砂糖は多めでお願いします。

 金曜日は、朝から放課後が楽しみだった。それどころか、木曜日からそわそわしていたくらいだ。

 佐倉の最寄駅で電車を降りて、はじめに百均で使い捨てのコップとフォークやピックをいくつか選んだ。そのあとは、スーパーに移動してベビーカステラパフェに必要な食材を買いに行った。
 どうしても自分が持つというので、買い物かごは佐倉にまかせた。カートも押したいと言い出したが、重いものを買う予定もないで、あきらめてもらった。

「なんか、どきどきするね。オレたち新婚みたいじゃない?」

 前にも佐倉が同じようなことを言っていたのを思い出す。
 新婚はともかくとして、佐倉と店に入るのは慣れていても、スーパーでいっしょに食材を買うのなんてはじめてだ。

「ただ買い物してるだけだろう」
「ハニー、今夜はなに食べたい?」
「ベビーカステラだな」

 いまは完全にベビーカステラの口になっている。

 俺の返事を聞いた佐倉が、ふっと噴き出した。

「だろうねー。でも冗談じゃなくて、今日の夜ごはんどうしよっか? さすがにベビーカステラだけで済ますわけにもいかないでしょ。簡単なものなら作れるよ」

 最近、佐倉はお菓子だけでなく、食事の料理もするようになった。うちに来るたび、母からレシピをもらっているのだ。

「いや、作ってもらうのも悪いだろ。弁当でも買っていけばいいんじゃないか。外食してもいいし」

 俺もいっしょに作れるのなら賛成するが、料理はさっぱりなので佐倉にまかせきりになってしまう。

「全然悪くないのに。……あ、そうだ。焼きそばにしない? こないだのホームルームからずっと食べたくて」
「わかる。ついでに、フランクフルト食わないか?」

 焼きそばとフランクフルトなら、なんとか手伝えるかもしれない。

「いいね、今夜は屋台飯にしよう」

 そうして、ベビーカステラの試作用食材のほかに、夕食の食材も買ってスーパーを出た。

 佐倉の家は駅のすぐ近くにある高層マンションだ。来るのはこれで二度目だが、外観やエントランスからして高級感のある雰囲気のせいか、どうにも落ち着かない。モノトーンを基調とした内装は落ち着いた雰囲気で、佐倉によく似合っていた。
 やたら広いリビングにあるやたら大きなソファにかばんと上着を置かせてもらい、邪魔になるのでネクタイも外した。
 シャツをまくってからキッチンへ行くと、なにか言いたげな視線を佐倉から向けられた。

「なんだよ?」
「やっぱり、塩屋ってかっこいいよね。腕まくり似合う」

 そう言う佐倉は、同じように上着を脱いでシャツの上にシンプルなデザインの黒いエプロンを身につけていた。やたらとさまになっていて、おしゃれなカフェに迷い込んだかと思ったほどだ。

「いや、おまえのほうが……」

 期待に満ちた瞳を向けられて、思わず唇を引き結んだ。学校の廊下でやらかしてしまったことを思い出して、顔が熱くなってくる。

「いいから、はじめるぞ」
「全然よくない。塩屋がなに言おうとしたのか気になって、今夜眠れないかも」
「じゃあ、眠れるまで起きててくれ」
「うわ、冷たい。こないだは言ってくれたのに。っていうかなんで顔赤いの?」

 今後は間近から顔を覗き込まれた。

「俺がなに言うかわかってるなら、言う必要ないだろ」
「必要あるよ。塩屋の口から聞きたい」
「……おまえのほうがかっこいい。これでいいか?」
「うん。ありがと」

 満足そうに笑う佐倉を見たら、文句を言えなくなった。

「はい、これ塩屋のエプロンね。制服汚すといけないから着けといたほうがいいよ」
「悪いな、エプロンまで頭が回らなかった。ありがたく借りておくよ」

 貸してもらったエプロンは、佐倉が身につけているものと同じデザインの色違いだった。こっちは紺色だ。
 首に輪を通したあと、腰の紐を背中側で結んだが、やたらと紐が長くて無駄に余っている。正しい着方がわからず俺が戸惑っていると、「違うよ」と佐倉が腰の紐をほどいてしまった。

「これ、もう一回前に持ってきて前で結ぶんだよ」

 そう言いながら、紐を俺の腰の前に持ってきて結びはじめた。背中に佐倉の身体が密着して、首にやわらかな髪が触れてくる。くすぐったくて、じっとしているのが大変だった。
 佐倉の身体が離れる直前、首筋になにかやわらかいものが触れた気がしたが、あれはなんだったのか。

「エプロンのレンタル代ってことで」

 なにを言っているのかわからない。どうやら、俺はなにかを徴収されたらしい。