放課後のジントニック、美術室の魔法

頭を強く殴られたような衝撃に、視界がぐにゃりと歪む。私の足は、吸い寄せられるように職員室へと向かって動いていた。
数分後。先生たちがグラウンドへ戻り、誰もいなくなった静かな職員室。
言われた通り、教卓の端にぽつんと置かれた、さっきの対戦相手校から提出されたという「練習試合・遠征メンバー表」のプリントが、私の目に飛び込んできた。
解説を挟むまでもなく、その紙を手に取った私の目は、ある一列に釘付けになった。
文字が、紙の上で生々しく主張していた。
【〇〇高等学校 サッカー部 遠征名簿】
『FW(フォワード) 二年 藤代 航平』
『MF(トップ下) 二年 木村 大輝』
手元にあるそのプリントが、ガタガタと音を立てて震えだした。自分の指先が、信じられないほど冷たくなっている。
フォワード。泥臭くてもゴールを狙うポジション。
そして、木村大輝。
航平くんが「小学校からの付き合いで、自分の秘密を唯一知っている親友だ」と、いつかのデートで嬉しそうに語っていた、あの『大輝くん』の名前。
窓の外で彼の隣を歩き、さっき「木村ー!」とチームメイトから呼ばれていたあの男の子の姿が、完全に頭の中で一致する。
脳裏に、これまでのピースが、ものすごい勢いで、鮮烈にフラッシュバックしていった。
『月曜の一限は席替えで一番後ろの窓際だから、先生に隠れて買い食いするには絶好のポジションだ』
『俺のところ、まだ冬物の着用期間に入ってないんですよ』
『配られたプリントを、全部ルーズリーフに糊で綺麗に貼って明日の朝提出しなきゃいけない、忘れたら居残りさせられる』
そして、あの日の立花くんの一言。
『これ見てつまんないっていうなら、俺はもう二度とここには来ない。先生の鼻を明かしに来てやった』
あの日、うちの学校の校舎の裏手で立花くんを美術室へ戻る勇気を与えた、あの「他校のクソ真面目なサッカー部員」。
全て、全て、彼だったんだ。
航平くんは、眩しい大学のキャンパスにいる大学生なんかじゃなかった。
バーの薄暗いネオンの中でチャコールグレーのシャツを着て、私を何度も救ってくれたあの大人びた優しい姿は、全部、私に届こうとして一生懸命に重ねてくれた背伸びだったんだ――私の隣にいる彼は、17歳の、現役の高校生だった。
「……っ」