中学に入ってからの、女子たちが歩む大人への階段を昇る速さは凄まじいものがあった。皆が申し合わせをしていたかのように体型や顔、髪型や髪質に意識を向け始め、どうすればかわいい女の子に慣れるか、どうすれば憧れの存在に近づけるか、あるいは自分がその存在になれるかというある種生存競争みたいなものがどのクラスでも乱立した。
容姿が良くなければ、容姿を気にしていなければ、カースト上位の位置に身を置くことは出来ない。だから日々憧れのモデルやインフルエンサーのメイクや髪型を研究し、頑張る。男子が馬鹿な遊びや発言に夢中になっている傍ら、女子は誰よりも早く大人になろうと自らの羽を磨いていた。よりうつくしく、よりかわいく。わたしが、私が。
教室の中がいつからかボディクリームやトリートメント、香水のあまったるい匂いで満ち始めた。そんな中、僕はずっと無だった。かわいさ? どうでもいい。髪型? どうでもいい。スタイル、顔、生きる、死ぬ? 全てどうでもいい。
両親の期待に応えられず、僕のプランターに必要最低限のお金しか注がれなくなったあの日から、僕は一体これまで何を楽しみに生きてきたのか。一体どうやったらこの世界に興味を持てるのか分からなくなっていた。いつもクラスメイト達とは離れた所に身を置き、僕を含めた全員を俯瞰でみていた。そうするとよく分かった。どれだけこの世界がクソで、嘘みたいに綺麗な青い空の下、全員が腹のなかの黒いものを隠しながら生きているのか。
僕はたぶんクラスメイト達からしたら空気ですら無かった。目にはみえないし、存在すら気にしない。何故なら、必要がないから。だからなのか皆僕が近くにいても腹のなかを時折みせてくれた。僕は全てを知っていた。知ったうえで、クソだと思った。ねえ知ってる? 今君が話してる女の子、ついさっきまで男に媚びてるって悪口言ってたよ? 今一緒に笑ってる君、夏休みの時から彼女浮気してるの知ってる?
そんな風に腹のなかで嘲笑っていたものだから、中学三年の時から僕がいじめられ始めたのはある種必然だったのかもしれない。根暗。陰キャ。顔がキモい。近づくと不幸がうつりそう。たぶん、そんな風なことを言われた。どうでも良かった。靴を隠されようが、悪口を言われようが、僕はもうその時には既にこの現実を生きていなかったから。
中学二年の時に小説に出会った。昔の作家の、確か教科書にものってるやつ。暇つぶしのつもりで読んだのに、僕は物語の世界にどっぷりと浸かってしまった。そこには僕の知らないもう一つの世界があった。登場人物たちは泣き、笑い、たまに殺される。それを僕は安全な場所から覗き、その世界の一部を見届ける。まるで神か何かになった気分だった。
時々、弟みたいな人生を送っている登場人物をみつけると、笑ってしまいそうになった。容姿に恵まれ、神様から恵まれた才能がある。どの世界にもいるんだなあって単純に思った。
僕が高校に入学した頃、年子の弟はまたピアノのコンクールで入賞した。もう何度目かも分からない。僕やったよ。僕頑張った。僕、ぼく、ぼく。父と母が大切に育てたプランターで弟はうつくしい花を咲かせながらそう言った。子供の頃から聞かされたものだから、僕の頭はいつしかその言葉で埋め尽くされていった。私を私と呼ぶことは無くなった。消えた。わたし、ですら無くなった。いつからだろう。分からない。僕はいつの間にか、僕になった。
容姿が良くなければ、容姿を気にしていなければ、カースト上位の位置に身を置くことは出来ない。だから日々憧れのモデルやインフルエンサーのメイクや髪型を研究し、頑張る。男子が馬鹿な遊びや発言に夢中になっている傍ら、女子は誰よりも早く大人になろうと自らの羽を磨いていた。よりうつくしく、よりかわいく。わたしが、私が。
教室の中がいつからかボディクリームやトリートメント、香水のあまったるい匂いで満ち始めた。そんな中、僕はずっと無だった。かわいさ? どうでもいい。髪型? どうでもいい。スタイル、顔、生きる、死ぬ? 全てどうでもいい。
両親の期待に応えられず、僕のプランターに必要最低限のお金しか注がれなくなったあの日から、僕は一体これまで何を楽しみに生きてきたのか。一体どうやったらこの世界に興味を持てるのか分からなくなっていた。いつもクラスメイト達とは離れた所に身を置き、僕を含めた全員を俯瞰でみていた。そうするとよく分かった。どれだけこの世界がクソで、嘘みたいに綺麗な青い空の下、全員が腹のなかの黒いものを隠しながら生きているのか。
僕はたぶんクラスメイト達からしたら空気ですら無かった。目にはみえないし、存在すら気にしない。何故なら、必要がないから。だからなのか皆僕が近くにいても腹のなかを時折みせてくれた。僕は全てを知っていた。知ったうえで、クソだと思った。ねえ知ってる? 今君が話してる女の子、ついさっきまで男に媚びてるって悪口言ってたよ? 今一緒に笑ってる君、夏休みの時から彼女浮気してるの知ってる?
そんな風に腹のなかで嘲笑っていたものだから、中学三年の時から僕がいじめられ始めたのはある種必然だったのかもしれない。根暗。陰キャ。顔がキモい。近づくと不幸がうつりそう。たぶん、そんな風なことを言われた。どうでも良かった。靴を隠されようが、悪口を言われようが、僕はもうその時には既にこの現実を生きていなかったから。
中学二年の時に小説に出会った。昔の作家の、確か教科書にものってるやつ。暇つぶしのつもりで読んだのに、僕は物語の世界にどっぷりと浸かってしまった。そこには僕の知らないもう一つの世界があった。登場人物たちは泣き、笑い、たまに殺される。それを僕は安全な場所から覗き、その世界の一部を見届ける。まるで神か何かになった気分だった。
時々、弟みたいな人生を送っている登場人物をみつけると、笑ってしまいそうになった。容姿に恵まれ、神様から恵まれた才能がある。どの世界にもいるんだなあって単純に思った。
僕が高校に入学した頃、年子の弟はまたピアノのコンクールで入賞した。もう何度目かも分からない。僕やったよ。僕頑張った。僕、ぼく、ぼく。父と母が大切に育てたプランターで弟はうつくしい花を咲かせながらそう言った。子供の頃から聞かされたものだから、僕の頭はいつしかその言葉で埋め尽くされていった。私を私と呼ぶことは無くなった。消えた。わたし、ですら無くなった。いつからだろう。分からない。僕はいつの間にか、僕になった。
