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「これより、パンドラ祭実行委員会議を始めます。」
伊藤委員長がマイクを取り、今日の会議が始まった。相変わらず、場を仕切る力が強い。
「火曜日に各部署の進捗状況はすでに確認しています。来週火曜の会議までに、それぞれ予定されている進捗をきちんと終えられるようお願いします。」
今日の空き時間で、メインビジュアルの各エリアの基本色は決め終えた。あとは先輩たちが着彩を進めるだけだ。
そうなれば、瀬戸に頼まれているD組のポスターや価格表にも時間を割ける。
「本日は体育祭の実施詳細について確認します。情報にずれが出ないよう、ここで改めて全体説明を行います。」
「体育祭の競技は、陸上競技とクラス対抗戦の二部構成です。陸上競技は男女別と学年別で、100メートル、200メートル、走高跳、走り幅跳びなどの個人競技に加え、四人四百メートルリレーやクラス対抗リレーなどの団体競技があります。クラス対抗戦は、バスケ、バレー、サッカーの三種目で、全学年合同・男女混合で行います。」
これだけの情報を、よどみなく一気に説明できるのはさすが生徒会長だ。
この陸上の個人種目、一クラス二人まで出られるのに、気づけば僕が全部出ることになっていた。
体育の時間に負けず嫌いが出て、走るのも跳ぶのも得意だと自分でばらしたせいだ。
神高附中の頃ならともかく、勉強重視のこの学校なら、案外上位も狙えるかもしれない。
高木も走高跳と走り幅跳び、そして四百メートルリレーの代表だ。
望月は女子種目もほぼ総取りだ。
紫木については言うまでもない。パンドラの大多数と同じく、運動音痴だ。
「次に、業務分担です。各競技の記録は一年生が担当し、二年生はサポートおよび予備人員として配置します。記録が試合出場と重なって不足するのを避けるためです。なるべく同じクラス同士で同じ競技を担当できるよう配慮します。まず確認ですが、球技に詳しい人はいますか?」
どうやら立候補制らしい。記録なら、やはり興味のある種目がいい。
「なあ、一緒にバスケの記録係やらない?」
全体がまだ様子見しているうちに、小声で紫木に声をかけた。
「え?いいけど、私、全然分からないよ?」
「大丈夫。教える。」
競技の記録は、バスケ、バレー、サッカー、そして陸上の四つに分かれる。
それぞれ四人ずつ、一年の実行委員十六人がきれいに割り振られる形だ。
僕が手を挙げると、紫木も一緒にバスケの記録へ回った。
友子先生は、僕が自分から手を挙げたのを見て、かなり意外そうな顔をしていた。
僕と紫木の仕事――バスケの記録。
総得点や個人得点、ファウルだけでなく、リバウンド、アシスト、ブロック、スティールまで書く必要がある。
ベスト16以降の個人成績をもとにMVPなどの個人賞も出すからだ。
先輩たちは大量の記録用紙を配り、事前にネットの試合などで練習しておくように言った。
とはいえ、こういう記録の細かさは、バスケを知っている人間には常識でも、紫木のような初心者には別世界だ。
隣を見ると、案の定処理落ちしていた。
でも、紫木を自分でこの係に誘った時点で、教える覚悟はできていた。
僕だって実際に記録係をやったことはない。教えるためにも、自分でちゃんと練習しないといけない。
「……あ。」
目が完全に死んでいる。脳細胞が今まさに絶滅しかけている顔だ。
「大丈夫。まだ本番まで時間あるし、ゆっくり教えるから。」
「うん、お願い。」
僕がそう言うと、紫木はすぐに落ち着きを取り戻し、また真面目に会議を聞き始めた。
もしかすると、紫木の中で僕はもう少しくらい頼れる存在になっているのかもしれない。
会議の最後に、委員長は来週火曜も進捗確認、金曜は文化祭当日の業務分担を行うと伝えた。
終了後、友子先生がこちらへ来た。
「羽冬、紫木。」
「二、三年生や生徒会の先生方から、羽冬は積極的で真面目だって、すごく評判いいのよ。この調子で頑張ってね。」
友子先生の穏やかな励ましは、不思議と人を安心させる。
「ありがとうございます。」
「理香ちゃんは、バスケに詳しくないでしょ?羽冬に誘われたのよね?」
さすが、見抜いてる。
「はい。でも羽冬がちゃんと教えてくれるって言ってくれたので、大丈夫だと思います。全然見たことがないわけでもないですし、私、やれると思います!」
妙に自信満々だ。
それを聞いた友子先生も、安心したように微笑んだ。
「二人とも本当に、超すごいわ。この調子で頑張ってね。時間も遅いし、気をつけて帰るのよ。」
「はい。お疲れ様でした!」
紫木と別れて一人で家へ向かう途中、ふと今朝のことを思い出した。
紫木姉が紫木へ向けていた、あの甘やかしにも似た過剰な保護を。
そうだ。
どんな保護も愛で正当化できるわけじゃない。
一線を越えれば、それはただ自分の思う「最善」を相手に押しつけているだけだ。
それは単なる支配にとどまらない。
それはもう、誰にも赦されない罪になる。
「これより、パンドラ祭実行委員会議を始めます。」
伊藤委員長がマイクを取り、今日の会議が始まった。相変わらず、場を仕切る力が強い。
「火曜日に各部署の進捗状況はすでに確認しています。来週火曜の会議までに、それぞれ予定されている進捗をきちんと終えられるようお願いします。」
今日の空き時間で、メインビジュアルの各エリアの基本色は決め終えた。あとは先輩たちが着彩を進めるだけだ。
そうなれば、瀬戸に頼まれているD組のポスターや価格表にも時間を割ける。
「本日は体育祭の実施詳細について確認します。情報にずれが出ないよう、ここで改めて全体説明を行います。」
「体育祭の競技は、陸上競技とクラス対抗戦の二部構成です。陸上競技は男女別と学年別で、100メートル、200メートル、走高跳、走り幅跳びなどの個人競技に加え、四人四百メートルリレーやクラス対抗リレーなどの団体競技があります。クラス対抗戦は、バスケ、バレー、サッカーの三種目で、全学年合同・男女混合で行います。」
これだけの情報を、よどみなく一気に説明できるのはさすが生徒会長だ。
この陸上の個人種目、一クラス二人まで出られるのに、気づけば僕が全部出ることになっていた。
体育の時間に負けず嫌いが出て、走るのも跳ぶのも得意だと自分でばらしたせいだ。
神高附中の頃ならともかく、勉強重視のこの学校なら、案外上位も狙えるかもしれない。
高木も走高跳と走り幅跳び、そして四百メートルリレーの代表だ。
望月は女子種目もほぼ総取りだ。
紫木については言うまでもない。パンドラの大多数と同じく、運動音痴だ。
「次に、業務分担です。各競技の記録は一年生が担当し、二年生はサポートおよび予備人員として配置します。記録が試合出場と重なって不足するのを避けるためです。なるべく同じクラス同士で同じ競技を担当できるよう配慮します。まず確認ですが、球技に詳しい人はいますか?」
どうやら立候補制らしい。記録なら、やはり興味のある種目がいい。
「なあ、一緒にバスケの記録係やらない?」
全体がまだ様子見しているうちに、小声で紫木に声をかけた。
「え?いいけど、私、全然分からないよ?」
「大丈夫。教える。」
競技の記録は、バスケ、バレー、サッカー、そして陸上の四つに分かれる。
それぞれ四人ずつ、一年の実行委員十六人がきれいに割り振られる形だ。
僕が手を挙げると、紫木も一緒にバスケの記録へ回った。
友子先生は、僕が自分から手を挙げたのを見て、かなり意外そうな顔をしていた。
僕と紫木の仕事――バスケの記録。
総得点や個人得点、ファウルだけでなく、リバウンド、アシスト、ブロック、スティールまで書く必要がある。
ベスト16以降の個人成績をもとにMVPなどの個人賞も出すからだ。
先輩たちは大量の記録用紙を配り、事前にネットの試合などで練習しておくように言った。
とはいえ、こういう記録の細かさは、バスケを知っている人間には常識でも、紫木のような初心者には別世界だ。
隣を見ると、案の定処理落ちしていた。
でも、紫木を自分でこの係に誘った時点で、教える覚悟はできていた。
僕だって実際に記録係をやったことはない。教えるためにも、自分でちゃんと練習しないといけない。
「……あ。」
目が完全に死んでいる。脳細胞が今まさに絶滅しかけている顔だ。
「大丈夫。まだ本番まで時間あるし、ゆっくり教えるから。」
「うん、お願い。」
僕がそう言うと、紫木はすぐに落ち着きを取り戻し、また真面目に会議を聞き始めた。
もしかすると、紫木の中で僕はもう少しくらい頼れる存在になっているのかもしれない。
会議の最後に、委員長は来週火曜も進捗確認、金曜は文化祭当日の業務分担を行うと伝えた。
終了後、友子先生がこちらへ来た。
「羽冬、紫木。」
「二、三年生や生徒会の先生方から、羽冬は積極的で真面目だって、すごく評判いいのよ。この調子で頑張ってね。」
友子先生の穏やかな励ましは、不思議と人を安心させる。
「ありがとうございます。」
「理香ちゃんは、バスケに詳しくないでしょ?羽冬に誘われたのよね?」
さすが、見抜いてる。
「はい。でも羽冬がちゃんと教えてくれるって言ってくれたので、大丈夫だと思います。全然見たことがないわけでもないですし、私、やれると思います!」
妙に自信満々だ。
それを聞いた友子先生も、安心したように微笑んだ。
「二人とも本当に、超すごいわ。この調子で頑張ってね。時間も遅いし、気をつけて帰るのよ。」
「はい。お疲れ様でした!」
紫木と別れて一人で家へ向かう途中、ふと今朝のことを思い出した。
紫木姉が紫木へ向けていた、あの甘やかしにも似た過剰な保護を。
そうだ。
どんな保護も愛で正当化できるわけじゃない。
一線を越えれば、それはただ自分の思う「最善」を相手に押しつけているだけだ。
それは単なる支配にとどまらない。
それはもう、誰にも赦されない罪になる。
