放課後のジントニック、美術室の魔法

「俺、好きな人がいるんだ。先週も、この間の土曜日も……その人に会ってた。……今朝のお前の顔を見て、授業中ずっと考えて、ようやくお前の気持ちに気づいたんだ。それなのに今まで、お前を巻き込みたくなくてずっと隠して、傷つけるようなことして……本当に悪かった」
俺は一気に捲し立て、グッと深く頭を下げた。
自分の秘密を打ち明ける恥ずかしさと、夏海の真っ直ぐな恋心を今さっき気づいたばかりのくせに振らなければいけない申し訳なさで、心臓が破裂しそうだった。涙の一杯も、覚悟していた。
静寂が流れる。
カサリ、と頭上で木々の葉が擦れ合う音が響いた。
「…ぷっ」
頭上から聞こえたのは、すすり泣く声ではなかった。
「あはははは! ちょっと待って、航平、おなか痛い! あははは!」
俺が勢いよく顔を上げると、夏海は自動販売機に手をつけて、涙を流しながらお腹を抱えて大爆笑していた。
「な、なんだよ…何がそんなにおかしいんだよ…」
「だって!『お前の気持ちに気づいた』って何それ! あんた、私が自分のこと好きだとでも思ってたの!? 自意識過剰にも程があるんだけど! 授業中そんなこと考えてたわけ!?」
夏海はひとしきりに笑い転げたあと、涙で指を拭きながら、一気に顔を真っ赤に染め上げた。
「あのねぇ、私が寂しかったのは…三人でいる時間が、本当に大好きだったからなの」
夏海の横顔から、さっきまでの爆笑の勢いがふっと消えていく。彼女は地面に落ちた自分たちの影を見つめながら、ポツリポツリと、本当に寂しそうに言葉を紡ぎ始めた。その突き出した指先はかすかに震えていて、瞳には今朝の並木道と同じ、今にも零れ落ちそうなほどの寂しさが、じわりと滲み出していた。
「小学校の時からずっと、何をするでもなく三人で一緒にいて、泥だらけになってバカやって、ただ笑い合えるあの場所が、私にとっては本当に特別で……何よりも大切だったんだよ。だから……航平が急に居残り練習をサボってお洒落して、私の全然知らない世界に行っちゃう気がして……三人のいつもの時間が、このままバラバラになって壊れちゃうんじゃないかって、本当に、すごく寂しかったの」
夏海はスクールバッグの紐を両手でぎゅっと、引きちぎらんばかりに握りしめてそっぽを向いた。西日に照らされた彼女の耳の裏まで、みるみるうちに赤く染まっていく。