神崎くんが俺を見つめる眼差しは、最初から特別だった。
熱っぽくて、甘くて、必死で。そのくせ、俺が振り向くと必死に目を逸らそうとする。
見られることにも、好かれることにも慣れている。それでも俺の中で神崎くんが特別になったのは、神崎くんがずっと俺自身を見ようとしてくれたからだ。
イケメンで人気者の菅野玲ではなく、ありのままの菅野玲を。
だけど、なぜか俺に話しかけてくる気配は全くなく、なかなか神崎くんとの距離を縮めることはできなかった。
だからあの日俺は、『お世話係になって』なんて、強引に神崎くんに声をかけたのだ。
◆
「おはよ、神崎くん」
教室に入って、真っ先に探すのは神崎くんの姿。後ろからいきなり挨拶をすると、神崎くんはひぃっ! と声を上げて振り返った。
「……おはよう、菅野」
必死に平静を装おうとしているのは分かるけれど、耳まで真っ赤だし、俺に照れているのはバレバレだ。
友達になってもうしばらく経つ――というか、友達以上恋人未満みたいな関係になったし、俺の顔が好きだと神崎くんは正直に言ってくれたのに、俺達の関係はまだそこ止まり。
付き合おう、という決定的な一言が、俺達にはまだ欠如している。
「ねえ、神崎くん。今日の放課後空いてる?」
「……空いてるけど」
「ちょっと付き合ってよ。新作のこれ、気になっててさ」
スマホの画面に表示したのは、駅の近くにあるアイスクリーム屋の新作メニュー。
蜂蜜レモンシャーベット、という味に惹かれたのも事実だけれど、そんなのはただの口実。
部活がない日、俺はどうやって神崎くんを誘おうかばかり考えているのだ。
なんてどうせ、神崎くんはちっとも気づいてないんだろう。
神崎くんと違って、俺は自分の気持ちを隠すのが上手いから。
「うん、行く」
あっさりと頷いたつもりなのだろうけれど、神崎くんの口角はめちゃくちゃ上がっている。
っていうか、神崎くんの周りにだけ花が咲いている気がする。それくらい、神崎くんは幸せそうに笑っている。
あー、もう、本当に可愛い。
菅野が好きだ! って、神崎くんの顔にはいつもでかでかと書いてある。そのくせ、本人は必死に隠そうとしているし、隠せているつもりらしいのが、なんとも言えないほど可愛らしい。
そもそも、神崎くんはあまり目立たないけれど、顔立ち自体も可愛い。前髪で隠れがちだけど目はくりくりしているし、大きい瞳はいつもきらきらと輝いているし。
本人はそのことに気づいていなさそうなのも、可愛さポイントの一つ。
要するに俺は、神崎くんに夢中なのだ。
「じゃあ、約束ね」
神崎くんの小指を俺の小指に絡める。動揺した神崎くんに気づかないふりをして、俺はにっこりと笑った。
昔からよく褒められてきた、渾身の甘いスマイル。
「嘘ついたらおしおき……なーんて、ね?」
「……っ!?」
ああ、可愛い。
神崎くんは今日もこんなに可愛くて、分かりやすい。
だけどね、神崎くん。
俺は欲張りだから、もっともっと、って思っちゃうんだ。
もっと俺に夢中になって。もっと俺しか見えないようになって。
もっともっと、俺に真剣になってよ。
「放課後デート、楽しみにしてるから」
耳元で囁いて、自分の席に座る。うぎゃ……という呻き声が、背後から聞こえた。
◆
「じゃあ行こっか、神崎くん」
放課後になると、俺は神崎くんを連れて素早く教室を出た。だらだらしていたらいろんな子に声をかけられてしまうし、貴重なオフは全部神崎くんに使いたい。
学校と駅は近いから、十分ほどでアイスクリーム屋に到着した。
「……菅野、甘いのあんまり好きじゃないだろ。蜂蜜は好きなの?」
店に入ってすぐ、神崎くんが聞いてきた。神崎くんは俺に興味津々だから、俺の趣味嗜好をよく質問してくれるのだ。
「単体だとそこまで……なんだけど、レモンとかと組み合わさってるとわりと好きかな。だから、蜂蜜レモンシャーベットっていうのが気になって。俺、アイスよりシャーベット派だし」
「なるほど……」
「別に覚えなくていいんだよ? 忘れたらまた聞いてくれていいし」
「忘れたりしないから! ……あっ、じゃなくて、別に覚えようとしてたわけじゃ……」
「神崎くん、バレバレだよ」
「……うっ」
悔しそうに声を漏らしながらも、神崎くんは俺を見つめている。
ここ最近は毎日のように一緒にいるのに、神崎くんは全く俺の顔に飽きないらしい。
「神崎くんはなに食べるの?」
「……ストロベリーチョコレートと、キャラメルチーズ」
「ダブルなんだ? 神崎くん、甘いもの好きなんだね?」
「……まあ、そこそこ」
そこそこ、と言ったわりに、ショーケースのアイスを眺める神崎くんは嬉しそうだ。
はしゃぐ神崎くんは可愛いのに、俺以外にはしゃぐなんて、とやきもちを焼いてしまう俺は子供っぽいのかもしれない。相手はアイスなのに。
注文を済ませ、店内の椅子に座る。神崎くんは幸せそうにアイスを口に運んだ。
「美味しい?」
「……ああ。菅野は?」
「うん、俺も美味しい。これなら、ダブルでもよかったかも」
蜂蜜はかかっているけれど甘さは控えめで、レモンの後味はさっぱりしている。俺好みの味だ。
「ね、神崎くん。食べる?」
「え?」
「はい、あーん」
口元にスプーンを持っていくと、神崎くんは戸惑いながらも口を開けた。
恥ずかしくても、緊張しても、神崎くんは俺を拒まないのだ。俺のことが大好きだから。
「神崎くんも食べさせて?」
「……ほら」
差し出されたスプーンをぱくっ、と口に入れる。美味しい、と笑ってみせると、神崎くんの顔が真っ赤になった。
あー、もう、マジで可愛い。食べちゃいたい。
神崎くん、早く俺に告白してくれないかなあ。
俺、結構分かりやすく好き好きアピールしてると思うんだけど。
たぶん俺が『付き合って』と言えば、俺達はあっさり恋人になれるだろう。でも、それじゃだめなのだ。
俺は、神崎くんから言ってほしい。
だって、あっさり手に入ったものより、頑張って手に入ったものの方が大事にしたくなるじゃん? きっと。
これからも一生、俺は神崎くんにとっての『推し』でありたいのだ。アイドルだろうが、身の回りの人間だろうが、誰かによそ見されるなんて耐えられない。
だから、神崎くんにはもっと俺に必死になってもらって、『付き合って』と言ってほしいのだ。
「俺、好きかも」
「へっ!?」
「このアイス」
「……なっ、なんだ、アイスか。た、たまにはいいだろ、甘いやつも」
ごめんね、またからかっちゃって。
でも本気だし、俺も必死だから許してよ。
「うん。でも、神崎くんとは、たまにじゃなくて毎日一緒にいたいな」
「はっ、はあ……っ!?」
「俺の素直な気持ちだよ?」
『付き合って』の言葉は神崎くんから言ってほしいけど、俺も素直に自分の気持ちは伝えていくつもり。
また真っ赤になった神崎くんが、両手で顔を覆ってしまった。
「……かっ、菅野って本当にさあ……」
「俺って本当になーに? 教えてよ、神崎くん」
きっと神崎くんは、まだ知らない。
自分が好きになった相手が、かなり面倒臭い奴だってことを。
だけど、絶対手放してなんてあげない。一生、俺に夢中になり続けてもらうって決めちゃったから。
覚悟しててね、神崎くん。
熱っぽくて、甘くて、必死で。そのくせ、俺が振り向くと必死に目を逸らそうとする。
見られることにも、好かれることにも慣れている。それでも俺の中で神崎くんが特別になったのは、神崎くんがずっと俺自身を見ようとしてくれたからだ。
イケメンで人気者の菅野玲ではなく、ありのままの菅野玲を。
だけど、なぜか俺に話しかけてくる気配は全くなく、なかなか神崎くんとの距離を縮めることはできなかった。
だからあの日俺は、『お世話係になって』なんて、強引に神崎くんに声をかけたのだ。
◆
「おはよ、神崎くん」
教室に入って、真っ先に探すのは神崎くんの姿。後ろからいきなり挨拶をすると、神崎くんはひぃっ! と声を上げて振り返った。
「……おはよう、菅野」
必死に平静を装おうとしているのは分かるけれど、耳まで真っ赤だし、俺に照れているのはバレバレだ。
友達になってもうしばらく経つ――というか、友達以上恋人未満みたいな関係になったし、俺の顔が好きだと神崎くんは正直に言ってくれたのに、俺達の関係はまだそこ止まり。
付き合おう、という決定的な一言が、俺達にはまだ欠如している。
「ねえ、神崎くん。今日の放課後空いてる?」
「……空いてるけど」
「ちょっと付き合ってよ。新作のこれ、気になっててさ」
スマホの画面に表示したのは、駅の近くにあるアイスクリーム屋の新作メニュー。
蜂蜜レモンシャーベット、という味に惹かれたのも事実だけれど、そんなのはただの口実。
部活がない日、俺はどうやって神崎くんを誘おうかばかり考えているのだ。
なんてどうせ、神崎くんはちっとも気づいてないんだろう。
神崎くんと違って、俺は自分の気持ちを隠すのが上手いから。
「うん、行く」
あっさりと頷いたつもりなのだろうけれど、神崎くんの口角はめちゃくちゃ上がっている。
っていうか、神崎くんの周りにだけ花が咲いている気がする。それくらい、神崎くんは幸せそうに笑っている。
あー、もう、本当に可愛い。
菅野が好きだ! って、神崎くんの顔にはいつもでかでかと書いてある。そのくせ、本人は必死に隠そうとしているし、隠せているつもりらしいのが、なんとも言えないほど可愛らしい。
そもそも、神崎くんはあまり目立たないけれど、顔立ち自体も可愛い。前髪で隠れがちだけど目はくりくりしているし、大きい瞳はいつもきらきらと輝いているし。
本人はそのことに気づいていなさそうなのも、可愛さポイントの一つ。
要するに俺は、神崎くんに夢中なのだ。
「じゃあ、約束ね」
神崎くんの小指を俺の小指に絡める。動揺した神崎くんに気づかないふりをして、俺はにっこりと笑った。
昔からよく褒められてきた、渾身の甘いスマイル。
「嘘ついたらおしおき……なーんて、ね?」
「……っ!?」
ああ、可愛い。
神崎くんは今日もこんなに可愛くて、分かりやすい。
だけどね、神崎くん。
俺は欲張りだから、もっともっと、って思っちゃうんだ。
もっと俺に夢中になって。もっと俺しか見えないようになって。
もっともっと、俺に真剣になってよ。
「放課後デート、楽しみにしてるから」
耳元で囁いて、自分の席に座る。うぎゃ……という呻き声が、背後から聞こえた。
◆
「じゃあ行こっか、神崎くん」
放課後になると、俺は神崎くんを連れて素早く教室を出た。だらだらしていたらいろんな子に声をかけられてしまうし、貴重なオフは全部神崎くんに使いたい。
学校と駅は近いから、十分ほどでアイスクリーム屋に到着した。
「……菅野、甘いのあんまり好きじゃないだろ。蜂蜜は好きなの?」
店に入ってすぐ、神崎くんが聞いてきた。神崎くんは俺に興味津々だから、俺の趣味嗜好をよく質問してくれるのだ。
「単体だとそこまで……なんだけど、レモンとかと組み合わさってるとわりと好きかな。だから、蜂蜜レモンシャーベットっていうのが気になって。俺、アイスよりシャーベット派だし」
「なるほど……」
「別に覚えなくていいんだよ? 忘れたらまた聞いてくれていいし」
「忘れたりしないから! ……あっ、じゃなくて、別に覚えようとしてたわけじゃ……」
「神崎くん、バレバレだよ」
「……うっ」
悔しそうに声を漏らしながらも、神崎くんは俺を見つめている。
ここ最近は毎日のように一緒にいるのに、神崎くんは全く俺の顔に飽きないらしい。
「神崎くんはなに食べるの?」
「……ストロベリーチョコレートと、キャラメルチーズ」
「ダブルなんだ? 神崎くん、甘いもの好きなんだね?」
「……まあ、そこそこ」
そこそこ、と言ったわりに、ショーケースのアイスを眺める神崎くんは嬉しそうだ。
はしゃぐ神崎くんは可愛いのに、俺以外にはしゃぐなんて、とやきもちを焼いてしまう俺は子供っぽいのかもしれない。相手はアイスなのに。
注文を済ませ、店内の椅子に座る。神崎くんは幸せそうにアイスを口に運んだ。
「美味しい?」
「……ああ。菅野は?」
「うん、俺も美味しい。これなら、ダブルでもよかったかも」
蜂蜜はかかっているけれど甘さは控えめで、レモンの後味はさっぱりしている。俺好みの味だ。
「ね、神崎くん。食べる?」
「え?」
「はい、あーん」
口元にスプーンを持っていくと、神崎くんは戸惑いながらも口を開けた。
恥ずかしくても、緊張しても、神崎くんは俺を拒まないのだ。俺のことが大好きだから。
「神崎くんも食べさせて?」
「……ほら」
差し出されたスプーンをぱくっ、と口に入れる。美味しい、と笑ってみせると、神崎くんの顔が真っ赤になった。
あー、もう、マジで可愛い。食べちゃいたい。
神崎くん、早く俺に告白してくれないかなあ。
俺、結構分かりやすく好き好きアピールしてると思うんだけど。
たぶん俺が『付き合って』と言えば、俺達はあっさり恋人になれるだろう。でも、それじゃだめなのだ。
俺は、神崎くんから言ってほしい。
だって、あっさり手に入ったものより、頑張って手に入ったものの方が大事にしたくなるじゃん? きっと。
これからも一生、俺は神崎くんにとっての『推し』でありたいのだ。アイドルだろうが、身の回りの人間だろうが、誰かによそ見されるなんて耐えられない。
だから、神崎くんにはもっと俺に必死になってもらって、『付き合って』と言ってほしいのだ。
「俺、好きかも」
「へっ!?」
「このアイス」
「……なっ、なんだ、アイスか。た、たまにはいいだろ、甘いやつも」
ごめんね、またからかっちゃって。
でも本気だし、俺も必死だから許してよ。
「うん。でも、神崎くんとは、たまにじゃなくて毎日一緒にいたいな」
「はっ、はあ……っ!?」
「俺の素直な気持ちだよ?」
『付き合って』の言葉は神崎くんから言ってほしいけど、俺も素直に自分の気持ちは伝えていくつもり。
また真っ赤になった神崎くんが、両手で顔を覆ってしまった。
「……かっ、菅野って本当にさあ……」
「俺って本当になーに? 教えてよ、神崎くん」
きっと神崎くんは、まだ知らない。
自分が好きになった相手が、かなり面倒臭い奴だってことを。
だけど、絶対手放してなんてあげない。一生、俺に夢中になり続けてもらうって決めちゃったから。
覚悟しててね、神崎くん。



