真っ赤になった顔を隠すように、結衣さんは両手でグラスを包み込み、ストローを見つめたまま小さく肩をすぼめている。その姿は、教壇に立つ『佐倉先生』でも、バーで愚痴をこぼす『年上のお姉さん』でもなかった。ただただ必死にやきもちを隠そうとしている、目の前の席から今すぐ連れ去ってしまいたいくらいに、最高に可愛い一人の女の子だった。
その夜の帰り道、駅前のロータリーで別れる時、結衣さんはずっと耳の裏を赤くしたまま、少し名残惜しそうに俺を見上げていた。
「じゃあね、航平くん。また、金曜日ね」
小さく手を振る彼女を見送りながら、俺はポケットの中でロッカーの鍵を強く握りしめた。
俺はまだ、大学生のフリをしたただの嘘つきのままだ。だけど、あのガラス越しの視線が彼女の嫉妬だったと知ってしまった今、俺の心臓は、新しい期待と欲望で破裂しそうになっていた。
***
あの土曜日の夕方、私は偶然、駅ビルのセレクトショップの前を通りかかっていた。
来週の授業で使う画材を買いにいくついでに、ほんの軽い気持ちで、ガラス張りのきらびやかな店内へと視線を向けた、その時だった。
心臓が、冷たく凍りついた。
ガラスの向こう、お洒落なネイビーのジャケットを体に当てて姿見の前に立っていたのは――。
「……え?」
嘘、でしょ。遠くから人混み越しに見つめるその姿は、私の知っている航平くんに、あまりにも似ていた。
ワックスで大人っぽくセットされた前髪もないし、知的な黒縁の伊達メガネもかけていない。どこか幼い雰囲気すら漂っている。だけど、あの見覚えのある体つき、少し硬そうな男の子らしい肩のライン。
もしかして、航平くん……?
確かめるために一歩踏み出そうとした私の足は、しかし、次の瞬間にピタリと止まった。
彼の隣には、一人の可愛らしい女の子だった。
二人は楽しそうに笑い合いながら、ハンガーにかかった服をあれこれと選び、彼女が彼の背中をバシッと親しげに叩いていた。彼は少し照れくさそうに頭を掻きながら、その女の子の歩調に合わせて嬉しそうに歩いている。
彼がふと、ガラスの向こうのこちらへ視線を向けたような気がして、私は心臓が跳ね上がり、反射的に柱の陰へと身を隠した。
バクバクと、耳の源で自分の血流の音がうるさいほどに鳴り響く。
(何してるの、私……)
その夜の帰り道、駅前のロータリーで別れる時、結衣さんはずっと耳の裏を赤くしたまま、少し名残惜しそうに俺を見上げていた。
「じゃあね、航平くん。また、金曜日ね」
小さく手を振る彼女を見送りながら、俺はポケットの中でロッカーの鍵を強く握りしめた。
俺はまだ、大学生のフリをしたただの嘘つきのままだ。だけど、あのガラス越しの視線が彼女の嫉妬だったと知ってしまった今、俺の心臓は、新しい期待と欲望で破裂しそうになっていた。
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あの土曜日の夕方、私は偶然、駅ビルのセレクトショップの前を通りかかっていた。
来週の授業で使う画材を買いにいくついでに、ほんの軽い気持ちで、ガラス張りのきらびやかな店内へと視線を向けた、その時だった。
心臓が、冷たく凍りついた。
ガラスの向こう、お洒落なネイビーのジャケットを体に当てて姿見の前に立っていたのは――。
「……え?」
嘘、でしょ。遠くから人混み越しに見つめるその姿は、私の知っている航平くんに、あまりにも似ていた。
ワックスで大人っぽくセットされた前髪もないし、知的な黒縁の伊達メガネもかけていない。どこか幼い雰囲気すら漂っている。だけど、あの見覚えのある体つき、少し硬そうな男の子らしい肩のライン。
もしかして、航平くん……?
確かめるために一歩踏み出そうとした私の足は、しかし、次の瞬間にピタリと止まった。
彼の隣には、一人の可愛らしい女の子だった。
二人は楽しそうに笑い合いながら、ハンガーにかかった服をあれこれと選び、彼女が彼の背中をバシッと親しげに叩いていた。彼は少し照れくさそうに頭を掻きながら、その女の子の歩調に合わせて嬉しそうに歩いている。
彼がふと、ガラスの向こうのこちらへ視線を向けたような気がして、私は心臓が跳ね上がり、反射的に柱の陰へと身を隠した。
バクバクと、耳の源で自分の血流の音がうるさいほどに鳴り響く。
(何してるの、私……)


