僕らは正しい答えを見逃したようです。第一巻

33

「リーン――」

 うっ……誰だよ、こんな時間に。もう夜中の十二時だろ。
 スマホの画面で、見知らぬ番号が表示されている。

 少し迷った末に、電話に出た。

「……もしもし?」

「あんた、何かしたの?」

 ……この声。

「どうして僕の番号知ってるんですか?」
「理香が、覚悟を決めたみたいだから。」

 どうせ姉さん経由で聞いたのだろう。
 それよりも、その一言で一気に眠気が吹き飛んだ。

「どういう意味ですか?」
「とにかく、前に言ったことは忘れないで。」

 あの時、「理香と付き合うのは許さない」と告げた時と同じ、感情の欠片もない声だった。
 それだけ言うと、紫木姉は一方的に通話を切った。

 ……ああ、起こされた。

 水を飲もうと部屋を出ると、姉さんがまだリビングのソファに寝転んでいた。
 昼間の外出着から、家でよく着る短いタンクトップ姿に着替えていた。

「起きたんだ?」
「……うん。」

 ぼんやりしたまま台所で水を飲む。味はひどく平坦で、ただの水だった。

「姉さん、まだ寝てなかったのか。」
「久しぶりに高校生男子たちの濃い視線を浴びたからね~まだ情緒を整えてる。」

 確かに。ヒロとツネを姉さんたちのところへ連れて行った時、周囲の男子がやたら視線を向けていたのは、僕ですら分かった。
 姉さんと紫(ゆかり)木(き)姉みたいなタイプが、あんなフェロモン過多の高校の校内にいたら、そりゃそうなる。
 その横を堂々と歩けていたヒロとツネのほうが誇っていいまである。

「やっぱ私、まだまだ魅力あるよね。」
「そう。姉さんは魅力の具現化だ。」
「よーし。姉さんのテンポによくついてるね。」

 コップを適当に食卓へ置き、部屋へ戻ろうとして、まだ言っていなかったことをふと思い出す。

「そうだ。今日、ありがとな。ヒロの調子が少し悪そうだったから、姉さんたちなら少しは気晴らしになるかと思って。」
「調子が悪い?どうしたの?私たちと喋ってる時、ずいぶん楽しそうだったけど。特に琉香とはね。ちょっとお互い興味ありそうだったよ?」
「紫木さんか?本気で言ってる?」
「はは、それもそっか。あら、意外と琉香のこと分かってるんだね。」
「はは……」

 さっき電話で起こされたばかりなんだけどな。

「ヒロって、そんな簡単に誰かを好きになるタイプでもなさそうだよね?」

 僕が知っている限りでは……

「せいぜい興味持ったくらいじゃないか。ヒロって、本気で誰かを好きになるのが、けっこう難しいタイプだと思う。」
「そっか。あ、明日は私も琉香も行かないね。買い物でもしようって話してるし。」
「分かった。」

 それ以上会話は続かず、姉さんにおやすみを言って部屋へ戻った。
 ベッドに倒れ込んでからも、意識が落ちる直前まで、紫木姉が電話で残した言葉だけが、ずっと頭から離れなかった。