砂糖は多めでお願いします。

 午後の勉強も順調に進み、佐倉にわかりやすく教えてもらったお陰で苦手な科目もはかどった。

 夕食の時間になり、佐倉を連れてダイニングルームへ行って両親と妹に紹介すると、みんな佐倉を歓迎してくれた。佐倉がめったにいない美形なので、かなり驚いたようだ。
 佐倉ははじめ緊張している様子だったが、次第に肩の力を抜いていった。母が作った美味い料理の効果もあったに違いない。

「和真に友達がいるとわかって安心したわ。この子ったら、口を開けばお菓子のことばかりで、ろくに友達もいないんだから」
「まったくいなかったわけじゃない」
「でも、うちに連れてきたのは佐倉くんがはじめてじゃない」
「ぐ……」

 事実なのでなにも言えなかった。

 物心つく前から、俺は甘いものにしか興味がない子どもだったらしい。年齢を重ねていくと自分が異質であることにも気づき、自分の趣味は隠したほうがいいものなのだと悟った。学校でもあたりさわりのない会話しかできず、放課後や休日に遊ぶような仲のいい相手はできなかった。

 思い切りスイーツの話をできるのは佐倉がはじめてだった。佐倉のそばにいるあいだは、興味のない会話しかできないわずらわしさはなく、本音を隠して罪悪感を覚えることもない。取り繕う必要はなく、素の自分でいられる。

「オレも同じです。子どものころからお菓子を食べるも作るのも好きで、友達いなかったので。だから、塩屋……和真くんと友達になれてよかったと思ってます」

 そう言って、佐倉が隣に座る俺のほうを見て笑みを浮かべる。改めて言われると、妙に照れ臭かった。

 ……友達、か。

 佐倉といっしょにスイーツ巡りをするのは、スイーツをシェアできるという利点があるからだった。佐倉と学校でいっしょにいるのは恋人同士のふりをするためだった。でも、そんな目的なんて関係なく、佐倉と過ごすようになっていた。

 ……俺だって、よかったと思ってる。

 佐倉のお陰で俺の趣味はかつてないほどに充実している。それに、毎日学校へ行くのが楽しい。スイーツ巡りができる放課後だけが楽しみではなくなった。

 ……おまえと友達になれて、よかった。

「あはは、お兄ちゃん照れてる。よかったねえ、スイーツ巡りにつきあってくれる友達ができて」
「……っ、そうだな」

 隣から視線を感じて、とっさに顔を背けた。

「見るな」
「なんで? 照れてる塩屋なんて貴重だからオレも見たい」
「見せ物じゃない」

 なおもうれしそうな顔で覗き込んでくる佐倉の身体を強引に押し返す。

 ……あれ?  俺たちが友達なら、佐倉に好きな相手ができて恋人同士のふりをやめたらどうなるんだ?

 ふいにひとつの考えが頭をよぎって、胸がざわめいた。

 黙り込んだ俺を、佐倉が怪訝そうな声で呼んでくる。

「塩屋、どうしたの?」
「いや、なんでもない。それより、箸が止まってるぞ。もっと食え」
「そうよ、遠慮しないで食べてね、佐倉くん」
「はい、ありがとうございます」

 よそゆきのことば遣いで喋る佐倉は、上品な顔立ちも相まって育ちのいい好青年にしか見えなかった。
 実際に育ちがいいのだろう。佐倉は食べ方がすごくきれいなのだ。物音を立てず、汚さず、こぼさず、最小限の動きで食べる。

 母の作った料理をたいらげたあと、佐倉が手土産に持ってきてくれたゼリーをみんなで食べた。これがまた美味かった。佐倉の見立てどおり、甘いものが苦手な妹もよろこんで食べていた。