鏡の中の『少し落ち着いた大学生』の自分に言い聞かせ、俺は高鳴る胸を抑えてオーセンティックバーのドアを開けた。
「いらっしゃいませ。こんばんは、航平様」
「こんばんは、マスター。今日もジンジャーエールの辛口を」
いつものカウンター席に腰を下ろし、冷えたグラスを受け取る。新しい服of袖口を少し整えながら、早く彼女が来ないかと、俺は弾ける炭酸の泡を眺めていた。
ドアが開いたのは、それから十分ほど経った頃だった。
甘い柑橘系のシャンプーの香りと一緒に、結衣さんが店に入ってくる。
「こんばんは、マスター。いつものを。ジントニック、ライム多めで……」
「結衣さん、こんばんは。今週もお疲れ様です」
俺はネイビーのジャケットの奥で暴れる鼓動を必死に抑えこみ、いつも通りの『大学生の微笑み』を完璧に貼り付けて振り返った。
「あ、航平くん。こんばんは」
結衣さんはそう言って、俺の右隣のカウンター席に滑り込んできた。
だけど、いつもならすぐに仕事の愚痴をこぼして笑うはずの彼女が、今夜は少しだけ様子が違っていた。マスターから差し出されたジントニックのグラスを受け取ると、ストローを指先で静かにいじるだけで、一口も飲まないまま机に置いた。それから、少し何かを測るようにして、斜め下からじっと俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇ、航平くん。ちょっと聞いてもいい?」
「あ、はい。なんですか?」
「……先週の土曜日って、何してた?」
短い、けれどどこか重みのある問いかけに、俺の背中に微かに手汗が滲み始める。
(土曜日の夕方…。夏海に引きずり回されて、駅ビルでまさにこの服を買っていた時だ…。)
背中にどっと冷や汗が流れる。
もし、あの場所にいたのが俺だと認めれば、この金曜日の魔法が、この瞬間に終わってしまうかもしれない…。
大人の女性としての理性を必死に繋ぎ止めようとするように、オフィスカジュアルの黒いスカートの生地を、細い指先でぎゅっと握りしめている結衣さんの姿が視界に入る。
(嫌だ。まだ、この人の隣にいたい。…絶対にバレるわけにはいかない…。)
嘘をつくのが苦手な、ひどく真面目な俺の脳細胞が、悲鳴を上げながらフル回転する。
「いらっしゃいませ。こんばんは、航平様」
「こんばんは、マスター。今日もジンジャーエールの辛口を」
いつものカウンター席に腰を下ろし、冷えたグラスを受け取る。新しい服of袖口を少し整えながら、早く彼女が来ないかと、俺は弾ける炭酸の泡を眺めていた。
ドアが開いたのは、それから十分ほど経った頃だった。
甘い柑橘系のシャンプーの香りと一緒に、結衣さんが店に入ってくる。
「こんばんは、マスター。いつものを。ジントニック、ライム多めで……」
「結衣さん、こんばんは。今週もお疲れ様です」
俺はネイビーのジャケットの奥で暴れる鼓動を必死に抑えこみ、いつも通りの『大学生の微笑み』を完璧に貼り付けて振り返った。
「あ、航平くん。こんばんは」
結衣さんはそう言って、俺の右隣のカウンター席に滑り込んできた。
だけど、いつもならすぐに仕事の愚痴をこぼして笑うはずの彼女が、今夜は少しだけ様子が違っていた。マスターから差し出されたジントニックのグラスを受け取ると、ストローを指先で静かにいじるだけで、一口も飲まないまま机に置いた。それから、少し何かを測るようにして、斜め下からじっと俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇ、航平くん。ちょっと聞いてもいい?」
「あ、はい。なんですか?」
「……先週の土曜日って、何してた?」
短い、けれどどこか重みのある問いかけに、俺の背中に微かに手汗が滲み始める。
(土曜日の夕方…。夏海に引きずり回されて、駅ビルでまさにこの服を買っていた時だ…。)
背中にどっと冷や汗が流れる。
もし、あの場所にいたのが俺だと認めれば、この金曜日の魔法が、この瞬間に終わってしまうかもしれない…。
大人の女性としての理性を必死に繋ぎ止めようとするように、オフィスカジュアルの黒いスカートの生地を、細い指先でぎゅっと握りしめている結衣さんの姿が視界に入る。
(嫌だ。まだ、この人の隣にいたい。…絶対にバレるわけにはいかない…。)
嘘をつくのが苦手な、ひどく真面目な俺の脳細胞が、悲鳴を上げながらフル回転する。


