「うん。先週は、航平くんが大学の課題の関係でチケットをもらったからって誘ってくれたでしょ?だから、昨日の夜は、そういうきっかけなしで、私からまっすぐ誘っちゃったから…なんだか、すごく特別なお出かけに思えちゃって。私、航平くんのサークルとか大学の予定を無理に奪っちゃってないかなって、心配だったの」
結衣さんはまっすぐに俺の目を覗き込んできた。長い睫毛の奥にある瞳が、熱を帯びているように見える。
大人の女性である彼女が、俺の時間を気にして、少しだけ気弱な表情を見せている。
俺はニットの袖をぎゅっと握りしめ、大学生としての冷静なトーンを保つために、あらかじめ用意していた嘘の『設定』を脳裏に高速で組み立て直した。
「そんなこと、絶対にないです。僕も、昨日の夜に結衣さんから誘われてから、ずっと楽しみしてましたから」
その言葉に、結衣さんは少しだけ驚いたように目を見開き、それから嬉しそうに微笑んだ。
「そっか……よかった。私、航平くんの前だと、ついいつも仕事の愚痴ばかり言っちゃうから…可愛げのないとうえのお姉さんって思われてないか、実はちょっと不安だったの
航平くんの大学の周りには、きっともっと明るくて楽しい子がたくさんいるんだろうなって」
結衣さんはクスッと自嘲気味に笑った。
キャンパス、大学。その言葉が俺の喉をカラカラに乾かせる。その世界には本当の俺の居場所なんてない。
けれど、彼女が俺の周囲のいるはずのない『見えない女の子たち』を気にしてくれているのだとしたら、そのもどかしい距離感が、今の俺にはたまらなく愛おしかった。
「そんなこと、絶対にありませんよ。僕は……バーで少し弱音を吐く結衣さんも、こうして目の前で笑ってくれる結衣さんも、全部、その……素敵だと思ってますから」
大学生のフリをして口にしたその言葉は、俺の十七歳の本気そのもだった。
結衣さんは再び目を見開き、それからじわじわと耳の裏まで真っ赤にしていった。
「……航平くんって、本当にずるいよね。そういうことさらっというんだから」
結衣さんは恥ずかしそうさを誤魔化すようにレモネードを一口飲むと、テラス席の向こうに広がる青空を見上げた。その横顔があまりにも綺麗で、俺はまた、嘘という名の底なし沼へ深く沈んでいくのを感じた。
一歩歩くたびに近づく距離。
結衣さんはまっすぐに俺の目を覗き込んできた。長い睫毛の奥にある瞳が、熱を帯びているように見える。
大人の女性である彼女が、俺の時間を気にして、少しだけ気弱な表情を見せている。
俺はニットの袖をぎゅっと握りしめ、大学生としての冷静なトーンを保つために、あらかじめ用意していた嘘の『設定』を脳裏に高速で組み立て直した。
「そんなこと、絶対にないです。僕も、昨日の夜に結衣さんから誘われてから、ずっと楽しみしてましたから」
その言葉に、結衣さんは少しだけ驚いたように目を見開き、それから嬉しそうに微笑んだ。
「そっか……よかった。私、航平くんの前だと、ついいつも仕事の愚痴ばかり言っちゃうから…可愛げのないとうえのお姉さんって思われてないか、実はちょっと不安だったの
航平くんの大学の周りには、きっともっと明るくて楽しい子がたくさんいるんだろうなって」
結衣さんはクスッと自嘲気味に笑った。
キャンパス、大学。その言葉が俺の喉をカラカラに乾かせる。その世界には本当の俺の居場所なんてない。
けれど、彼女が俺の周囲のいるはずのない『見えない女の子たち』を気にしてくれているのだとしたら、そのもどかしい距離感が、今の俺にはたまらなく愛おしかった。
「そんなこと、絶対にありませんよ。僕は……バーで少し弱音を吐く結衣さんも、こうして目の前で笑ってくれる結衣さんも、全部、その……素敵だと思ってますから」
大学生のフリをして口にしたその言葉は、俺の十七歳の本気そのもだった。
結衣さんは再び目を見開き、それからじわじわと耳の裏まで真っ赤にしていった。
「……航平くんって、本当にずるいよね。そういうことさらっというんだから」
結衣さんは恥ずかしそうさを誤魔化すようにレモネードを一口飲むと、テラス席の向こうに広がる青空を見上げた。その横顔があまりにも綺麗で、俺はまた、嘘という名の底なし沼へ深く沈んでいくのを感じた。
一歩歩くたびに近づく距離。


