結衣さんが毎週この時間に来ると決まっているわけでもない。
ただ、何度か同じ金曜日に会っているだけだ。それなのに。
カラン、と。扉の向こうで、あのガラスの鈴が鳴った。
反射的に顔を上げる。
「こんばんは、マスター」
聞き慣れ始めた声が店内に響いた。
胸の奥が、ふっと軽くなる。
結衣さんだった。
「こんばんは、結衣さん」
「あ、航平くん。今日もいたんだ」
「はい、今日もいます」
当たり前のように答えたけれど、本当はその一言だけで嬉しかった。
結衣さんはいつものように俺の隣へ座り、ジントニックをライム多めで注文した。
「今日もね、聞いてほしいことがあるの」
「何ですか?」
「またあの子がね――」
そこから始まったのは、いつもの美術部の話だった。
生意気な部員の話。
授業で起きた小さな失敗。
職員室での愚痴。
俺は相槌を打ちながら、それを聞いていた。
特別な話なんて何もない。それでも、気がつけば時間が過ぎていた。
結衣さんが時計を見る。
「もうこんな時間なんだ」
「本当ですね」
「航平くんと話してると、時間経つの早いなぁ」
その何気ない一言に、俺は返事をするのを忘れた。
「……航平くん?」
「あ、すみません」
慌ててグラスへ視線を落とす。胸の奥が、じんわりと熱かった。
帰り際。結衣さんがコートを羽織りながら、ふと振り返った。
「じゃあ、また来週ね」
「はい。また来週」
扉が閉まる。
カラン、と鈴が鳴った。
その音が消えてから、俺はしばらく動けなかった。
『また来週』
たったそれだけの言葉なのに、次の金曜日が、もう待ち遠しくなっていた。
ただ、何度か同じ金曜日に会っているだけだ。それなのに。
カラン、と。扉の向こうで、あのガラスの鈴が鳴った。
反射的に顔を上げる。
「こんばんは、マスター」
聞き慣れ始めた声が店内に響いた。
胸の奥が、ふっと軽くなる。
結衣さんだった。
「こんばんは、結衣さん」
「あ、航平くん。今日もいたんだ」
「はい、今日もいます」
当たり前のように答えたけれど、本当はその一言だけで嬉しかった。
結衣さんはいつものように俺の隣へ座り、ジントニックをライム多めで注文した。
「今日もね、聞いてほしいことがあるの」
「何ですか?」
「またあの子がね――」
そこから始まったのは、いつもの美術部の話だった。
生意気な部員の話。
授業で起きた小さな失敗。
職員室での愚痴。
俺は相槌を打ちながら、それを聞いていた。
特別な話なんて何もない。それでも、気がつけば時間が過ぎていた。
結衣さんが時計を見る。
「もうこんな時間なんだ」
「本当ですね」
「航平くんと話してると、時間経つの早いなぁ」
その何気ない一言に、俺は返事をするのを忘れた。
「……航平くん?」
「あ、すみません」
慌ててグラスへ視線を落とす。胸の奥が、じんわりと熱かった。
帰り際。結衣さんがコートを羽織りながら、ふと振り返った。
「じゃあ、また来週ね」
「はい。また来週」
扉が閉まる。
カラン、と鈴が鳴った。
その音が消えてから、俺はしばらく動けなかった。
『また来週』
たったそれだけの言葉なのに、次の金曜日が、もう待ち遠しくなっていた。


