私は金曜日の午後六時を過ぎた職員室で、パソコンの画面を眺めていた。今日やるべき仕事はまだ残っている。書類提出に、来週の授業準備、美術部の予定表。どれも今日中に終わらせないといけないものだった。
なのに、ふと時計をみる。午後六時二十三分。
今日はどうしようか。
以前なら、仕事が早く終わった金曜日だけ、あのバーに寄っていた。疲れてればそのまま帰ることもあったし、予定があれば行かないこともあった。けれど、最近は違う。
金曜日になると、自然とあの店のことを考えるようになっていた。
航平くんがいる。
いつからだっただろう。
気づけば、彼は毎週のように店にいた。金曜日になれば、いつもの席に座って辛口のジンジャーエールを飲んでいる。最初は偶然だと思っていた。でも、何度か顔を合わせるうちに、彼が毎週来ていることに気がついた。
「……今日もいるのかな」
小さく呟いてから、自分で少し驚いた。
何を期待しているのだろう。そう思いながら、パソコンを閉じた。
その夜、私はいつものようにバーの扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、マスター」
店内を見渡す。すると、いつもの席に航平くんはいた。
「あ……」
思わず声が漏れる。
「結衣さん、こんばんは」
「こんばんは、航平くん」
すぐに自然に笑顔になっている自分に気づいた。
一日中仕事をしていて疲れているはずなのに、彼の顔を見ると自然と肩の力が抜ける。
いつものように彼の隣に座り、ジントニックのライム多めを注文する。
「今日は、いつもより疲れてますね」
「分かる?」
「はい、なんとなく」
「そっか……」
私はマスターからグラスを受け取り、そのまま傾けた。
「実はね――」
そこから仕事の話をする。航平くんはいつも聞いてくれる。時々笑って、時々真剣に相槌を打ってくれる。
特別な話をしているわけじゃない。
それでも、こうして話している時間が心地よかった。
気づけば、グラスは半分ほど空いていた。私は思わず、時計を見る。『もう少しだけ』そう思った。
「航平くん」
「はい、どうしました?」
「……もう一杯付き合ってくれる?」
「え?」
「いや…ほら、まだ帰るにはちょっと早いし……」
自分でも、なんでそんなことを言ったのか分からなかった。ただ、もう少しだけ、この時間を終わらせたくなかった。
「もちろんです」
航平くんはそう言って笑ってくれた。
「じゃあ、もう少しお話ししましょうか」
その言葉に私も自然に笑顔になった。
昔は、時間があれば立ち寄るだけだった
それがいつの間にか、金曜日になると、この店に行くことを考えるようになっていた。
そして私はまだ、その理由を深く考えようとはしなかった。
なのに、ふと時計をみる。午後六時二十三分。
今日はどうしようか。
以前なら、仕事が早く終わった金曜日だけ、あのバーに寄っていた。疲れてればそのまま帰ることもあったし、予定があれば行かないこともあった。けれど、最近は違う。
金曜日になると、自然とあの店のことを考えるようになっていた。
航平くんがいる。
いつからだっただろう。
気づけば、彼は毎週のように店にいた。金曜日になれば、いつもの席に座って辛口のジンジャーエールを飲んでいる。最初は偶然だと思っていた。でも、何度か顔を合わせるうちに、彼が毎週来ていることに気がついた。
「……今日もいるのかな」
小さく呟いてから、自分で少し驚いた。
何を期待しているのだろう。そう思いながら、パソコンを閉じた。
その夜、私はいつものようにバーの扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、マスター」
店内を見渡す。すると、いつもの席に航平くんはいた。
「あ……」
思わず声が漏れる。
「結衣さん、こんばんは」
「こんばんは、航平くん」
すぐに自然に笑顔になっている自分に気づいた。
一日中仕事をしていて疲れているはずなのに、彼の顔を見ると自然と肩の力が抜ける。
いつものように彼の隣に座り、ジントニックのライム多めを注文する。
「今日は、いつもより疲れてますね」
「分かる?」
「はい、なんとなく」
「そっか……」
私はマスターからグラスを受け取り、そのまま傾けた。
「実はね――」
そこから仕事の話をする。航平くんはいつも聞いてくれる。時々笑って、時々真剣に相槌を打ってくれる。
特別な話をしているわけじゃない。
それでも、こうして話している時間が心地よかった。
気づけば、グラスは半分ほど空いていた。私は思わず、時計を見る。『もう少しだけ』そう思った。
「航平くん」
「はい、どうしました?」
「……もう一杯付き合ってくれる?」
「え?」
「いや…ほら、まだ帰るにはちょっと早いし……」
自分でも、なんでそんなことを言ったのか分からなかった。ただ、もう少しだけ、この時間を終わらせたくなかった。
「もちろんです」
航平くんはそう言って笑ってくれた。
「じゃあ、もう少しお話ししましょうか」
その言葉に私も自然に笑顔になった。
昔は、時間があれば立ち寄るだけだった
それがいつの間にか、金曜日になると、この店に行くことを考えるようになっていた。
そして私はまだ、その理由を深く考えようとはしなかった。


