挙手制で班分けをした結果、なんと提供班は俺と佐倉以外、全員女子になった。
教室の後ろから見ていた様子だと、佐倉が目当ての女子も多いようだ。佐倉が手を上げるのを確認して、あとから手を上げている生徒を何人か見ている。相変わらず、すごい人気だ。
教室内で班ごとに別れて顔合わせをしたが、みんなお互いに顔を見合わせていて、しばらく沈黙が続いた。
ホームルームが終わるまで時間がない。ガラではないのだが、話を進めるためにも俺が一度まとめるべきかと思い、口を開いたときだった。
「あの――」
「あのさ、今日はもう時間もないし、各自で提供方法を考えてくるってことでどうかな? ひとりで考えてもいいし、だれかといっしょに考えてもいいって感じで。来週のホームルームでクラス全体に発表するから、その前に一度集まって話し合えばいいと思うんだけど」
なんと、発言したのは佐倉だった。俺が言いたいことを全部言ってくれた。
「賛成」
俺が手を上げて同意したのを皮切りに、ほかのメンバーからも次々と賛成の声が上がる。
「木村が過去のベビーカステラの仕入先を確認してくれたけど、ほかに通販とかでよさげなのあればそっちでもいいと思う。ちゃんとかかる費用もメモっておいてね」
メインのベビーカステラや使い捨ての紙コップ、フォークなど、販売に必要なものの仕入れ先や金額は、参考として会計係で副委員長の木村があらかじめ調べてくれた。
販売一回当たりの原価は目安が決められているので、提供方法を工夫するにしても予算内に収まるようにしなければならない。
リストの下には、生の果物や生クリームなど、使用不可の食材が記載されていた。うちのクラス委員はふたりとも優秀だ。
「集まって話すのは来週月曜の昼休みでどう? 都合悪いひといたら教えて」
別日の希望はなく、班での話し合いは来週月曜にすんなりと決まった。
クラス全体で話し合うロングホームルームがあるのは毎週水曜日だ。月曜までなら土日の休みを挟むので考える時間はたっぷりある。
「ごめんね、勝手に仕切っちゃって。あのとき、塩屋も仕切ろうとしてたでしょ?」
本日のお菓子巡りの目的地であるファミレスへ向かう途中、佐倉が言った。
「いや、正直なところ俺は仕切るなんてガラじゃないから助かった。でも、いいのか? このままだとなりゆきで班のリーダーまでまかされるんじゃないか」
「オレもガラじゃないんだけどね。自分で仕切ったほうがやりやすいかなって」
佐倉にまかせきりにするつもりはなかった。できる限り、俺も佐倉を手伝うつもりだ。
「無理はするなよ。俺にできることがあれば相談してくれ」
「うん、ありがと。話し合いも昼休みじゃなくて本当は放課後にしたかったんだけど、部活入っている子も結構いたからさ」
俺はそこまで頭が回らなかった。クラスのだれが何部に入っているのかだってよくわかってない。
感心しながら隣を歩く佐倉を見ていると、肩に手を置かれた。
「塩屋がいまなに考えてるか当てようか? 昼休みは、俺とふたりきりであまーい時間を過ごしたいのに、って思ってるでしょ」
いつも佐倉の作ったお菓子を食べられるという点では確かに甘い時間かもしれない。今日食べたカップケーキの味を思い出し、口元がゆるんできた。
「いまのは冗談だけど、今度こそ塩屋がなに考えてるかわかったかも」
「本当か?」
「オレのお菓子があるから確かに甘い時間だな、とか思ってるんでしょ」
「…………」
「はは、当たりだ。オレ、塩屋マスターかも」
家族以外で俺のことをいちばん知っているのは、確かに佐倉だろう。俺が笑うと、佐倉はつられたように笑みを深めた。
「おまえはよくまわりを見てるな。さっきのホームルームでも感心してたんだ」
俺と違って視野が広い。気遣いができて、思いやりもあるから、班のリーダーに向いている。
「塩屋に褒められるのはうれしいけど、そんなことないよ。まわりを見てるのは自分の都合や欲望のためだし、オレが見てるのは塩屋ばっかりだから」
いちばんいっしょに過ごす時間の多い俺を見ているというのはわかるが、「欲望のため」ということばは佐倉の印象からかけ離れているように思えた。
「オレさ、文化祭なんて面倒だな、いやだなって思ってたんだよね。クラスのやつらとは微妙な関係で浮いてるし、きっとあっちもオレにどう接していいかわからないと思うんだ」
幸いと言っていいのか、平井や高田たちとは全員べつの班になった。それでも、いずれ準備が進んでいけば彼らと協力する場面が出てくるはずだ。
「それに、準備で学校に残るようになったら、塩屋とスイーツ巡り行けなくなるし、お昼休みに特別教室も使えなくなる」
文化祭では特別教室も準備で使うようになる。今後、いままでのように特別教室を借りられなくなってしまう。
「オレは、学校行事に積極的なタイプじゃないし。……でも、模擬店で扱うのがお菓子で、塩屋といっしょに準備できるってわかったら、楽しくなってきちゃった。現金だよね」
「俺も同じだ。楽しみだって思ってる」
返事を聞いた佐倉が、うれしそうに目を細める。
模擬店がベビーカステラだから。文化祭が楽しみな理由はそれだけじゃない。佐倉といっしょだからだ。
「塩屋、今日このあと時間ある? ベビーカステラの提供方法、いっしょに考えない?」
「俺も同じこと思ってた」
ファミレスで期間限定のデザートを食べながら、佐倉とベビーカステラの提供方法について話し合った。手はじめにSNSを検索して気にあるものがあれば互いに見せていく。
「ベビーカステラの専門店だと、味のバリエーション、形、焼き印で個性を出す店が多いみたいだ。……オレたちにはむずかしそうだな」
人気のキャラクターの形をしたベビーカステラが人気らしく、検索でたくさん出てきたが、どう考えても文化祭ではNGだ。
「そうだね。リストに載ってる店に聞いてみるのもできるけど、シンプルなプレーンを使う前提で考えたほうがいいと思う」
味の種類を増やせば、その分ほかに回せる金額が減ってしまい、見栄えをよくするための予算が足りなくなる。一般的な丸い形のプレーン味を、いかに見栄えよく美味しく提供できるかが肝だ。
「こういうのはどうだ?」
以前、ブックマークしていたSNSの写真を見せると、佐倉は「いいね」と目を輝かせた。
写真に写っているのは、どっさりとクリームが載ってたベビーカステラだ。透明なカップに入っていて、ベリー系の果物といちごソース、バナナとチョコソースなど、味によってトッピングがたっぷりとかけられていた。クリームの代わりにソフトクリームやアイスクリームが載った写真もある。
「いわゆるベビカスパフェだな。さすがにここまでクリームを載せると甘すぎて好みが分かれるだろうから、クリームをひかえめにして、代わりに市販のお菓子を飾ったらどうかと思うんだが」
先日オープンした店のパフェが印象に残っていたので、すぐにこの店を思い出した。
「この店、どこにあるの?」
「大阪だ」
残念ながら、気軽に行ける距離ではなかった。
「そっか、食べにいけたら参考になりそうって思ったんだけどな。どっちみち試しに作ろうとは思ってたから」
「そうだな。トッピングの候補を決めて、実際に試してみるか」
「そうしよ。うちでやろうよ」
試作用の予算が出るわけでもないので、本当は試作までする必要はないのだが、自分の金ならいろいろと自由に試せる。作ったあとは食べられるのだから、趣味を兼ねた試作だ。既製品のベビーカステラを使うにしても、見た目だけでなく味にもこだわりたい。
ふたりであれやこれやと話し合っているうち、気づけばファミレスに入ってから数時間が経っていた。すっかり日も落ちて、窓の外は暗くなっている。
どうせファミレスに行くなら夕食も佐倉といっしょに摂ろうと思っていたので、あらかじめ母に連絡しておいてよかった。そうでなければ、連絡もなく夕食に遅れてしかられたところだ。
ファミレスでそのまま夕食を済ませたあと、電車に乗って家に帰った。明日は俺がバイトの日なので、明後日の金曜日に改めて食材を買い集め、試作品を作る予定になった。
教室の後ろから見ていた様子だと、佐倉が目当ての女子も多いようだ。佐倉が手を上げるのを確認して、あとから手を上げている生徒を何人か見ている。相変わらず、すごい人気だ。
教室内で班ごとに別れて顔合わせをしたが、みんなお互いに顔を見合わせていて、しばらく沈黙が続いた。
ホームルームが終わるまで時間がない。ガラではないのだが、話を進めるためにも俺が一度まとめるべきかと思い、口を開いたときだった。
「あの――」
「あのさ、今日はもう時間もないし、各自で提供方法を考えてくるってことでどうかな? ひとりで考えてもいいし、だれかといっしょに考えてもいいって感じで。来週のホームルームでクラス全体に発表するから、その前に一度集まって話し合えばいいと思うんだけど」
なんと、発言したのは佐倉だった。俺が言いたいことを全部言ってくれた。
「賛成」
俺が手を上げて同意したのを皮切りに、ほかのメンバーからも次々と賛成の声が上がる。
「木村が過去のベビーカステラの仕入先を確認してくれたけど、ほかに通販とかでよさげなのあればそっちでもいいと思う。ちゃんとかかる費用もメモっておいてね」
メインのベビーカステラや使い捨ての紙コップ、フォークなど、販売に必要なものの仕入れ先や金額は、参考として会計係で副委員長の木村があらかじめ調べてくれた。
販売一回当たりの原価は目安が決められているので、提供方法を工夫するにしても予算内に収まるようにしなければならない。
リストの下には、生の果物や生クリームなど、使用不可の食材が記載されていた。うちのクラス委員はふたりとも優秀だ。
「集まって話すのは来週月曜の昼休みでどう? 都合悪いひといたら教えて」
別日の希望はなく、班での話し合いは来週月曜にすんなりと決まった。
クラス全体で話し合うロングホームルームがあるのは毎週水曜日だ。月曜までなら土日の休みを挟むので考える時間はたっぷりある。
「ごめんね、勝手に仕切っちゃって。あのとき、塩屋も仕切ろうとしてたでしょ?」
本日のお菓子巡りの目的地であるファミレスへ向かう途中、佐倉が言った。
「いや、正直なところ俺は仕切るなんてガラじゃないから助かった。でも、いいのか? このままだとなりゆきで班のリーダーまでまかされるんじゃないか」
「オレもガラじゃないんだけどね。自分で仕切ったほうがやりやすいかなって」
佐倉にまかせきりにするつもりはなかった。できる限り、俺も佐倉を手伝うつもりだ。
「無理はするなよ。俺にできることがあれば相談してくれ」
「うん、ありがと。話し合いも昼休みじゃなくて本当は放課後にしたかったんだけど、部活入っている子も結構いたからさ」
俺はそこまで頭が回らなかった。クラスのだれが何部に入っているのかだってよくわかってない。
感心しながら隣を歩く佐倉を見ていると、肩に手を置かれた。
「塩屋がいまなに考えてるか当てようか? 昼休みは、俺とふたりきりであまーい時間を過ごしたいのに、って思ってるでしょ」
いつも佐倉の作ったお菓子を食べられるという点では確かに甘い時間かもしれない。今日食べたカップケーキの味を思い出し、口元がゆるんできた。
「いまのは冗談だけど、今度こそ塩屋がなに考えてるかわかったかも」
「本当か?」
「オレのお菓子があるから確かに甘い時間だな、とか思ってるんでしょ」
「…………」
「はは、当たりだ。オレ、塩屋マスターかも」
家族以外で俺のことをいちばん知っているのは、確かに佐倉だろう。俺が笑うと、佐倉はつられたように笑みを深めた。
「おまえはよくまわりを見てるな。さっきのホームルームでも感心してたんだ」
俺と違って視野が広い。気遣いができて、思いやりもあるから、班のリーダーに向いている。
「塩屋に褒められるのはうれしいけど、そんなことないよ。まわりを見てるのは自分の都合や欲望のためだし、オレが見てるのは塩屋ばっかりだから」
いちばんいっしょに過ごす時間の多い俺を見ているというのはわかるが、「欲望のため」ということばは佐倉の印象からかけ離れているように思えた。
「オレさ、文化祭なんて面倒だな、いやだなって思ってたんだよね。クラスのやつらとは微妙な関係で浮いてるし、きっとあっちもオレにどう接していいかわからないと思うんだ」
幸いと言っていいのか、平井や高田たちとは全員べつの班になった。それでも、いずれ準備が進んでいけば彼らと協力する場面が出てくるはずだ。
「それに、準備で学校に残るようになったら、塩屋とスイーツ巡り行けなくなるし、お昼休みに特別教室も使えなくなる」
文化祭では特別教室も準備で使うようになる。今後、いままでのように特別教室を借りられなくなってしまう。
「オレは、学校行事に積極的なタイプじゃないし。……でも、模擬店で扱うのがお菓子で、塩屋といっしょに準備できるってわかったら、楽しくなってきちゃった。現金だよね」
「俺も同じだ。楽しみだって思ってる」
返事を聞いた佐倉が、うれしそうに目を細める。
模擬店がベビーカステラだから。文化祭が楽しみな理由はそれだけじゃない。佐倉といっしょだからだ。
「塩屋、今日このあと時間ある? ベビーカステラの提供方法、いっしょに考えない?」
「俺も同じこと思ってた」
ファミレスで期間限定のデザートを食べながら、佐倉とベビーカステラの提供方法について話し合った。手はじめにSNSを検索して気にあるものがあれば互いに見せていく。
「ベビーカステラの専門店だと、味のバリエーション、形、焼き印で個性を出す店が多いみたいだ。……オレたちにはむずかしそうだな」
人気のキャラクターの形をしたベビーカステラが人気らしく、検索でたくさん出てきたが、どう考えても文化祭ではNGだ。
「そうだね。リストに載ってる店に聞いてみるのもできるけど、シンプルなプレーンを使う前提で考えたほうがいいと思う」
味の種類を増やせば、その分ほかに回せる金額が減ってしまい、見栄えをよくするための予算が足りなくなる。一般的な丸い形のプレーン味を、いかに見栄えよく美味しく提供できるかが肝だ。
「こういうのはどうだ?」
以前、ブックマークしていたSNSの写真を見せると、佐倉は「いいね」と目を輝かせた。
写真に写っているのは、どっさりとクリームが載ってたベビーカステラだ。透明なカップに入っていて、ベリー系の果物といちごソース、バナナとチョコソースなど、味によってトッピングがたっぷりとかけられていた。クリームの代わりにソフトクリームやアイスクリームが載った写真もある。
「いわゆるベビカスパフェだな。さすがにここまでクリームを載せると甘すぎて好みが分かれるだろうから、クリームをひかえめにして、代わりに市販のお菓子を飾ったらどうかと思うんだが」
先日オープンした店のパフェが印象に残っていたので、すぐにこの店を思い出した。
「この店、どこにあるの?」
「大阪だ」
残念ながら、気軽に行ける距離ではなかった。
「そっか、食べにいけたら参考になりそうって思ったんだけどな。どっちみち試しに作ろうとは思ってたから」
「そうだな。トッピングの候補を決めて、実際に試してみるか」
「そうしよ。うちでやろうよ」
試作用の予算が出るわけでもないので、本当は試作までする必要はないのだが、自分の金ならいろいろと自由に試せる。作ったあとは食べられるのだから、趣味を兼ねた試作だ。既製品のベビーカステラを使うにしても、見た目だけでなく味にもこだわりたい。
ふたりであれやこれやと話し合っているうち、気づけばファミレスに入ってから数時間が経っていた。すっかり日も落ちて、窓の外は暗くなっている。
どうせファミレスに行くなら夕食も佐倉といっしょに摂ろうと思っていたので、あらかじめ母に連絡しておいてよかった。そうでなければ、連絡もなく夕食に遅れてしかられたところだ。
ファミレスでそのまま夕食を済ませたあと、電車に乗って家に帰った。明日は俺がバイトの日なので、明後日の金曜日に改めて食材を買い集め、試作品を作る予定になった。
