透明に堕ちるわたしの輪郭

 凪が連れてきてくれたカフェは「ル エトワール」という名の、内装がおしゃれな凄く洗練されたカフェだった。壁の色は暗い灰色と青で統一されていて、天井には南国を思わせるような木々が内装に組み込まれていた。凪は慣れているのかすぐさま店員さんに注文をし始めた。身に纏っているノースリーブのカーキのワンピースがよりを美しく大人っぽくみせ、私は憧れにも似た眼差しでレジの前に立つ凪の横顔を見つめた。私と鮎人はカフェオレを、凪はレッドグレープフルーツジュースを頼み、それを受け取り口から貰ったあと空いている席についた。それぞれが自分の飲み物をストローで口に含んだ時だった。

「で? 二人は付き合ってるの?」

 席に着くなり凪がとんでもないことを聞いてきて、私は飲んでいたカフェオレを吹き出しそうになった。「まさかまさか」と大げさに顔の前で手を振る。

「付き合ってないよ! 私と鮎人は、なんていうかソウルメイトって感じ。鮎人っていつも私のことを気にかけてくれるしおまけに優しいから、なんかその優しさに私も甘えちゃうんだよね。あと、一緒にいると楽だし」

 慌てふためいでせいて必要以上に長々と喋ってしまう。手のひらは一瞬にして汗で湿っていた。カップを両手で握りしめて、それの結露のせいにする。凪は「ふーん」と私と鮎人の顔に視線を配りながらストローをくわえた。カーキのワンピースの先からみえる長い腕は細いうえに透明感があり、窓から差し込む透明なひかりを吸い込んでより輝いてみえた。

「凪は今、どっかの高校にいってんの」

 ずっと黙っていた鮎人がふいに声を放った。

「行ってないよ。ちょっと前に悲しいことがあったからさ、辞めちゃったの。そっからはもう私の人生に残されたものは歌しかないって覚悟を決めてほとんど毎日音楽活動してる」
「そっか」
「それだけ?」

 凪に視線を向けられた鮎人は「えっ?」と目を丸くした。

「いや、そっかで終わらせられたらさ会話続かないじゃん。鮎人ってさ、あっ鮎人って呼んでいい? あーありがと。まあいいよって言われなくても呼ぶんだけどさ、クール系なの?」
「俺?」

 鮎人が自分の顔に指を指す。瞬間、凪が小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「あんたあんた。ってか今、目見て話してんじゃん。あんたの目をみながら路花に話しかけてたらおかしいでしょ?」

 凪の口調はいつも少し強いため、自分に向けられているならまだしもそれが鮎人向けられると気を悪くしてないかなと心配になる。出来れば二人には喧嘩をして欲しくない。大丈夫かな、と顔色をうかがっていると、「クールなんじゃなくて、俺いつもこんな感じなの。ローテンションっていうか、常に一定なんだよ。あんまりはしゃいだりもしないしな」と鮎人が砕けた笑みをみせてくれたので安心した。

「へーそうなんだ。まあ私もどっちかって言ったら鮎人と似たタイプだから気持ち分かるよ。クール系?とか聞かれたらウザいよね。自分だったら嫌だもん、ごめん」

 凪は凪で歩み寄ってくれてるのか、ちいさく頭をさげた。私は二人がこのまま友達になってくれたらいいなあって、胸のなかで密かに願った。

「で、二人はどこの高校に行ってんの」

 私が答えようかとも思ったが、間髪入れずに鮎人が「星林」と答える。それから「知ってる? 星林」と付け足した。凪はちいさく頷いた。店内にはおしゃれなJAZZミュージックが流れている。やはり三人で話すのは初めてだから、時折会話が途切れた時はそのBGMが大きくなって聴こえた。

「星林って確か山らへんにある高校だよね? あんなとこまで通ってるんだ。毎日大変じゃない?」

 灰色の瞳が私に向けられていた為、「そんなことないよ」と笑みを向けた。

「駅から出るバスが学校の手前まで送ってくれるからほとんど歩かなくていいしね。あっそうだ、今度うちの高校に来なよ。私と鮎人で案内してあげる。ねっ、鮎人」

 問いかけると、鮎人はストローを口に含んだまま頷いた。

「えーそれは嬉しいけどさ、現実的に考えて部外者は入れないでしょ? それだったらさ三人でどっかいきたい! 海とかどう? 私、けっこうきつい性格してるからか全然友達いなくてさ、今年まだ海にもいけないんだよね。ねえ、どう?」
「いいじゃん! いこいこ」

 突発的に生まれたアイディアだったが、その日の私と凪の会話からどんどんその予定は具体的なものになっていった。場所は私の家のすぐ傍にある海で、日程は来週の水曜日。イレギュラーな事態にも対応出来るように連絡先を教えて欲しいと凪に頼まれた時、鮎人が率先して動いてくれた。私は携帯電話自体を持っていないから恐らく気を使ってくれたのだと思う。以前から何度かお母さんには頼んでみた事はあるけれど、高校生に携帯なんてまだ早い、と頑なに許してくれなかったのだ。だから、結局凪との連絡先は鮎人が交換した。