大輝は一瞬きょとんとした顔をして、それから「ぷはっ」と声を殺して笑った。
「あはは、凄いじゃん。だてに毎週あのバーに通ってないね。完全に『大学生の公平先輩』のトークスキルで言い負かしてるじゃん」
「揶揄うなよ。必死だったんだから」
「へえ。じゃあ、その一言で、その子が美術室に戻る幕引きになるかもしれないって感じか」
「……戻ってくれてたら、いいんだけど」
俺が小さく呟くと、大輝は「まぁ、戻るんじゃない?」と気楽に笑った。
「うちの監督とあっちの監督、大学の同期だかでめちゃくちゃ仲良いだろ?だからこれだけ頻繁に練習試合組まれて遠征させられてるわけだしさ。その子が美術部戻れば、遠征行くたび、グラウンドからその子の姿見られるかもな……航平の大好きな、あの人のついでに」
「……まぁ…そうだな」
不意を突かれた俺は、それ以上言葉が続かず、ただ顔が熱くなるのを隠すように慌てて大輝から視線を外した。大輝はそんな俺の様子を見て、声を殺して楽しそうに肩を揺らしている。
窓の外を流れる夕焼けを見つめながら、心の底から監督たちの個人的な仲の良さに感謝した。
バスが大きく揺れ、俺の身体が窓ガラスにコツンと当たった。
自分が仕掛けた小さな変化が、あの美術部を、そして結衣さんの心をどう動かすのか。不安だけど、それ以上に、早く金曜日になってほしいと言う焦燥感が、胸の奥で静かに火を灯していた。
そして、待ち焦がれた金曜日の午後八時。
俺はいつものように駅の公衆便所で窮屈なブレザーを脱ぎ捨て、私服へと着替える。
単発バイトをして稼いだお金を叩いて買ったセレクトショップのチャコールグレーのシャツ。大学生のふりをしているための変装とはいえ、好きな人に毎回同じ服装だと思われるわけにはいかないので、今夜は前ボタンをいくつか開け、中に白いクリーンなカットソー合わせた。大輝のアドバイス通り、少ない軍資金の中で必死に考えた着回しだ。
仕上げに、どの入ってない黒縁の伊達メガネをかけ、前髪をワックスで大人っぽセットする。鏡の中の『少し落ち着いた大学生』を確認し、深く息を吐き出してバーのドアを開ける。
カラン、と静かにガラスの鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ。こんばんは、航平様」
「こんばんは、マスター。今日もジンジャーエールの辛口を」
「あはは、凄いじゃん。だてに毎週あのバーに通ってないね。完全に『大学生の公平先輩』のトークスキルで言い負かしてるじゃん」
「揶揄うなよ。必死だったんだから」
「へえ。じゃあ、その一言で、その子が美術室に戻る幕引きになるかもしれないって感じか」
「……戻ってくれてたら、いいんだけど」
俺が小さく呟くと、大輝は「まぁ、戻るんじゃない?」と気楽に笑った。
「うちの監督とあっちの監督、大学の同期だかでめちゃくちゃ仲良いだろ?だからこれだけ頻繁に練習試合組まれて遠征させられてるわけだしさ。その子が美術部戻れば、遠征行くたび、グラウンドからその子の姿見られるかもな……航平の大好きな、あの人のついでに」
「……まぁ…そうだな」
不意を突かれた俺は、それ以上言葉が続かず、ただ顔が熱くなるのを隠すように慌てて大輝から視線を外した。大輝はそんな俺の様子を見て、声を殺して楽しそうに肩を揺らしている。
窓の外を流れる夕焼けを見つめながら、心の底から監督たちの個人的な仲の良さに感謝した。
バスが大きく揺れ、俺の身体が窓ガラスにコツンと当たった。
自分が仕掛けた小さな変化が、あの美術部を、そして結衣さんの心をどう動かすのか。不安だけど、それ以上に、早く金曜日になってほしいと言う焦燥感が、胸の奥で静かに火を灯していた。
そして、待ち焦がれた金曜日の午後八時。
俺はいつものように駅の公衆便所で窮屈なブレザーを脱ぎ捨て、私服へと着替える。
単発バイトをして稼いだお金を叩いて買ったセレクトショップのチャコールグレーのシャツ。大学生のふりをしているための変装とはいえ、好きな人に毎回同じ服装だと思われるわけにはいかないので、今夜は前ボタンをいくつか開け、中に白いクリーンなカットソー合わせた。大輝のアドバイス通り、少ない軍資金の中で必死に考えた着回しだ。
仕上げに、どの入ってない黒縁の伊達メガネをかけ、前髪をワックスで大人っぽセットする。鏡の中の『少し落ち着いた大学生』を確認し、深く息を吐き出してバーのドアを開ける。
カラン、と静かにガラスの鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ。こんばんは、航平様」
「こんばんは、マスター。今日もジンジャーエールの辛口を」


