砂糖は多めでお願いします。

 そんな話をしているうちに店が混み合ってきたので、会計を済ませて外に出た。
 向かう先は同じ駅なので、佐倉とふたり並んで歩く。なんだか、落ち着かない感覚だった。

 そういえば、席を立つ直前、隣の席にいた女性たちが「尊い」と言って手を合わせていたが、あれはなんだったのか。俺の聞き間違いかもしれない。

 会計は佐倉がまとめて払ってくれたので、歩きながら俺の分を手渡すと、金額を確認していた佐倉が立ち止まった。

「足りてるよな?」
「足りてるっていうか、逆に多いよ。ケーキ一個おごるって言ったのになんで?」
「シェアしてもらったから十分だ。おごられる理由がないだろ」

 最初はおごるということばに釣られてしまったが、冷静になって考えてみれば、なんの理由もなく同級生からおごってもらうのはおかしい。
 焼き菓子は、今度来たときの楽しみにしておいた。季節のケーキが変わったころにまた来たい。

「オレ、こづかい多いから平気だよ。クラスのやつらにいつもおごってるし」
「いつも? 大丈夫かそれ? ちゃんと断れよ」
「平気。ちょっとやそっとじゃなくならない金額だから」

 薄々気づいていたが、佐倉の家はそうとう裕福なご家庭らしい。金持ちだから金銭感覚がずれているのか、的外れな返事を聞いて心配になってきた。

「そういう問題じゃないだろ。おまえの金なんだから、自分のために使えよ」

 そう言うと、佐倉は驚いたかのように目を見開いた。

「べつにバイトで稼いだわけじゃなくて、親にもらったお金なんだけど」
「それでも、親がおまえに使ってもらうために渡した金だろ」

 思わずむっとして言ってしまったが、今日はじめてまともに喋ったような相手に対してあまりにも踏み込みすぎた気がした。完全に言いすぎた。

 佐倉はさっきから黙り込んだまま、茫然とこちらを見ている。

「……悪かった」
「なんで塩屋が謝んの?」
「いや、余計なお世話かと思って」
「塩屋はオレのために怒ってくれたんでしょ。ありがと」

 笑みを浮かべて財布に金をしまった佐倉が、ふたたび駅に向かって歩き出す。ケーキ一個分の代金は返されなかった。

「塩屋っていいな」

 ひとりごとみたいな響きで佐倉が言う。

「いい? なにが?」
「オレのまわりにいなかったタイプ。もっと早く話しかければよかった」

 質問の返事になっていない。意味がわからない。

 俺にとっても、佐倉はまわりにいなかったタイプだ。人懐っこくてマイペースで、遠慮がない。それが不思議と不快ではなく、ただひたすらに戸惑った。どこか放っておけないような雰囲気を持っていて、整った容姿のせいか妙に視線が引き寄せられる。

「なんだって?」
「塩屋と仲よくなりたい、って言ったんだよ」
「いま、そんなこと言ったか?」
「明日から、教室で話しかけてもいい?」

 さっきから会話が噛み合わない。

「好きにしろ」
「やった。そういえば、さっきの返事聞いてないんだけど」
「さっきの?」
「スイーツ巡り、いっしょに行こうって話」

 期待のこもった瞳に見つめられて、たじろいだ。ここで断ったら佐倉ががっかりするのが想像できる。それをあまり見たくないと思ってしまった。

「……好きにしろ」
「ありがと、塩屋。楽しみにしてるね」

 うれしそうに笑う佐倉を見ていたら、とても邪険にはできなかった。なんだか、でかい犬に懐かれたような気分だった。
 はじめてスイーツ好きな仲間ができて、俺は舞い上がっているのかもしれない。
 そのときのふわふわとした気持ちを、俺はそう結論づけた。