砂糖は多めでお願いします。

 文化祭当日まではあっという間だった。

 放課後はほとんど準備に追われ、スイーツ巡りは軽めになったが、休日には平日の分を取り戻すかのように佐倉と遊び歩いた。
 佐倉とクラスメイトの関係は良好に見え、俺も少しずつクラスに溶け込んでいった。

 文化祭の一日目。更衣室で衣装に着替え、佐倉といっしょに教室へ戻ると、クラスの女子たちからざわめきが起こった。廊下を歩いているときも視線を感じたので、予想はしていた。理由は、俺の隣にいる男である。

 うちのクラスのテーマは縁日だ。内装は祭の縁日風に飾られ、衣装は浴衣で統一されている。
 ベビーカステラがパフェ仕様とあり、喫茶店風の内装にして衣装はメイド服と執事服にするという案も出たが、多数決の結果、僅差で浴衣になった。

 佐倉に見惚れている女子たちが、「かっこいい」だとか、「浴衣に投票してよかった」「やばっ、色気はんぱない」だとか言っている声が聞こえてくる。

「ちょっとやりすぎたかも」
「そうか? よく似合ってるぞ」

 佐倉の浴衣は白地に黒色の細かい線が入った生地で、だれにでも似合うようなものではなかった。
 今回、浴衣は自分で持っているものを着るか、新たにクラスの予算を使って購入する形だったが、佐倉は自前の浴衣を持ってきた。素人目に見ても、安物の浴衣とはあきらかに違うとわかる代物だった。佐倉が着ると、なおさら高級そうに見えた。
 いつもよりアクセサリーは控えめで、前髪の分け目を変えて軽く撫でつけている。それだけで、雰囲気ががらりと変わった。

「オレじゃなくて、塩屋の話」
「俺?」

 俺の浴衣は佐倉に貸してもらったものだ。紺色の生地にストライプのような白い模様が等間隔に描かれた浴衣だ。
 着つけてくれたのは佐倉で、その上髪型のセットもしてくれた。いつもは分けるだけの前髪をほとんど上げているので、割と落ち着かない。

「オレがプロデュースするからには塩屋をかっこよくしなきゃと思って気合い入れたけど、正直あんまり見せびらかしたくないかも」

 意味がわからない。それに、プロデュースなんて大げさだ。


 開会式が終わって教室へ戻り、模擬店がはじまると目が回るほどの忙しさになった。教室の外には常に行列ができていて、佐倉の人気を改めて実感した。

 俺と佐倉の担当は盛りつけだ。あらかじめカップに入れておいたベビーカステラの上に佐倉がクリームを絞り、俺がソースや飾りのお菓子を載せる。次から次へと注文が入るので、手が止まるひまもない。

 さらには、ミニゲームの景品の対応もあるのだ。ミニゲームは輪投げで、高得点を取るとチョコペンで絵を描いたクッキーが一枚サービスになる。
 絵柄は三種の中から選べて、絵を描く担当は絵柄によって決まっている。佐倉が猫の担当、俺は笑顔の絵文字のようなマークの担当だ。先にストックを作ってあるものの、佐倉の描いた猫はとてもかわいく、どんどんなくなっていった。

「佐倉くん、塩屋くん、担当代わるからそろそろクッキーの追加お願い」
「了解」
「わかった」

 佐倉がその場でクッキーに絵を描いていると、佐倉を目当てにやってきた生徒の目に留まり、ますます猫のクッキーは人気になっていく。

 目と口を描くだけの単純な絵ながら、不器用な俺の描く笑顔はいびつになった。それなのに、次々となくなっていくのだから不思議だ。逆にシュールで人目を引くのだろうか。どう考えても佐倉の猫や、ほかの女子たちが描いてくれたハートのほうがかわいいだろうに。

 二日目の一般公開でも、うちのクラスの模擬店は変わらず人気だった。
 うちの家族も姿を見せ、母も妹も佐倉の描いたクッキーを選んでいた。俺のクッキーを選ぶ気は最初からなかったようで、かわいさを見れば当然だが、なんだか納得いかなかった。

 そして、うちのクラスは見事に人気投票で一位を獲得した。終わったあとはクラス全員での打ち上げになって、行くつもりはなかったのに、「佐倉くんと塩屋くんがいちばん貢献したんだから」と言われ、断れる雰囲気ではなかった。

 佐倉はともかく俺は違うだろうと思ったが、佐倉が行くのなら断る理由もない。
 佐倉との約束を俺はまだ果たせていないのだから。