揺蕩う世界の狭間で、君がいいと思ったことだけは確かだった。

 ふわふわ。
「——や、————」
 ぷかぷか。
「——、————や」
 ぼんやり。
 ……今日もいい天気だな。
 窓際は暖かくて気持ちがいい。
 BGMも丁度いい。
 適度に話し声がして、物音がする。
 ぼうっとするには最適だ。
「————や!」
 ……なんか、うるさいのが混じってる。
「——間野屋(まのや)!ぼうっとするな!」
 ……おや?
 なんか俺、怒られてんな?
 そう気づいたら、少しずつ世界が見えてきた。
 教室。
 席に座るクラスメイトたち。
 見慣れた駆塁(かける)の茶色いプリン頭……と思ったら、こっちを向いた。
 駆塁が必死に指差す先を追えば——……あらま。
 時田(ときた)先生、怒ってる。
「……あ、すんません」
 ぺこっと頭を下げた。
 これでも悪いなと思って謝ったつもりだったのだけど。
「お前はいつもいつもぼんやりして!来年は受験なんだから、もう少し授業に集中したらどうなんだ!」
 火に油を注いだだけだった。
 野太い声と共に唾が飛んでいるのが見える。
 教卓前の鈴木さん、かわいそう。
 時田先生ももう少し落ち着けばいいのに。
 ……って、怒ってるの俺のせいか。
「ああ、まあ、そうっすね」
 いつもぼんやりしてる……たしかに。
 来年は受験……これもそう。
 授業に集中しろ……ごもっとも。
 どれを検討しても、先生の言っていることは正しい。
 俺もそう思う。
 だから同意しただけなのに。
 先生の顔はみるみる鬼みたいになった。
 体型も相まって、子供の時に読んだ絵本の中の小太りの赤鬼に似ている。
「〜〜っ間野屋ぁ!問7の答え、言ってみろ!」
「……問7?あー、48っすかね」
 頭の中でさっと計算して答える。
 たぶん間違ってはいないはず。
「…………、正解だ。ここからは集中して聞いておけよ。受験には内申だって大事なんだからな」
 面白くない、そう時田先生の顔が言っていた。
「っす。すんません」
 もう一度頭を下げる。
 時田先生はふんっと鼻を鳴らすと黒板へ向き直り、次の問の計算式を書き始めた。
 春になりたての暖かな陽気が、また俺を曖昧な世界へ誘ってくる。
 ふわふわ。
 ぷかぷか。
 ぼんやり。
 ああ、今日もいい日だ。