放課後のジントニック、美術室の魔法

相手校の激しいプレッシャーに晒されながらも、俺の頭の片隅には、どうしてもあの薄暗いデッドスペースとどこで見た新鮮な色彩が焼き付いて離れなかった。
真面目に、教科書通りに生きてきた俺のサッカーは、綺麗だけど意外性がないと監督によく言われる。
だけど、あの絵には、教科書を破り捨てたような、剥き出しの熱量があった。
(あんな風に、泥臭くても自分の全てをぶつけてみたい)
気がつけば、俺の足はいつもより一歩前へ動いていた。後半二十分、大輝からのパスをいつもなら安全にトラップするところを、反転しながら強引にダイレクトに振り抜いていた。
鋭いシュートがゴール左隅に突き刺さる。
ゴールネットが揺れた瞬間、グラウンドの向こう、あの三階の美術室の窓がチラリと視界に入った。…彼女は、みていただろうか。
試合はそのまま引き分けで終了した。

***

「おい航平、お前後半急にバケモノみたいに突っ込んでったな。何があったんだよ」
帰りの遠征バス。一番後ろの座席のシートに深く腰掛け、窓の外に流れる夕焼け眺めていると、隣の大輝が声を潜めて身を乗り出してきた。
周りの部員たちは、試合の疲れで大半が眠りこけていた。
「……ハーフタイム、ちょっと頭冷やしに校舎の裏に行ったんだよ」
俺も声を極限まで落とし、大輝に聞こえるように囁いた。
「裏?ああ、あの機材置き場のデットスペースか。あそこいつも誰もいないもんな。前、俺も一回頭冷やしに行ったことあるわ」
「いや、人がいたんだよ。…結衣さんが言ってた、あのサボり部員の子がね」
「マジかよ。まさかそんなところで、例の天才部員様と遭遇するとはな。で?何か話しかけたの?」
「ただの『他校の通りすがりのサッカー部員』として、なんでそんなところで描いてるのかって聞いて少しだけ話た。そしたらあいつ、結衣さんの悪口言ってたよ。お手本ばっかり押し付けて、自分の絵をわかってくれようとしないって」
「うわー…尖ってんなぁ。で、説教でもしたわけ?『真面目に部活やれよ』的な」
「ううん、逆。どうでもいい先生なら無視して適当に書き飛ばせばいいじゃんって。そもそもわざわざ部活サボってるのに死に物狂いで絵を描いてるからさ、本当は先生に自分の絵を認めてもらいたいからだろって言っちゃった。そしたら、図星だったのか、完全にフリーズしてた」