画面に『結衣さん』の文字が踊るたびに、俺が自分のベッドの上で、ニヤケ顔を必死に枕に押し付けた。
受話器の向こうから聞こえる、少し眠たげで、優しくて、愛おしい声。
『航平くん、今日もお疲れ様。…早く金曜日ならないかな』
「俺もです。結衣さんに早く会いたいです。」
携帯越しにそんな言葉を交わすだけで、脳細胞の隅々にまで甘い熱が染み込んでいって、胸の奥がトロトロに蕩けそうになる。本当は明日も学校があって、朝練の寝坊も許されない身なのに、彼女と繋がっている一分一秒が惜しくて、通話ボタンを押す手がいつも狂おしいほど名残惜しかった。
それから付き合い始めて一週間が経った頃の、ある土曜日のデートのことだった。いつものように駅から少し離れた静かなカフェで、運ばれた冷たい飲み物を前に、結衣さんがストローを指先でいじりながら、少し気まずそうに視線を落とした。
「あのね、航平くん。……ちょっと怒らないで聞いてくれる?」
「え?なんですか?」
急に改まったトーンになって、俺の心臓はどきりと跳ね上がる。まさかバレてしまったのかと身構えたが、結衣さんはほんのり耳の裏を赤くして、小さく声を顰めた。
「その……この前の仕事帰りにね、高校の時からの親友と、駅前の居酒屋でご飯食べてたの。沙耶っていう、私の性格を一番よく知ってる友達なんだけど……。私があんまり上の空だったから、怪しまれて、色々と突っ込まれちゃって。…気がついたら、航平くんと付き合えたこと、その、話しちゃったの」
結衣さんはそれ以上は恥ずかしいのか口を濁して、赤くなった顔を隠すように慌ててグラスに口をつけた。
「俺のことを、友達に?」
「うん。隠しておくの、なんだか悪い気がしちゃって。…ごめんね、年上のくせに浮かれてるって沙耶にも笑われちゃった」
恥ずかしそうに肩をすぼめる結衣さんを見つめながら、俺の胸の奥には爆発しそうなほどの喜びがドッと押し寄せていた。大人の女性である結衣さんが、親友に「付き合えた」と報告するほど、自分との関係に真剣に、大切に考えてくれている。それがたまらなく愛おしかった。
だけど、その剥き出しの喜びのすぐ裏側で、冷たいガラスの破片が胸の奥に突き刺さったような、鋭い痛みが走った。
受話器の向こうから聞こえる、少し眠たげで、優しくて、愛おしい声。
『航平くん、今日もお疲れ様。…早く金曜日ならないかな』
「俺もです。結衣さんに早く会いたいです。」
携帯越しにそんな言葉を交わすだけで、脳細胞の隅々にまで甘い熱が染み込んでいって、胸の奥がトロトロに蕩けそうになる。本当は明日も学校があって、朝練の寝坊も許されない身なのに、彼女と繋がっている一分一秒が惜しくて、通話ボタンを押す手がいつも狂おしいほど名残惜しかった。
それから付き合い始めて一週間が経った頃の、ある土曜日のデートのことだった。いつものように駅から少し離れた静かなカフェで、運ばれた冷たい飲み物を前に、結衣さんがストローを指先でいじりながら、少し気まずそうに視線を落とした。
「あのね、航平くん。……ちょっと怒らないで聞いてくれる?」
「え?なんですか?」
急に改まったトーンになって、俺の心臓はどきりと跳ね上がる。まさかバレてしまったのかと身構えたが、結衣さんはほんのり耳の裏を赤くして、小さく声を顰めた。
「その……この前の仕事帰りにね、高校の時からの親友と、駅前の居酒屋でご飯食べてたの。沙耶っていう、私の性格を一番よく知ってる友達なんだけど……。私があんまり上の空だったから、怪しまれて、色々と突っ込まれちゃって。…気がついたら、航平くんと付き合えたこと、その、話しちゃったの」
結衣さんはそれ以上は恥ずかしいのか口を濁して、赤くなった顔を隠すように慌ててグラスに口をつけた。
「俺のことを、友達に?」
「うん。隠しておくの、なんだか悪い気がしちゃって。…ごめんね、年上のくせに浮かれてるって沙耶にも笑われちゃった」
恥ずかしそうに肩をすぼめる結衣さんを見つめながら、俺の胸の奥には爆発しそうなほどの喜びがドッと押し寄せていた。大人の女性である結衣さんが、親友に「付き合えた」と報告するほど、自分との関係に真剣に、大切に考えてくれている。それがたまらなく愛おしかった。
だけど、その剥き出しの喜びのすぐ裏側で、冷たいガラスの破片が胸の奥に突き刺さったような、鋭い痛みが走った。


