週に一度のロングホームルームの時間。今週議題になったのは、来月下旬に行われる文化祭の出し物についてだった。
うちの学校の文化祭は六月下旬の二日間に渡って行われ、一日目は在学生のみの校内公開、二日目は一般公開となる。部活動や有志による発表もあるが、クラスの出し物は生徒全員が必須参加になっている。
当然ながら、俺はクラスのイベントで率先して活躍するようなタイプではない。自分にあたえられた役割をこなすだけだ。できるなら、裏方のように地味な役割であるほうが望ましい。
その点、一年生のときは非常に楽だった。郷土に関する研究成果を教室に掲示して発表するだけの出し物で、俺は掲示物の作製担当だった。当日も受付があるわけでもなく、教室内でぼんやりと立っているだけでよかった。
……今年はそうもいかなそうだな。
中間テスト前のホームルームですでに話し合いが済んでいて、我がクラスの出し物は飲食物の模擬店に決まっていた。
前回の話し合いをもとに、第一から第三までの希望を生徒会に提出済だ。希望の出し物がほかのクラスとかぶった場合は抽選となる。
我がクラスの第一希望はカレー。第二希望は焼きそば。そして、第三希望はベビーカステラ。どれに決まったとしても、裏方メインの仕事に回りたい。
「うちのクラスの出し物は、ベビーカステラに決まりました」
クラス委員長である秋山が報告すると、教室内にざわめきが広がった。がっかりしているのはカレーや焼きそばに投票していた生徒たちだ。
ベビーカステラは既製品をそのまま使えるので、準備が楽な点で票を集めていたようだが、もともと候補が多くて票が分かれていたのでよろこびの声も多くない。
「カレーと焼きそばは、希望のクラスがかなり多かったそうだ。抽選が外れたのは残念だけど、切り替えていこう」
秋山はみんなをまとめるのが上手い。人当たりがよく、面倒見もいい。名実ともにクラスの中心的存在だ。
「ベビーカステラは屋台で定番のお菓子だ。俺は、アイデア次第で上位を狙えると本気で思ってる。みんなで協力して、魅力的な模擬店にしよう」
クラスの出し物は一般参加者による人気投票があり、閉会式で結果が発表される。上位のクラスは表彰されて景品が授与されるので、どのクラスも一位を目指して準備に励むのだ。中には、俺のようにやる気のない生徒もいるのだが。
「ベビーカステラって、焼くとこからじゃないでしょ」
「そのまま出す以外なくない?」
「味のバリエーションないのかな」
「串に刺すとか? 食べやすいかもよ」
「映え狙ってかわいくしよ」
「動物の形とか、かわいくない?」
「ミニゲームで個数決めるとか?」
各自が思い思いに喋りはじめ、教室は一気に騒がしくなった。スマホを取り出し、ベビーカステラについて調べている生徒も少なくない。
授業中はスマホ禁止だが、いまの状況なら見守っている担任も止めないだろう。俺もかばんからスマホを取り出した。
「黒板にまとめていきますので、意見のある方は挙手でお願いします」
様々な意見が出たが、要点をまとめるとふたつに絞れた。ひとつは、そのままだと地味な見た目なので、写真映えするような提供方法にしたいという意見。もうひとつは、ミニゲームでおまけをつけるなど、遊び要素を入れたいという意見。
具体的な案についてはどれも決定的なものがなく、もっとアイデアを煮詰めていく必要があった。
「ベビーカステラの提供方法、ミニゲームの内容、衣装、内装。ひとつずつ全員で考えていくのは時間がかかりそうだから、班を分けて班ごとに具体的な案を考えていくのはどうだろう? 最終的には、各班に出してもらった案をもとに、全員で最終決定をするということで」
秋山の提案に反対する生徒はいなかった。ベビーカステラの販売方法を考える提供班、ミニゲームの内容を考えるゲーム班、衣装と教室の飾りつけを考える内装班の三つに分かれることになった。内装班以外は、基本的に当日の役割も班分けどおりになる。
『塩屋はどの班にする?』
佐倉からメッセージが届いて、離れた席に座る佐倉のほうを見ると、ちいさく手を振ってきた。
『教室の内装だけなら内装班だけど衣装があるから迷ってる』
『たぶん男子は内装担当じゃない?』
『俺もそう思う。でも提供班も迷ってる。佐倉は?』
ゲームはほとんど経験がないのでまともな案を出せる気がしない。内装班だと、不器用なので迷惑をかける可能性もあるし、当日は接客に回されるかもしれない。
提供班でも、内装班と同じ懸念はある。でも、ベビーカステラはスイーツだ。せっかくのスイーツなのだから、お客さんに美味しく食べてもらいたいという気持ちがある。盛りつけが上手くできるかわからないが、スイーツなら知識があるし、いちばん役に立てる自信があった。
それに――
『オレといっしょに提供班にならない? 塩屋と同じ班がいいな』
――佐倉と同じ班になりたい。
そう思っていたから、迷わず返信した。
『提供班にしよう』
届いた返事を見たのか、スマホから顔を上げた佐倉がこちらを見て笑う。
面倒だと思っていた文化祭が、楽しみになりはじめていた。
うちの学校の文化祭は六月下旬の二日間に渡って行われ、一日目は在学生のみの校内公開、二日目は一般公開となる。部活動や有志による発表もあるが、クラスの出し物は生徒全員が必須参加になっている。
当然ながら、俺はクラスのイベントで率先して活躍するようなタイプではない。自分にあたえられた役割をこなすだけだ。できるなら、裏方のように地味な役割であるほうが望ましい。
その点、一年生のときは非常に楽だった。郷土に関する研究成果を教室に掲示して発表するだけの出し物で、俺は掲示物の作製担当だった。当日も受付があるわけでもなく、教室内でぼんやりと立っているだけでよかった。
……今年はそうもいかなそうだな。
中間テスト前のホームルームですでに話し合いが済んでいて、我がクラスの出し物は飲食物の模擬店に決まっていた。
前回の話し合いをもとに、第一から第三までの希望を生徒会に提出済だ。希望の出し物がほかのクラスとかぶった場合は抽選となる。
我がクラスの第一希望はカレー。第二希望は焼きそば。そして、第三希望はベビーカステラ。どれに決まったとしても、裏方メインの仕事に回りたい。
「うちのクラスの出し物は、ベビーカステラに決まりました」
クラス委員長である秋山が報告すると、教室内にざわめきが広がった。がっかりしているのはカレーや焼きそばに投票していた生徒たちだ。
ベビーカステラは既製品をそのまま使えるので、準備が楽な点で票を集めていたようだが、もともと候補が多くて票が分かれていたのでよろこびの声も多くない。
「カレーと焼きそばは、希望のクラスがかなり多かったそうだ。抽選が外れたのは残念だけど、切り替えていこう」
秋山はみんなをまとめるのが上手い。人当たりがよく、面倒見もいい。名実ともにクラスの中心的存在だ。
「ベビーカステラは屋台で定番のお菓子だ。俺は、アイデア次第で上位を狙えると本気で思ってる。みんなで協力して、魅力的な模擬店にしよう」
クラスの出し物は一般参加者による人気投票があり、閉会式で結果が発表される。上位のクラスは表彰されて景品が授与されるので、どのクラスも一位を目指して準備に励むのだ。中には、俺のようにやる気のない生徒もいるのだが。
「ベビーカステラって、焼くとこからじゃないでしょ」
「そのまま出す以外なくない?」
「味のバリエーションないのかな」
「串に刺すとか? 食べやすいかもよ」
「映え狙ってかわいくしよ」
「動物の形とか、かわいくない?」
「ミニゲームで個数決めるとか?」
各自が思い思いに喋りはじめ、教室は一気に騒がしくなった。スマホを取り出し、ベビーカステラについて調べている生徒も少なくない。
授業中はスマホ禁止だが、いまの状況なら見守っている担任も止めないだろう。俺もかばんからスマホを取り出した。
「黒板にまとめていきますので、意見のある方は挙手でお願いします」
様々な意見が出たが、要点をまとめるとふたつに絞れた。ひとつは、そのままだと地味な見た目なので、写真映えするような提供方法にしたいという意見。もうひとつは、ミニゲームでおまけをつけるなど、遊び要素を入れたいという意見。
具体的な案についてはどれも決定的なものがなく、もっとアイデアを煮詰めていく必要があった。
「ベビーカステラの提供方法、ミニゲームの内容、衣装、内装。ひとつずつ全員で考えていくのは時間がかかりそうだから、班を分けて班ごとに具体的な案を考えていくのはどうだろう? 最終的には、各班に出してもらった案をもとに、全員で最終決定をするということで」
秋山の提案に反対する生徒はいなかった。ベビーカステラの販売方法を考える提供班、ミニゲームの内容を考えるゲーム班、衣装と教室の飾りつけを考える内装班の三つに分かれることになった。内装班以外は、基本的に当日の役割も班分けどおりになる。
『塩屋はどの班にする?』
佐倉からメッセージが届いて、離れた席に座る佐倉のほうを見ると、ちいさく手を振ってきた。
『教室の内装だけなら内装班だけど衣装があるから迷ってる』
『たぶん男子は内装担当じゃない?』
『俺もそう思う。でも提供班も迷ってる。佐倉は?』
ゲームはほとんど経験がないのでまともな案を出せる気がしない。内装班だと、不器用なので迷惑をかける可能性もあるし、当日は接客に回されるかもしれない。
提供班でも、内装班と同じ懸念はある。でも、ベビーカステラはスイーツだ。せっかくのスイーツなのだから、お客さんに美味しく食べてもらいたいという気持ちがある。盛りつけが上手くできるかわからないが、スイーツなら知識があるし、いちばん役に立てる自信があった。
それに――
『オレといっしょに提供班にならない? 塩屋と同じ班がいいな』
――佐倉と同じ班になりたい。
そう思っていたから、迷わず返信した。
『提供班にしよう』
届いた返事を見たのか、スマホから顔を上げた佐倉がこちらを見て笑う。
面倒だと思っていた文化祭が、楽しみになりはじめていた。
