみてあげなさい。身体はお前よりもちいさいけど、命の数は同じだ。一個体にひとつだけ。だから大切にしなくちゃならない。ご飯も、掃除も、ちゃんとしてあげないとこの子たちはすぐに死んでしまうよ。分かったね?
そう言われ、ぼくは何度も頷きました。ぼくに与えられた水槽は、お姉ちゃんのバッグにも入りそうなくらいちいさなものだったけれど、それでもぼくは命が群れをなして泳ぐ様をみて、興奮し、同時に泣きそうになりました。それくらい美しかったのです。
ぼくは每日ご飯をあげ、二週間に一度必ず水槽の掃除をしました。お父さんはそんなぼくを褒めてくれました。
──次はもっと大きな水槽を買ってあげる。
お父さんが死んだのは、いえ、お母さんとお父さん死んだのは、その約束をしてくれてから二週間後のことでした。
なにから話せばいいのかは分かりませんが、これだけは誓います。ぼくはこれを読んでくれた方には出来るだけ誠実な態度で、純粋無垢なぼくの感情を垂れ流そうと思っています。
何故ぼくが壊れたのか。まずは、そこから話さなければなりません。ぼくは昔、幸せな家族の一員でした。お父さんとお母さん、お姉ちゃん、それからぼく。
お母さんとお姉ちゃんはいつもぼくの世話をしてくれました。この世界で生きていくうえで必要なことも、この世界自体のことも、教えてくれたのは二人でした。たとえば、食べたお菓子の袋はポッケにはいれずちゃんとゴミ箱に捨てること。手がチョコレートまみれになったなら、服では拭かず洗うこと。なにかをいただいたらありがとうございますとお礼を言って、赤信号はとまること。鳥は空を飛び、魚は泳ぐこと。全部、お母さんとお姉ちゃんが教えてくれました。特にお姉ちゃんからはそれと同時に沢山の愛を貰った気がします。だからぼくは、まだ世界にうまく馴染めなかった時はお姉ちゃんの影になれたし、そのおかげで自力で立つ足を養うことが出来ました。例えるなら、ぼくは飛べない雛でした。大空に飛び立てるその時がくるまで、お姉ちゃんとお母さんは無償の愛でぼくのことを守ってくれていたのです。
二人が家のなかにある世界を教えてくれたのだとしたら、お父さんは外の世界を教えてくれました。よく連れて行ってくれたのは、水族館でした。そうです、魚が沢山泳いでるところです。
お父さんの働いている場所がそこだったからというのも理由のひとつにあるのかもしれませんが、ぼく自体が魚が大好きでした。ぼくは泳げません。お風呂のなかで顔をつけたらすぐに苦しくなってしまいます。でも、水族館で泳ぐ魚たちは、まるでそんなぼくにみせつけるように、すいすいって水槽のなかを泳いでいました。色とりどりの、大きさも違う魚たちは、青いひかりのなかで気持ちよさそうでした。お父さんはひとつひとつに指を差し「あれは──だよ」って魚の名前と、その魚の生態を教えてくれました。ぼくはそれを一生懸命に覚えました。辛くはありません。むしろ、楽しくて楽しくて仕方が無かったのです。ひとつの魚の世界を知れば、ぼくの世界もひとつ広がっていくような気がしました。
ぼくはもっともっとって、どんどん世界を広げたくなりました。お父さんはそんな僕に本を与え、写真をみせ、いろんな水族館につれていってくれました。ついには魚を買ってきてくれたこともありました。ネオンテトラというちいさくて青いひかりを纏う魚です。五匹。みんな、生きていました。
お母さんとお姉ちゃんは、あまりにも喜ぶぼくをみて良かったねって抱きしめてくれました。そして、お父さんには。
──お前がこの子たちの面倒をみてあげなさい。身体はお前よりもちいさいけど、命の数は同じだ。一個体にひとつだけ。だから大切にしなくちゃならない。ご飯も、掃除も、ちゃんとしてあげないとこの子たちはすぐに死んでしまうよ。分かったね?
そう言われ、ぼくは何度も頷きました。ぼくに与えられた水槽は、お姉ちゃんのバッグにも入りそうなくらいちいさなものだったけれど、それでもぼくは命が群れをなして泳ぐ様をみて、興奮し、同時に泣きそうになりました。それくらい美しかったのです。
ぼくは每日ご飯をあげ、二週間に一度必ず水槽の掃除をしました。お父さんはそんなぼくを褒めてくれました。
──次はもっと大きな水槽を買ってあげる。
お父さんが死んだのは、いえ、お母さんとお父さん死んだのは、その約束をしてくれてから二週間後のことでした。
