それから中間テストまでは、毎日佐倉と試験勉強に励んだ。
学校が休みの日はどちらかの家で朝から夕方まで勉強し、夜はいっしょに夕食を摂ってから解散した。平日は、下校時刻ぎりぎりまで学校で勉強してから帰った。
夜は寝る前に佐倉が勉強の報告をしてくるので、つられて俺も報告するのが習慣になって張り合いができたように思う。
結果、いままでにないほどいい点数が取れた。授業ごとに返ってきたテストの点数に手ごたえを感じていた矢先、学年順位や点数がまとめられた成績表を渡された。総合順位は学年十二位。過去最高だ。
昼休み、廊下に張り出された順位表を見に行き、佐倉の成績を見つけてあっけに取られた。
「わ、塩屋すごいね」
「……いや、おまえこそすごいな」
俺の勉強まで見ていたので、佐倉が成績を落とさないかと心配していたが、佐倉は総合点数で学年三位という好成績を修めていた。二日に一度はお菓子作りもしていたのに、どうなっているのか。
「塩屋にかっこいいとこ見せたかったからね」
にんまりと笑いながら佐倉がこちらを見てくる。まわりがざわついても本人はまったく気に留めていない。
「次移動だろ。教室戻るぞ」
「え、うん」
掲示版の前に群がった生徒の中には、掲示板を見ずに佐倉を見ている生徒も少なくなかった。隣にいる俺にまでついでのように視線が刺さってくるので、居心地が悪い。
一度教室に戻って教科書や筆記用具を持ち、佐倉と連れ立って化学室へ移動した。
「ねえ、さっきのオレの決めセリフに対してなんかないの?」
「ない」
「うわ、きっぱり切り捨てられたー」
「さっき思いついて言っただろ」
「ううん、かっこつけたのは本当。塩屋といっしょに勉強するとき、頼ってもらいたくて勉強しまくった。教え方上手いって言われた以上、わかんないって言いたくないから。……目的が不純でかっこわるいでしょ」
あっけに取られて立ち止まる俺を、佐倉がきまりの悪そうな顔で見てくる。
「それに、オレの成績が下がったら、塩屋が気にしていっしょに勉強してくれなくなると思って結構必死だった」
「……ばかだな」
成績が下がったって、わからないと言われたって、失望なんかしない。佐倉が望むのなら一学期の期末も、二学期の中間も期末も、その先もずっといっしょに勉強するのに。それを、俺も望んでいるのに。
「うん、オレばかなんだ」
「佐倉は、かっこわるくない」
込み上げてきた感情が、俺の身体を勝手に動かしていた。明るい茶色の髪を撫でながら佐倉に笑いかける。
佐倉のことが、かわいくてしかたなかった。
「佐倉は、かっこいい」
茶色の瞳が、目の前で大きく見開かれる。
「それに、かわいい」
佐倉が抵抗しないのをいいことに思うがまま手を動かしていたら、茶色の髪はぐちゃぐちゃになってしまった。慌てて手櫛で髪を整え、手を離す。
「悪い。髪ぐちゃぐちゃになった」
「……う、ううん」
小声で答えた佐倉が口元を手で抑えてうつむいた。
美容室でもないのに、他人に髪を触られるなんて気分を悪くさせたかもしれない。配慮が足りなかった。衝動的に動いてしまったことを後悔した。
「勝手に触って悪かった。いやだったよな」
「ちがっ」
がばっと勢いよく、佐倉が顔を上げる。佐倉の顔は耳まで真っ赤だった。肌が白いから余計に赤さが目立つ。
「かなわないなあ。オレの塩屋、かっこよすぎ」
「オレのって言うな」
「不意打ちすぎて……心臓止まるかと思った」
「そんなに驚かせたか?」
「無自覚なの、たち悪すぎ」
「どういう意味だ?」
「全然わかってない。かわいすぎ」
さっきから「すぎ」が多くないか。
「ギャラリーいなかったら、もっと撫でてもらいたいところなんだけど……」
「ギャラリー?」
後ろを振り返ってぎょっとした。化学室に向かっていたうちのクラスの生徒はもちろん、ほかのクラスやほかの学年の生徒までもがまわりを取り囲んでいたからだ。
「なにこのひとだかり」
「佐倉くんと塩屋くんがいちゃいちゃしてるんだって」
「えー、見たかった」
「エモかったよ」
……いちゃいちゃってなんだ?
公共の場で佐倉の頭を撫ではじめた俺も悪いが、見せ物じゃない。茫然と立ち尽くしていた俺の背中を、佐倉がそっと押してきた。
「行こ、塩屋。――そこ通してくれる?」
佐倉の一声に、人垣が割れて通り道ができる。手を握られて、戸惑っているうちに強い力で引っ張られた。
「ねえ、塩屋。このままサボらない?」
「……気持ちはわかるが、だめだ」
クラスメイトたちがいる化学室に行けば、いずれうわさと注目の的になるのが目に見えている。できることならこのまま家に帰りたいくらいだが、サボったらうわさに尾ひれがつきそうだ。
「早く放課後にならないかなー」
「まだ昼だけどな」
「先は長いなー。化学室に到着しちゃったよ。残念だけど、手離すね」
そこで、ようやく佐倉と手をつないだままだったことに気づいた。慌てて手を離した途端、にまにま笑う佐倉と視線が合う。
「また、あとでつなごうね」
……まあ、人目がなければいいか。
なんて一瞬思ってしまった俺は、すっかり佐倉のペースに乗せられているのかもしれない。もちろん、声には出さなかったが。
学校が休みの日はどちらかの家で朝から夕方まで勉強し、夜はいっしょに夕食を摂ってから解散した。平日は、下校時刻ぎりぎりまで学校で勉強してから帰った。
夜は寝る前に佐倉が勉強の報告をしてくるので、つられて俺も報告するのが習慣になって張り合いができたように思う。
結果、いままでにないほどいい点数が取れた。授業ごとに返ってきたテストの点数に手ごたえを感じていた矢先、学年順位や点数がまとめられた成績表を渡された。総合順位は学年十二位。過去最高だ。
昼休み、廊下に張り出された順位表を見に行き、佐倉の成績を見つけてあっけに取られた。
「わ、塩屋すごいね」
「……いや、おまえこそすごいな」
俺の勉強まで見ていたので、佐倉が成績を落とさないかと心配していたが、佐倉は総合点数で学年三位という好成績を修めていた。二日に一度はお菓子作りもしていたのに、どうなっているのか。
「塩屋にかっこいいとこ見せたかったからね」
にんまりと笑いながら佐倉がこちらを見てくる。まわりがざわついても本人はまったく気に留めていない。
「次移動だろ。教室戻るぞ」
「え、うん」
掲示版の前に群がった生徒の中には、掲示板を見ずに佐倉を見ている生徒も少なくなかった。隣にいる俺にまでついでのように視線が刺さってくるので、居心地が悪い。
一度教室に戻って教科書や筆記用具を持ち、佐倉と連れ立って化学室へ移動した。
「ねえ、さっきのオレの決めセリフに対してなんかないの?」
「ない」
「うわ、きっぱり切り捨てられたー」
「さっき思いついて言っただろ」
「ううん、かっこつけたのは本当。塩屋といっしょに勉強するとき、頼ってもらいたくて勉強しまくった。教え方上手いって言われた以上、わかんないって言いたくないから。……目的が不純でかっこわるいでしょ」
あっけに取られて立ち止まる俺を、佐倉がきまりの悪そうな顔で見てくる。
「それに、オレの成績が下がったら、塩屋が気にしていっしょに勉強してくれなくなると思って結構必死だった」
「……ばかだな」
成績が下がったって、わからないと言われたって、失望なんかしない。佐倉が望むのなら一学期の期末も、二学期の中間も期末も、その先もずっといっしょに勉強するのに。それを、俺も望んでいるのに。
「うん、オレばかなんだ」
「佐倉は、かっこわるくない」
込み上げてきた感情が、俺の身体を勝手に動かしていた。明るい茶色の髪を撫でながら佐倉に笑いかける。
佐倉のことが、かわいくてしかたなかった。
「佐倉は、かっこいい」
茶色の瞳が、目の前で大きく見開かれる。
「それに、かわいい」
佐倉が抵抗しないのをいいことに思うがまま手を動かしていたら、茶色の髪はぐちゃぐちゃになってしまった。慌てて手櫛で髪を整え、手を離す。
「悪い。髪ぐちゃぐちゃになった」
「……う、ううん」
小声で答えた佐倉が口元を手で抑えてうつむいた。
美容室でもないのに、他人に髪を触られるなんて気分を悪くさせたかもしれない。配慮が足りなかった。衝動的に動いてしまったことを後悔した。
「勝手に触って悪かった。いやだったよな」
「ちがっ」
がばっと勢いよく、佐倉が顔を上げる。佐倉の顔は耳まで真っ赤だった。肌が白いから余計に赤さが目立つ。
「かなわないなあ。オレの塩屋、かっこよすぎ」
「オレのって言うな」
「不意打ちすぎて……心臓止まるかと思った」
「そんなに驚かせたか?」
「無自覚なの、たち悪すぎ」
「どういう意味だ?」
「全然わかってない。かわいすぎ」
さっきから「すぎ」が多くないか。
「ギャラリーいなかったら、もっと撫でてもらいたいところなんだけど……」
「ギャラリー?」
後ろを振り返ってぎょっとした。化学室に向かっていたうちのクラスの生徒はもちろん、ほかのクラスやほかの学年の生徒までもがまわりを取り囲んでいたからだ。
「なにこのひとだかり」
「佐倉くんと塩屋くんがいちゃいちゃしてるんだって」
「えー、見たかった」
「エモかったよ」
……いちゃいちゃってなんだ?
公共の場で佐倉の頭を撫ではじめた俺も悪いが、見せ物じゃない。茫然と立ち尽くしていた俺の背中を、佐倉がそっと押してきた。
「行こ、塩屋。――そこ通してくれる?」
佐倉の一声に、人垣が割れて通り道ができる。手を握られて、戸惑っているうちに強い力で引っ張られた。
「ねえ、塩屋。このままサボらない?」
「……気持ちはわかるが、だめだ」
クラスメイトたちがいる化学室に行けば、いずれうわさと注目の的になるのが目に見えている。できることならこのまま家に帰りたいくらいだが、サボったらうわさに尾ひれがつきそうだ。
「早く放課後にならないかなー」
「まだ昼だけどな」
「先は長いなー。化学室に到着しちゃったよ。残念だけど、手離すね」
そこで、ようやく佐倉と手をつないだままだったことに気づいた。慌てて手を離した途端、にまにま笑う佐倉と視線が合う。
「また、あとでつなごうね」
……まあ、人目がなければいいか。
なんて一瞬思ってしまった俺は、すっかり佐倉のペースに乗せられているのかもしれない。もちろん、声には出さなかったが。
