放課後のジントニック、美術室の魔法

柱に背中を預けたまま、頭の芯がカッと熱くなり、同時に、経験したことのないようなドロドロとした醜い感情が胸の奥からせり上がってきた。
あそこにいるのが本当に航平くんなのか、それともただの他人の空似なのか、そんなことはもうどうでもよかった。
私の頭を狂いそうにさせていたのは、私の知らない航平くんにそっくりなあの男の子の隣に、私なんかよりもずっと若くて、眩しくて、お似合いの女の子がぴったりと寄り添っていたという、その光景そのものだった。
「私……本当に、バカみたいじゃない……」
家に着くと、すぐにベッドに寝転がり、オフィスカジュアルのスカートを脱ぎ捨てる気力もないまま、私は天井を見上げて呟いた。
私には、毎日学校の書類と授業に追われ、生徒たちの前で必死に『先生』を演じている、数歳も年上の社会人としてのプライドがあったはずだ。大人として、冷静にならなきゃいけない。お酒の席で知り合って、いつも仕事の愚痴を聞いてもらっているだけの相談相手なんだから、こんなに感情を振り回されるなんてあってはならない。
それなのに、目を閉じれば、ガラスの向こうで見たあの女の子の無邪気な笑顔と、楽しそうに笑い合っていた二人の姿が鮮やかに蘇って、胸の奥がキリキリと引き裂かれそうになる。
あの女の子は誰?
サークルのマネージャー? 大学の友達?
もし、あの日見たのが本当に航平くんで、あの子が彼の本当の――。
「嫌だ……」
声に出した瞬間、涙がポロポロと頬を伝って零れ落ちた。
大人の防衛線なんて、一瞬で消し飛んでいた。
誰にも、取られたくない。
私の心を救ってくれたあの心地いい声も、美術館の人混みで私を包み込んでくれた広い背中も、私だけを見てくれている真っ直ぐな瞳も。
たとえ私が、仕事の愚痴ばかりを言う可愛げのない年上のお姉さんだったとしても、あの眩しい笑顔を、他の若い女の子に向けられるのだけは、生きた心地がしないほど嫌だった。
気づけば私は、カレンダーの『金曜日』の文字ばかりを、指先が白くなるほどに凝視していた。
早く金曜日になってほしい。
早くあのバーに行って、彼の顔を見て、安心したい。
でも、もし彼が「土曜日はデートしてたんです」なんて笑ったら、私はどんな顔をすればいいのだろう。