さすがにすべての味をパフェ形式にして食べるのはカロリーの摂り過ぎなので、試食はひとつのベビーカステラに適量のトッピングを添えて試していった。
「これ、絶対飲み物あったほうがいいな」
「そうだね、会議のとき提案しとく」
アイスクリームに缶詰めの果物、あんこやカスタードクリームなど、いろいろと試してみたが、やっぱりホイップクリームとソースや粉末を組み合わせて食べるのが最強に思えた。ベビーカステラが素朴な味だからこそ、甘さも釣り合う。
「味は何種類かあったほうがいいよね?」
「多すぎても作るほうが手間になるし、材料が余った場合もったいないからな。三種くらいでいいんじゃないか」
「そうだね。どれがいいか、せーので三回指差そう」
チョコ、いちご、抹茶、きなこ、キャラメル、ブルーベリー、はちみつ。ノートに書いた味のリストをふたりで指差し合った結果、俺と佐倉が選んだのは完全に同じだった。
立て続けに三回指を差して、最後の三つ目まで同じだとわかった瞬間、ふたりで声を上げて笑ってしまった。
「オレたち気が合いすぎでしょ」
「まさか完全に一致するとはな」
俺たちが選んだのは、チョコ、キャラメル、抹茶の三種だった。
「抹茶はいちごと迷ったんだけどね、抹茶好きって結構いるでしょ」
「根強い印象だな。佐倉が通販で買ってくれた抹茶ホイップがよかった。抹茶ソースや抹茶の粉末は高くて手が出ないけど、このホイップなら予算内だ」
「時期的に抹茶のお菓子が出回ってるから、飾り用のお菓子もスーパーで買えるしね」
それから、三種の味をそれぞれカップに入れて実際に販売するときと同じように作ってみた。
ドリンク用のカップだと深さがあるから量が必要になり、どうにも食べづらくなる。カップアイスを入れるような深さの紙カップのほうがちょうどよさそうだ。百均だと割高なので、業務用の資材店ならもっと安くていいものが買えるかもしれない。
チョコ味は、ホイップクリームにチョコソース、飾りは枝を模したチョコ菓子に。キャラメル味は、ホイップクリームにキャラメルソース、飾りはキャラメル風味のビスケット。抹茶味は、抹茶フレーバーのホイップクリームに、飾りは棒状のビスケットに抹茶チョコを絡めたロングセラーのお菓子を選んだ。
俺と違って、佐倉は飾り方にセンスがあるし、ホイップクリームの絞り方も上手くて見栄えがいい。
「やっぱり、佐倉は手馴れてるな。俺はクリームの絞り方を練習しないと……」
「オレが手取り足取り腰取り教えるから、安心して」
「腰……?」
三つの完成品を写真に収めて、俺たちの腹にも収め、材料費を計算してノートにまとめ終えるころには夜の七時を過ぎていた。
「結局、佐倉にまかせきりだったな。料理だと役に立たなくて悪い」
ふたりで夕食の準備をはじめたものの、包丁を使ったら「危なっかしいんだけど」と佐倉に言われて取り上げられ、混ぜる、炒める、くらいの簡単な作業しかできなかった。
「なに言ってるの、そんなことないよ。焼きそばもフランクも炒めてくれたじゃん。むしろ塩屋が作ったと言っても過言じゃないよ」
「いや、過言だろ」
俺は佐倉にだいぶ甘い自覚があるが、佐倉もそうとう俺に甘いと思う。
「ねえ、塩屋。デザート食べたくない? またベビーカステラになっちゃうけど」
「またベビーカステラでも大歓迎だ」
三つ作ったパフェは小ぶりな上にふたりでシェアしたので、正直まだまだ食べられる。
準備すると言って俺の分まで食器を片づけようとした佐倉を押し留め、自分で食器を持ってキッチンへついていくと、佐倉は棚から大きい箱を取り出した。
「実は買っちゃったんだよね、これ」
「……ベビーカステラを食うんだよな?」
箱にはたこ焼き機と書いてある。まさか、たこ焼きを食べてからベビーカステラを食べるわけじゃないはずだ。
「うん。たこ焼き機でベビーカステラ作れるんだよ。材料そろってるし、簡単だからすぐにできるよ」
「へえ、そうなのか。一瞬、これからたこ焼き作る気なのかと思ったけどな」
「あはは、たこパはまた今度やろ」
佐倉がベビーカステラの生地を作るあいだ、俺が皿洗いを引き受けた。
調理台の下の収納から佐倉がボウルを取り出し、慣れた手つきで卵をボウルの中に割り入れる。さすが、毎日のようにお菓子作りをしているだけあって、泡だて器でかき回すしぐさもさまになっている。
「みりん?」
佐倉が手にした瓶を見て、思わず声を上げていた。
「お菓子に使うイメージないでしょ。甘いからお菓子にも合うんだよ」
「へえ……」
俺はみりんが甘いことも知らなかった。
次々と材料を入れて掻き回し、最後にホットケーキミックスを入れて、あっという間に生地ができた。
「じゃあ、焼いてくね」
そう言って、佐倉が温めたたこ焼き機にサラダ油を塗り、生地を流し込んでいく。
たこ焼きみたいにくるくる回して丸くするのかと思っていたら、佐倉は半球の形に焼けたベビーカステラを竹串ですくい取り、べつの半球にくっつけて球体を作っていた。
みるみるうちに、きれいな焼き色のついたベビーカステラがいくつもできあがっていく。焼きたての匂いがたまらない。
「すごいな、売り物みたいだ」
器用でお菓子作りに慣れている佐倉だからこそ、手早くきれいな形に作れたのだ。不器用な俺ではこうはいかない。
出来上がったベビーカステラを二枚の皿に移し、試作で余ったトッピングといっしょにテーブルへ運ぶ。たこ焼きパーティならぬ、ベビーカステラパーティだ。
「……っ」
一口食べて驚いた。既製品も美味かったが、焼きたてのベビーカステラはふわふわもちもちで、トッピングをつけずにそのまま食べてもすごく美味かった。
「焼き加減大丈夫だった?」
「ああ、ばっちりだ。すごく美味いよ」
「よかった。作ったものすぐに食べてもらえるのいいね。今度から塩屋が来るときは毎回お菓子作ろうかな」
そう言って笑っているあいだも、佐倉の視線は俺から離れない。自分の分に手をつけず、フォークさえ持っていなかった。
「おまえも食えよ」
「あ、うん。……美味しい。そのままでもいけるね。ホットケーキミックス余ってるから、またいっしょに食べよ。今度は中にチョコとか入れてもいいかも」
「それは美味そうだな」
想像しただけで、うっとりしてしまいそうだ。
「見て見て、塩屋。たこ焼きみたい」
「いいな、それ」
たこ焼きソースに見立てたチョコソースとカラフルなチョコスプレーのかかったベビーカステラは、確かにたこ焼きみたいだった。
俺も真似して食べて、次はクリームの甘みが恋しくなったので、ホイップクリームをたっぷり絡めて食べる。
その日の夕食は、満腹になるまで屋台飯を堪能できた。
「これ、絶対飲み物あったほうがいいな」
「そうだね、会議のとき提案しとく」
アイスクリームに缶詰めの果物、あんこやカスタードクリームなど、いろいろと試してみたが、やっぱりホイップクリームとソースや粉末を組み合わせて食べるのが最強に思えた。ベビーカステラが素朴な味だからこそ、甘さも釣り合う。
「味は何種類かあったほうがいいよね?」
「多すぎても作るほうが手間になるし、材料が余った場合もったいないからな。三種くらいでいいんじゃないか」
「そうだね。どれがいいか、せーので三回指差そう」
チョコ、いちご、抹茶、きなこ、キャラメル、ブルーベリー、はちみつ。ノートに書いた味のリストをふたりで指差し合った結果、俺と佐倉が選んだのは完全に同じだった。
立て続けに三回指を差して、最後の三つ目まで同じだとわかった瞬間、ふたりで声を上げて笑ってしまった。
「オレたち気が合いすぎでしょ」
「まさか完全に一致するとはな」
俺たちが選んだのは、チョコ、キャラメル、抹茶の三種だった。
「抹茶はいちごと迷ったんだけどね、抹茶好きって結構いるでしょ」
「根強い印象だな。佐倉が通販で買ってくれた抹茶ホイップがよかった。抹茶ソースや抹茶の粉末は高くて手が出ないけど、このホイップなら予算内だ」
「時期的に抹茶のお菓子が出回ってるから、飾り用のお菓子もスーパーで買えるしね」
それから、三種の味をそれぞれカップに入れて実際に販売するときと同じように作ってみた。
ドリンク用のカップだと深さがあるから量が必要になり、どうにも食べづらくなる。カップアイスを入れるような深さの紙カップのほうがちょうどよさそうだ。百均だと割高なので、業務用の資材店ならもっと安くていいものが買えるかもしれない。
チョコ味は、ホイップクリームにチョコソース、飾りは枝を模したチョコ菓子に。キャラメル味は、ホイップクリームにキャラメルソース、飾りはキャラメル風味のビスケット。抹茶味は、抹茶フレーバーのホイップクリームに、飾りは棒状のビスケットに抹茶チョコを絡めたロングセラーのお菓子を選んだ。
俺と違って、佐倉は飾り方にセンスがあるし、ホイップクリームの絞り方も上手くて見栄えがいい。
「やっぱり、佐倉は手馴れてるな。俺はクリームの絞り方を練習しないと……」
「オレが手取り足取り腰取り教えるから、安心して」
「腰……?」
三つの完成品を写真に収めて、俺たちの腹にも収め、材料費を計算してノートにまとめ終えるころには夜の七時を過ぎていた。
「結局、佐倉にまかせきりだったな。料理だと役に立たなくて悪い」
ふたりで夕食の準備をはじめたものの、包丁を使ったら「危なっかしいんだけど」と佐倉に言われて取り上げられ、混ぜる、炒める、くらいの簡単な作業しかできなかった。
「なに言ってるの、そんなことないよ。焼きそばもフランクも炒めてくれたじゃん。むしろ塩屋が作ったと言っても過言じゃないよ」
「いや、過言だろ」
俺は佐倉にだいぶ甘い自覚があるが、佐倉もそうとう俺に甘いと思う。
「ねえ、塩屋。デザート食べたくない? またベビーカステラになっちゃうけど」
「またベビーカステラでも大歓迎だ」
三つ作ったパフェは小ぶりな上にふたりでシェアしたので、正直まだまだ食べられる。
準備すると言って俺の分まで食器を片づけようとした佐倉を押し留め、自分で食器を持ってキッチンへついていくと、佐倉は棚から大きい箱を取り出した。
「実は買っちゃったんだよね、これ」
「……ベビーカステラを食うんだよな?」
箱にはたこ焼き機と書いてある。まさか、たこ焼きを食べてからベビーカステラを食べるわけじゃないはずだ。
「うん。たこ焼き機でベビーカステラ作れるんだよ。材料そろってるし、簡単だからすぐにできるよ」
「へえ、そうなのか。一瞬、これからたこ焼き作る気なのかと思ったけどな」
「あはは、たこパはまた今度やろ」
佐倉がベビーカステラの生地を作るあいだ、俺が皿洗いを引き受けた。
調理台の下の収納から佐倉がボウルを取り出し、慣れた手つきで卵をボウルの中に割り入れる。さすが、毎日のようにお菓子作りをしているだけあって、泡だて器でかき回すしぐさもさまになっている。
「みりん?」
佐倉が手にした瓶を見て、思わず声を上げていた。
「お菓子に使うイメージないでしょ。甘いからお菓子にも合うんだよ」
「へえ……」
俺はみりんが甘いことも知らなかった。
次々と材料を入れて掻き回し、最後にホットケーキミックスを入れて、あっという間に生地ができた。
「じゃあ、焼いてくね」
そう言って、佐倉が温めたたこ焼き機にサラダ油を塗り、生地を流し込んでいく。
たこ焼きみたいにくるくる回して丸くするのかと思っていたら、佐倉は半球の形に焼けたベビーカステラを竹串ですくい取り、べつの半球にくっつけて球体を作っていた。
みるみるうちに、きれいな焼き色のついたベビーカステラがいくつもできあがっていく。焼きたての匂いがたまらない。
「すごいな、売り物みたいだ」
器用でお菓子作りに慣れている佐倉だからこそ、手早くきれいな形に作れたのだ。不器用な俺ではこうはいかない。
出来上がったベビーカステラを二枚の皿に移し、試作で余ったトッピングといっしょにテーブルへ運ぶ。たこ焼きパーティならぬ、ベビーカステラパーティだ。
「……っ」
一口食べて驚いた。既製品も美味かったが、焼きたてのベビーカステラはふわふわもちもちで、トッピングをつけずにそのまま食べてもすごく美味かった。
「焼き加減大丈夫だった?」
「ああ、ばっちりだ。すごく美味いよ」
「よかった。作ったものすぐに食べてもらえるのいいね。今度から塩屋が来るときは毎回お菓子作ろうかな」
そう言って笑っているあいだも、佐倉の視線は俺から離れない。自分の分に手をつけず、フォークさえ持っていなかった。
「おまえも食えよ」
「あ、うん。……美味しい。そのままでもいけるね。ホットケーキミックス余ってるから、またいっしょに食べよ。今度は中にチョコとか入れてもいいかも」
「それは美味そうだな」
想像しただけで、うっとりしてしまいそうだ。
「見て見て、塩屋。たこ焼きみたい」
「いいな、それ」
たこ焼きソースに見立てたチョコソースとカラフルなチョコスプレーのかかったベビーカステラは、確かにたこ焼きみたいだった。
俺も真似して食べて、次はクリームの甘みが恋しくなったので、ホイップクリームをたっぷり絡めて食べる。
その日の夕食は、満腹になるまで屋台飯を堪能できた。
