「前にも言ったけど、オレがやさしくしたいと思うのは塩屋だけだよ。塩屋のことが好きだから、やさしくしたいんだよ」
言われてみれば、俺と俺以外の前で佐倉の態度はまったく違っていた。鈍いにもほどがある。
でも、実感がわかない。佐倉が俺を好きだなんて。うれしさよりも、まだ戸惑いのほうが大きい。
「なんで、俺を……」
「たぶん、佐倉がケーキを食べて笑ったのをはじめて見たときから好きだったんだと思う。しあわせそうに笑うのを見て、かわいいなって思った」
「かわいい?」
それは俺からいちばん遠いことばに思えた。
「うん。塩屋はかっこいいんだけど、かわいいよ。すぐに好きになって、仲よくなりたくて、そばにいたくて……だれかを好きになったのなんてはじめてだから、どうすればいいかわかんなくて、塩屋にもいっぱい無理言って迷惑かけたよね。恋人のふりしようって言い出したときもとっさで、塩屋を取られたくなくて必死だった。それなのに、塩屋はいつも許してくれた。オレに甘くて、やさしくて、男らしくて、かっこよくて、かわいくて、オレはどんどん塩屋を好きになった」
最初、佐倉の強引さに戸惑った。でも、いやじゃなかった。いつからか、俺も佐倉に惹かれていたんだと思う。
「文化祭が終わったら、恋人同士のふりはやめようって塩屋に言うつもりだった。俺は、偽物じゃなくて、塩屋と本当の恋人同士になりたいから」
ようやく、すべてがつながった。
……なんだ、佐倉はずっと俺を好きでいてくれたんだ。
「塩屋に好きなひとがいるなら……すぐには無理かもしれないけど、好きになってもらえるようにがんばるから。少しずつオレのこと意識してもらえたらうれしいな。恋人のふりはやめて、友達から……ううん、スイーツ仲間からもう一回はじめさせてくれない?」
佐倉は、「お願い」とは言わなかった。さっきは「オレにしなよ」なんて強引なことを言ったくせに、結局は俺の気持ちを優先してくれた。
こちらを見つめる茶色の瞳に不安はあるけれど、すべてを打ち明けた佐倉はどこかすっきりとした顔をしていた。
今度は、俺が打ち明ける番だった。相手の気持ちがわかっていてもこんなに心臓がうるさくなるのに、佐倉はどれほど緊張したのだろうか。
「だめだ」
「……えっ」
俺のことばに、佐倉はぽっかりと口を開いた。
「スイーツ仲間だけじゃ足りない。俺はおまえと本当の恋人同士になりたい」
佐倉がすごい速さでまばたきを繰り返している。まつげが長いので、まばたきの音が聞こえてきそうだ。
「……それは、オレに気を使ってくれてる?」
「違う」と首を横に振れば、息を飲む音が聞こえてきた。
「俺はお前が好きだ」
「いつ、から?」
信じられないと言う目で見られた。
「いつからなんだろうな。おまえと同じで最初から惹かれていたのかもしれないな。おまえのお願いを本気でいやだと思ったことは一度もなかったから。……自分の気持ちに気づいたのはついさっきだ。おまえに好きな相手がいると知ったとき、おまえのそばにいるのが俺じゃなくなるのはいやだと思った。俺以外のやつがおまえに甘えられて、お菓子を贈られて、やさしくされて、触れられて、笑いかけられるのはいやだと思った」
佐倉のしあわせを願いながらも、その相手が妬ましかった。
俺がソファから立ち上がると、いまだ茫然とこちらを見ている佐倉の視線も追いかけてくる。隣に座ると、視線が近くで交わった。
「佐倉、おまえが好きだ」
俺のことばにじわじわと顔を赤くさせていく男が、いとおしくてたまらなかった。
身体がひとりでに動いて、気づけば佐倉を抱きしめていた。
「――っ」
耳元で息を飲む音が聞こえてくる。きつく抱きしめ返されて、甘い匂いに包まれた。
伝わってくる体温が心地いい。密着した身体を通して、佐倉の速い心音が聞こえてくる。きっと、俺の心臓も同じくらい速くなっているに違いない。
「オレも、好き。塩屋のことが好き。大好き。塩屋、もう一回好きって言って」
佐倉のまっすぐな甘いことばが身体に溶け込んで、じんわりと胸が熱くなる。
砂糖をどんどん溶かされてひどく甘ったるいのに、もっと甘さが欲しくなる。
「ああ。好きだよ、佐倉」
「うん、オレも好き。もう一回」
甘えた声でねだられた。そんなにかわいいお願いをされたら、何度でも答えてやりたくなってしまう。
「好きだ」
思わず口元がゆるんで、笑い声混じりの声になった。
「オレも大好き」
耳元で甘いことばをささやいたあと、佐倉の身体がゆっくりと離れていった。名残惜しい気持ちになりながら顔を上げると、すぐそばにきれいな顔があった。
「――塩屋」
まるで砂糖を大量に混ぜ込んだような甘ったるい声に名前を呼ばれた。
ゆっくりと顔が近づいてきて、唇にやわらかいものが一瞬触れてくる。キスされたんだとわかったのは、佐倉の顔が離れたあとだった。
「……いや、だった?」
そこで不安そうな顔になるのもかわいい。佐倉に触れられて、いやなわけないのに。
「びっくりしただけだ」
「じゃあ、もう一回していい?」
何度でもしていい。そう言う時間さえもどかしくて、返事をする代わりに自分から顔を寄せた。
互いの唇が触れ合って、さっきよりも佐倉の体温をしっかりと感じる。触れ合っているあいだも互いの体温がどんどん上がっていくような気がした。
佐倉は甘い匂いがする上に、唇まで甘い。佐倉はスイーツみたいだ。
甘くて、きれいで、かわいくて、くせになる。もっと、もっと、欲しくなる。
「佐倉、もっと」
「うん……オレも足んない」
佐倉といっしょにいると、極上のスイーツを味わっているみたいに、俺はしあわせな気持ちで満たされる。
言われてみれば、俺と俺以外の前で佐倉の態度はまったく違っていた。鈍いにもほどがある。
でも、実感がわかない。佐倉が俺を好きだなんて。うれしさよりも、まだ戸惑いのほうが大きい。
「なんで、俺を……」
「たぶん、佐倉がケーキを食べて笑ったのをはじめて見たときから好きだったんだと思う。しあわせそうに笑うのを見て、かわいいなって思った」
「かわいい?」
それは俺からいちばん遠いことばに思えた。
「うん。塩屋はかっこいいんだけど、かわいいよ。すぐに好きになって、仲よくなりたくて、そばにいたくて……だれかを好きになったのなんてはじめてだから、どうすればいいかわかんなくて、塩屋にもいっぱい無理言って迷惑かけたよね。恋人のふりしようって言い出したときもとっさで、塩屋を取られたくなくて必死だった。それなのに、塩屋はいつも許してくれた。オレに甘くて、やさしくて、男らしくて、かっこよくて、かわいくて、オレはどんどん塩屋を好きになった」
最初、佐倉の強引さに戸惑った。でも、いやじゃなかった。いつからか、俺も佐倉に惹かれていたんだと思う。
「文化祭が終わったら、恋人同士のふりはやめようって塩屋に言うつもりだった。俺は、偽物じゃなくて、塩屋と本当の恋人同士になりたいから」
ようやく、すべてがつながった。
……なんだ、佐倉はずっと俺を好きでいてくれたんだ。
「塩屋に好きなひとがいるなら……すぐには無理かもしれないけど、好きになってもらえるようにがんばるから。少しずつオレのこと意識してもらえたらうれしいな。恋人のふりはやめて、友達から……ううん、スイーツ仲間からもう一回はじめさせてくれない?」
佐倉は、「お願い」とは言わなかった。さっきは「オレにしなよ」なんて強引なことを言ったくせに、結局は俺の気持ちを優先してくれた。
こちらを見つめる茶色の瞳に不安はあるけれど、すべてを打ち明けた佐倉はどこかすっきりとした顔をしていた。
今度は、俺が打ち明ける番だった。相手の気持ちがわかっていてもこんなに心臓がうるさくなるのに、佐倉はどれほど緊張したのだろうか。
「だめだ」
「……えっ」
俺のことばに、佐倉はぽっかりと口を開いた。
「スイーツ仲間だけじゃ足りない。俺はおまえと本当の恋人同士になりたい」
佐倉がすごい速さでまばたきを繰り返している。まつげが長いので、まばたきの音が聞こえてきそうだ。
「……それは、オレに気を使ってくれてる?」
「違う」と首を横に振れば、息を飲む音が聞こえてきた。
「俺はお前が好きだ」
「いつ、から?」
信じられないと言う目で見られた。
「いつからなんだろうな。おまえと同じで最初から惹かれていたのかもしれないな。おまえのお願いを本気でいやだと思ったことは一度もなかったから。……自分の気持ちに気づいたのはついさっきだ。おまえに好きな相手がいると知ったとき、おまえのそばにいるのが俺じゃなくなるのはいやだと思った。俺以外のやつがおまえに甘えられて、お菓子を贈られて、やさしくされて、触れられて、笑いかけられるのはいやだと思った」
佐倉のしあわせを願いながらも、その相手が妬ましかった。
俺がソファから立ち上がると、いまだ茫然とこちらを見ている佐倉の視線も追いかけてくる。隣に座ると、視線が近くで交わった。
「佐倉、おまえが好きだ」
俺のことばにじわじわと顔を赤くさせていく男が、いとおしくてたまらなかった。
身体がひとりでに動いて、気づけば佐倉を抱きしめていた。
「――っ」
耳元で息を飲む音が聞こえてくる。きつく抱きしめ返されて、甘い匂いに包まれた。
伝わってくる体温が心地いい。密着した身体を通して、佐倉の速い心音が聞こえてくる。きっと、俺の心臓も同じくらい速くなっているに違いない。
「オレも、好き。塩屋のことが好き。大好き。塩屋、もう一回好きって言って」
佐倉のまっすぐな甘いことばが身体に溶け込んで、じんわりと胸が熱くなる。
砂糖をどんどん溶かされてひどく甘ったるいのに、もっと甘さが欲しくなる。
「ああ。好きだよ、佐倉」
「うん、オレも好き。もう一回」
甘えた声でねだられた。そんなにかわいいお願いをされたら、何度でも答えてやりたくなってしまう。
「好きだ」
思わず口元がゆるんで、笑い声混じりの声になった。
「オレも大好き」
耳元で甘いことばをささやいたあと、佐倉の身体がゆっくりと離れていった。名残惜しい気持ちになりながら顔を上げると、すぐそばにきれいな顔があった。
「――塩屋」
まるで砂糖を大量に混ぜ込んだような甘ったるい声に名前を呼ばれた。
ゆっくりと顔が近づいてきて、唇にやわらかいものが一瞬触れてくる。キスされたんだとわかったのは、佐倉の顔が離れたあとだった。
「……いや、だった?」
そこで不安そうな顔になるのもかわいい。佐倉に触れられて、いやなわけないのに。
「びっくりしただけだ」
「じゃあ、もう一回していい?」
何度でもしていい。そう言う時間さえもどかしくて、返事をする代わりに自分から顔を寄せた。
互いの唇が触れ合って、さっきよりも佐倉の体温をしっかりと感じる。触れ合っているあいだも互いの体温がどんどん上がっていくような気がした。
佐倉は甘い匂いがする上に、唇まで甘い。佐倉はスイーツみたいだ。
甘くて、きれいで、かわいくて、くせになる。もっと、もっと、欲しくなる。
「佐倉、もっと」
「うん……オレも足んない」
佐倉といっしょにいると、極上のスイーツを味わっているみたいに、俺はしあわせな気持ちで満たされる。
