「へえ。これ、全部同じ人じゃないよね? 全体的にアイドル好きなの?」
隠しきれなくなった俺は、菅野に求められるがまま、収納箱を開けてアイドルグッズを披露した。
引かれてはない……のか?
「ま、まあその、元々、妹の影響だから」
「妹さんと仲いいよね。そういえば、妹さんが俺のファンなんだっけ?」
「そ……そう!」
申し訳ないが、これに関しては完全に嘘だ。
俺の妹は『アイドルは歌って踊れるイケメンだからいいの。ステージで輝かないイケメンなんて興味ない』という主義で、菅野にはあまり興味がない。
そんな妹に対し、菅野の良さを熱く説いているのは俺である。
「神崎くんはさあ、この人達の中で、誰が一番好きなの?」
「……い、一番とか言われても、特に……」
そりゃあ、特に好きだな、というアイドルがいないわけじゃない。でも、菅野に出会ってから俺の中で菅野が特別になりすぎて、『一番好きなアイドル』と胸を張って言える人はいなくなってしまった。
菅野がアイドルだったら俺、今頃全財産つぎ込むようなオタクになってたんだろうな。
想像した瞬間、胸が締め付けられるような気持ちになった。もし菅野がアイドルだったら、俺はこうやって菅野と話せていない。
俺にとってそれは、なによりも辛いことだと思った。
オタクとか自認しておきながら、やっぱり俺、ただのオタクじゃもう満足できないんだな。
「じゃあさ、アイドル好きの神崎くん的には、俺の顔ってどうなの?」
「へっ!?」
「格好いいとか、思ったりする?」
そりゃあ世界一格好いいに決まってんだろ! と、素直に叫べるはずもなく。
「えっ、あ、そ、その……いっ、イケメンだと思う、客観的に考えて」
「それは知ってる。俺としては、神崎くん的に考えてどうかを聞きたいんだけど?」
ねえ、と菅野が距離を詰めてくる。逃げ場を塞ぐように腰に腕を回された。
やばいやばい、近すぎるって!
菅野が近いのはいつものことだけど、俺の部屋だし、至近距離すぎるし……いろいろとまずいだろ!
「ねー、神崎くん。どうなの?」
「……おっ、俺、俺的には……」
菅野はきっと、俺がアイドルオタクだってことを知って、ノリでこんなことを聞いてきたんだろう。
もし俺が熱く菅野の良さを語ったりしたら、俺も他の女子達と同じように、菅野の顔目当てのオタクだと思われてしまう。
――せっかく、菅野と友達になれたのに。
「……いっ、イケメンだけど、好みじゃないっていうか。俺、どっちかっていうと、その、童顔系の、可愛い感じのアイドルが好きだし」
真っ赤な嘘だ。俺は昔から、高身長美形アイドルばかり好きになってきた。
そして、その系統のトップが菅野。
でも俺はもう、ただのオタクじゃ満足できない。
そう気づいてしまったから、嘘をつくしかなかった。
「……へえ。そうなんだ」
菅野が泣きそうな声をしている気がして、慌てて顔を上げる。目が合うと、菅野は寂しそうに笑った。
「神崎くんにそう言われたら、俺、寂しいな」
「えっ?」
「……神崎くんって、もしかしたら俺の顔好きでいてくれてるのかなって期待してたから。調子乗り過ぎてたよね、俺」
「はっ!?」
なんで? なんでなんだ?
俺、もしかして答え間違えた?
「ごめん。なんか面倒臭いこと言っちゃって。今日はもう帰るね」
「え……?」
動揺してなにも言えずにいる間に、菅野は荷物をまとめて立ち上がってしまった。
「じゃあまた学校で、神崎くん」
◆
「……なんで?」
菅野は俺のことを友達として認識してくれていたはずで、だからこそ、あの答えが最適だと思った。
菅野にとって正解の答えで、なおかつ、俺がオタクだともバレない最良の選択だと。
でも違ったのか? なんで?
菅野が帰ってからずっと、身動き一つとれない。部屋の中央に体育座りで丸まってから、いったい何時間が経っただろう。
溜息を吐いて再び膝に顔をうずめようとすると、お兄ちゃん! と妹の声がして部屋の扉が開いた。
「ご飯だよ!? さっきから何回も下から呼んでるのに全然気づかないし――って、どうしたのっ!?」
俺の異変に気づいたのか、妹が駆け寄ってきてくれた。
「……実は今日、菅野がうちにきて」
「えっ!? 菅野先輩が!? よかったじゃん!」
「……ドルオタだってバレて、『俺の顔は?』って聞かれたから、好みじゃないって言ったんだよ。そしたら、菅野、なんか、寂しそうにしてて」
「お兄ちゃん、馬鹿なの?」
「え?」
妹は、曲がっていた俺の背中をバシッ! と叩いた。
「友達でも家族でもなんでもいいけど、仲いい人に『好みの顔じゃない』って言われたら、普通に傷つくでしょ。常識的に考えて」
「……そ、そうか?」
「っていうか、いい加減嘘つくのやめなよ。私だったら、どんな事情であれ、友達に隠し事されてる方が辛い。明るく言えばいいじゃん。実はお前の顔超好きでさー、って。そんなんで崩れちゃう関係なの?」
俺と違って、妹は友達がめちゃくちゃ多い。そんな妹の言うことには、説得力がある気がした。
「お兄ちゃんがオタバレしたくないのは、菅野先輩に嫌われて、傷つきたくないからでしょ? お兄ちゃんは今、自分が傷つきたくないから、大好きな菅野先輩を傷つけちゃったんだよ?」
「……あ」
妹の言う通りだ。
菅野のためでもあるよな、なんて考えていたつもりだけれど、結局のところ、俺は自分のことばかりを優先していたのかもしれない。
「分かったらちゃんと、素直になりなよ。どっちみち、素直にならなきゃ、友達としてはやっていけないんだから。分かった!?」
バシッ! ともう一度背中を叩き、ご飯だからね! と言い残して妹は部屋を出ていった。
「……素直にならなきゃ、やっていけない、か」
そうだよな。
俺はこれからも菅野と仲良くしたいと思ってて、友達って関係じゃ満足できないかも、なんて思い始めてて。
もっと近づきたいって思ってるのに、嘘をついたままでいいはずがない。
決めた。
明日、ちゃんと話そう。
俺は、菅野の顔が大好きなんだって。
隠しきれなくなった俺は、菅野に求められるがまま、収納箱を開けてアイドルグッズを披露した。
引かれてはない……のか?
「ま、まあその、元々、妹の影響だから」
「妹さんと仲いいよね。そういえば、妹さんが俺のファンなんだっけ?」
「そ……そう!」
申し訳ないが、これに関しては完全に嘘だ。
俺の妹は『アイドルは歌って踊れるイケメンだからいいの。ステージで輝かないイケメンなんて興味ない』という主義で、菅野にはあまり興味がない。
そんな妹に対し、菅野の良さを熱く説いているのは俺である。
「神崎くんはさあ、この人達の中で、誰が一番好きなの?」
「……い、一番とか言われても、特に……」
そりゃあ、特に好きだな、というアイドルがいないわけじゃない。でも、菅野に出会ってから俺の中で菅野が特別になりすぎて、『一番好きなアイドル』と胸を張って言える人はいなくなってしまった。
菅野がアイドルだったら俺、今頃全財産つぎ込むようなオタクになってたんだろうな。
想像した瞬間、胸が締め付けられるような気持ちになった。もし菅野がアイドルだったら、俺はこうやって菅野と話せていない。
俺にとってそれは、なによりも辛いことだと思った。
オタクとか自認しておきながら、やっぱり俺、ただのオタクじゃもう満足できないんだな。
「じゃあさ、アイドル好きの神崎くん的には、俺の顔ってどうなの?」
「へっ!?」
「格好いいとか、思ったりする?」
そりゃあ世界一格好いいに決まってんだろ! と、素直に叫べるはずもなく。
「えっ、あ、そ、その……いっ、イケメンだと思う、客観的に考えて」
「それは知ってる。俺としては、神崎くん的に考えてどうかを聞きたいんだけど?」
ねえ、と菅野が距離を詰めてくる。逃げ場を塞ぐように腰に腕を回された。
やばいやばい、近すぎるって!
菅野が近いのはいつものことだけど、俺の部屋だし、至近距離すぎるし……いろいろとまずいだろ!
「ねー、神崎くん。どうなの?」
「……おっ、俺、俺的には……」
菅野はきっと、俺がアイドルオタクだってことを知って、ノリでこんなことを聞いてきたんだろう。
もし俺が熱く菅野の良さを語ったりしたら、俺も他の女子達と同じように、菅野の顔目当てのオタクだと思われてしまう。
――せっかく、菅野と友達になれたのに。
「……いっ、イケメンだけど、好みじゃないっていうか。俺、どっちかっていうと、その、童顔系の、可愛い感じのアイドルが好きだし」
真っ赤な嘘だ。俺は昔から、高身長美形アイドルばかり好きになってきた。
そして、その系統のトップが菅野。
でも俺はもう、ただのオタクじゃ満足できない。
そう気づいてしまったから、嘘をつくしかなかった。
「……へえ。そうなんだ」
菅野が泣きそうな声をしている気がして、慌てて顔を上げる。目が合うと、菅野は寂しそうに笑った。
「神崎くんにそう言われたら、俺、寂しいな」
「えっ?」
「……神崎くんって、もしかしたら俺の顔好きでいてくれてるのかなって期待してたから。調子乗り過ぎてたよね、俺」
「はっ!?」
なんで? なんでなんだ?
俺、もしかして答え間違えた?
「ごめん。なんか面倒臭いこと言っちゃって。今日はもう帰るね」
「え……?」
動揺してなにも言えずにいる間に、菅野は荷物をまとめて立ち上がってしまった。
「じゃあまた学校で、神崎くん」
◆
「……なんで?」
菅野は俺のことを友達として認識してくれていたはずで、だからこそ、あの答えが最適だと思った。
菅野にとって正解の答えで、なおかつ、俺がオタクだともバレない最良の選択だと。
でも違ったのか? なんで?
菅野が帰ってからずっと、身動き一つとれない。部屋の中央に体育座りで丸まってから、いったい何時間が経っただろう。
溜息を吐いて再び膝に顔をうずめようとすると、お兄ちゃん! と妹の声がして部屋の扉が開いた。
「ご飯だよ!? さっきから何回も下から呼んでるのに全然気づかないし――って、どうしたのっ!?」
俺の異変に気づいたのか、妹が駆け寄ってきてくれた。
「……実は今日、菅野がうちにきて」
「えっ!? 菅野先輩が!? よかったじゃん!」
「……ドルオタだってバレて、『俺の顔は?』って聞かれたから、好みじゃないって言ったんだよ。そしたら、菅野、なんか、寂しそうにしてて」
「お兄ちゃん、馬鹿なの?」
「え?」
妹は、曲がっていた俺の背中をバシッ! と叩いた。
「友達でも家族でもなんでもいいけど、仲いい人に『好みの顔じゃない』って言われたら、普通に傷つくでしょ。常識的に考えて」
「……そ、そうか?」
「っていうか、いい加減嘘つくのやめなよ。私だったら、どんな事情であれ、友達に隠し事されてる方が辛い。明るく言えばいいじゃん。実はお前の顔超好きでさー、って。そんなんで崩れちゃう関係なの?」
俺と違って、妹は友達がめちゃくちゃ多い。そんな妹の言うことには、説得力がある気がした。
「お兄ちゃんがオタバレしたくないのは、菅野先輩に嫌われて、傷つきたくないからでしょ? お兄ちゃんは今、自分が傷つきたくないから、大好きな菅野先輩を傷つけちゃったんだよ?」
「……あ」
妹の言う通りだ。
菅野のためでもあるよな、なんて考えていたつもりだけれど、結局のところ、俺は自分のことばかりを優先していたのかもしれない。
「分かったらちゃんと、素直になりなよ。どっちみち、素直にならなきゃ、友達としてはやっていけないんだから。分かった!?」
バシッ! ともう一度背中を叩き、ご飯だからね! と言い残して妹は部屋を出ていった。
「……素直にならなきゃ、やっていけない、か」
そうだよな。
俺はこれからも菅野と仲良くしたいと思ってて、友達って関係じゃ満足できないかも、なんて思い始めてて。
もっと近づきたいって思ってるのに、嘘をついたままでいいはずがない。
決めた。
明日、ちゃんと話そう。
俺は、菅野の顔が大好きなんだって。



