僕らは正しい答えを見逃したようです。第一巻

32
 D組に戻ると、望月はすでに呼び込みを終えていて、代わりに高木が「らっしゃい、らっしゃい!」と市場のおじさんみたいな調子で客を呼び込んでいた。

 高木の身長目当てか?意外にもそれでちゃんと人が集まっていて、しかも並んでいるのは女子が多い。

「Yo~戻ってきたか。次お前な。もう疲れた~」

 顔を見るなり押しつけてくる。
 でも今日は、まだクラスの店にそこまで貢献していない。
 ここは素直に代わることにした。
 教室へ入ると、今は紫(ゆかり)木(き)と小山が接客をしていた。

「お疲れ。」
「あ、羽冬(はねふゆ)。おかえり。さっき望月さんから聞いたよ。友達が何かあって、急いで出ていったんだって?」

 さて、どう説明するか。

「男友達が失恋してさ。ちょっと慰めに行ってた。」
「ああ、そういうことだったんだ!」

 その反応を見るに、紫木の中にあった何かしらの誤解は解けたらしい。

「羽冬くん~」
 小山がするりと横に寄ってくる。

「ど、どうした?」
「理香ちゃんから聞いちゃったよ~小学校時代のお友達、すっごく可愛いんだってね~」

 うっ。

「それで?」
「そろそろ理香ちゃんの揺れる乙女心、落ち着かせたほうがよくない?」
「真衣!羽冬に変なこと言わないで!」
「はい~はい~」

 面倒な人たちが次から次へと現れては、面倒なことばかり思い出させてくる。
 しんどい……
 裏へ回って店員服を持ち、男子トイレで着替えてから高木と交代した。
 ちょうどその時、校内を一通り見てきたらしい望月も戻ってきた。

「あ、羽冬。今当番なんですか?」
「そう。この人が疲れたって言うから。」
「もう限界~中で座ってたい~」

 高木がそんなことを言うと、望月がぱっと明るい声を出した。

「では、私が一緒にやるますね!」

 そう言って教室へ入っていく後ろ姿を見送りながら、僕と高木は顔を見合わせた。

「望月って、もしかして仕事人間なのか?」
「Oh~俺は知らん。」

 高木が奥に引っ込んで少しすると、望月が店の外に出てきた。
 やっぱりあの衣装、異様に似合っていた。もういっそ毎日それでいてほしいくらいだ。

「ん?」
「どうかしたの?」

 ふと引っかかったことを、そのまま口にする。

「中に、更衣室みたいなのあるんだな?」
「ありますよ。ちゃんと仕切ってあって、瀬戸さんが女子の見張り当番まで決めてくれてます。羽冬たちみたいな、変なこと考える男子がのぞきに来ないようにです。」
「え、僕?」

 望月はくすっと笑う。

「冗談です。羽冬はそういうことしない人ですよね?」
「望月相手なら保証はできないけど。」
「もう、羽冬ってちょっとエッチですよ~」

 軽口を交わしているうちに、入口前の人波も朝よりは少し落ち着いていた。
 そんな中、望月が少し真面目な声になった。

「あの子、お昼に羽冬と戻ってきた時、ちょっと様子が変じゃなかったですか?」

 よく見てるな、望月は。

「そうだったか?特に気づかなかったけど。撮影してる時は普通だったけど。」
「そうですか。」

 少しの沈黙のあと、望月がまた聞いた。

「その答え、見つかりましたか?」

 僕は窓越しに、教室の中で真面目に客対応をしている紫木を見た。
 それから、雲ひとつない空へ視線を移す。

「いや、まだだ。」

 頭の中では、少なくとも明らかに違う答えはいくつか消えていた。
 でも、だからといって正解が見えるわけじゃない。

 パンドラ祭一日目は、結局大きなトラブルもなく終わった。
 残業が必要になるような突発対応もなく、盛況のまま、きれいに幕を閉じた。

 家に帰る頃には疲れが一気に押し寄せ、風呂を済ませた僕は、そのままベッドに倒れ込んで眠りに落ちた。