そんなわけがない。彼は二十歳の大学生で、サッカーのサークルを頑張っている。私を何度も救ってくれた、あの大人びた優しい航平くんなのだから。
何度も自分にそう言い聞かせ、馬鹿げた疑いを頭から振り払おうとしていた。
――けれど、神様は残酷だった。
居酒屋での一件からの翌週の木曜日。
私の勤務する高校のグラウンドでは、他校を招いてのサッカー部の練習が行われていた。立花くんを救ってくれた人が他校のサッカー部にいるということでいつも、他校のサッカー部が来たら前よりは、他校の人がこの高校に来るという情報が耳に入ってくるようになった。
放課後、美術部の片付けを終えた私は、職員室へ鍵を返しに行く途中の廊下で、サッカー部顧問のベテラン先生とばったり出会した。
「あ、佐倉先生。この後時間あったりしますか?あ、いや、毎回練習試合の後は向こうの監督と反省会みたいな感じで飲んでるんですけど、今日は、お互いの学校のいろんな先生呼んで軽い交流会みたいなものをしようかという話になってましてね。先生来れそうですか?」
「えっ、あ、すみません。私はまだ少し仕事が残ってまして……」
「そうですか。それは残念。――あ、おい!副監督の先生に、あっちのチームからもらったメンバー表、職員室机の上に置いておいたって伝えておいてくれないか!」
先生がグランドにいた一人の生徒に大きな声を張り上げた。
その何気なく放たれた言葉と同時に、私の視線は無意識のうちに、廊下の窓の外へと向いていた。
グラウンドの向こう。
ちょうど、相手校の遠征バスへと向かって歩いていく、数人のジャージ姿の男子生徒たちの後ろ姿。
その真ん中で、泥と汗にまみれた他校のユニフォームを着て、エナメルバッグを肩にかけ、楽しそうに隣の部員と笑い合っている一人の男の子の横顔が、一瞬だけ視界に映った。
ワックスで大人っぽくセットされた前髪もない。
知的な印象を与えていた、あの黒縁の伊達メガネもかけていない。
どこからどう見ても、泥臭くグラウンドを走り回ってきたばかりの、現役の高校生の少年。
なのに――その見覚えのある体つき、笑ったときの口元、あるいは、美術館の人混みの中で私をそっと包み込んでくれた、あの広い背中。
(嘘、でしょ……?)
何度も自分にそう言い聞かせ、馬鹿げた疑いを頭から振り払おうとしていた。
――けれど、神様は残酷だった。
居酒屋での一件からの翌週の木曜日。
私の勤務する高校のグラウンドでは、他校を招いてのサッカー部の練習が行われていた。立花くんを救ってくれた人が他校のサッカー部にいるということでいつも、他校のサッカー部が来たら前よりは、他校の人がこの高校に来るという情報が耳に入ってくるようになった。
放課後、美術部の片付けを終えた私は、職員室へ鍵を返しに行く途中の廊下で、サッカー部顧問のベテラン先生とばったり出会した。
「あ、佐倉先生。この後時間あったりしますか?あ、いや、毎回練習試合の後は向こうの監督と反省会みたいな感じで飲んでるんですけど、今日は、お互いの学校のいろんな先生呼んで軽い交流会みたいなものをしようかという話になってましてね。先生来れそうですか?」
「えっ、あ、すみません。私はまだ少し仕事が残ってまして……」
「そうですか。それは残念。――あ、おい!副監督の先生に、あっちのチームからもらったメンバー表、職員室机の上に置いておいたって伝えておいてくれないか!」
先生がグランドにいた一人の生徒に大きな声を張り上げた。
その何気なく放たれた言葉と同時に、私の視線は無意識のうちに、廊下の窓の外へと向いていた。
グラウンドの向こう。
ちょうど、相手校の遠征バスへと向かって歩いていく、数人のジャージ姿の男子生徒たちの後ろ姿。
その真ん中で、泥と汗にまみれた他校のユニフォームを着て、エナメルバッグを肩にかけ、楽しそうに隣の部員と笑い合っている一人の男の子の横顔が、一瞬だけ視界に映った。
ワックスで大人っぽくセットされた前髪もない。
知的な印象を与えていた、あの黒縁の伊達メガネもかけていない。
どこからどう見ても、泥臭くグラウンドを走り回ってきたばかりの、現役の高校生の少年。
なのに――その見覚えのある体つき、笑ったときの口元、あるいは、美術館の人混みの中で私をそっと包み込んでくれた、あの広い背中。
(嘘、でしょ……?)


