好きになっても良いですか?

 計画終了から数日。おれは人生でいちばん幸せな日々を過ごしていた。

「滝本くん、ここ間違ってるよ」
「えっ、どこ……?」
「ここの“+”が“-”になってる」
「あれ、なんで……?」
「うーん……滝本くんが、いつの間にか変えちゃったのかも」

 放課後、おれたちは二人きりで教室に残って、今日の宿題や授業の復習をしていた。二人の時間にぴったりだと、最近はルーティンになっていたのだけれど、おれはまだ慣れていない。

「いつから間違えてたんだろ?」
「えっと……第一問のここからかな」
「って、すごい最初の方! もっと早く教えてよ……」

 守沢くんは、おれの間違いだらけのノートを見ながらくすっと笑う。その楽しそうな笑顔が眩しくて、何より守沢くんとの距離が近くて、おれの心臓はずっとうるさかった。

「……あの、守沢くん」
「ん?」
「そんな近いと……おれ、緊張して……数字が読めなくなっちゃう……」
「そう? でも、そこは頑張って読んでほしいかも」
「うっ……」

 言い返せない。まったくその通りだ。
 でも、嬉しい。なんかもう、全部嬉しい。

「ほら、集中して。できるまで帰さないよ」
「えっ……帰さない……?」
「うん。だって……」
「だって……?(ゴクリ)」
「……明日、テストがあるから」
「わああああああああああ!」

 さらっと言われて、おれは机に突っ伏した。まるでワンコが床にぺたんってなるみたいに、だ。
 だって、信じたくもない。明日テストがあるなんて……そんなの最悪だ!

「む、無理……心臓が……」
「大丈夫。ぼくがいるから」
「ド、ドキドキしちゃって余計に無理だぁ……」

 守沢くんは、そんなおれを見て楽しそうに笑った。

(笑ってる顔、綺麗……好き……)

 なんかもう、空気が甘すぎる。でも嫌なわけじゃない。むしろ嬉しすぎて死ぬ。
 ……と、そのとき、ガラッと教室のドアが開いた。

「おーいアキ〜〜〜」
「勉強進んでるか〜〜〜」
「……って、うわ。甘っ」

 ノリとミヤとシンがそろって入ってくる。三人とも、おれと守沢くんの距離を見て、生温かい視線を向けた。

「お前ら、もう付き合ったのにまだ勉強してんの?」
「普通イチャイチャするだろ」
「いや、してるか……十分してるな……」

 冷静に言われるとなんだか小っ恥ずかしくなってくる。席を立って「ちょ、ちょっと! イチャイチャなんかしてないけど!?」と主張するけど、「してるだろ」、「してるな」、「してるね」って三人みんな言うから、おれはまた机に顔を埋めた。

「アキ、顔真っ赤」
「耳まで真っ赤っかだぞ」
「うるさい……」

 守沢くんは、そんなおれを見てまた笑った。

「滝本くん、かわいいね」
「やめて……!」
「ほら、頑張って。ぼくの彼氏なんだから」
「やめてぇ……!」

 いつメン三人は、やれやれと肩をすくめた。

「アキ、完全に守沢にやられてんじゃん」
「甘やかされてるだけだろ」
「まぁ……幸せそうだからいいけどな」

 シンの言葉に顔を上げる。ふむ、「幸せ」か……。

「……うん。幸せだよ」

 心からの素直な言葉が出てくる。すると守沢くんがおれの頭をそっと撫でた。
 ふわふわとした手つきが優しくて、おれは顔を赤らめながらカチコチに固まってしまう。

「よしよし」
「やめてぇ……!」
「かわいいから仕方ないよ」
「やめてってばぁ……!」

 いつメンのみんなは爆笑していた。

「やられてるっつーか、完全に飼われてるな。これ」
「犬枠だもん、こいつ」
「ご主人様によしよししてもらえて良かったな」
「もぉー!」

 でも、笑い声の中でおれはふと気づいた。守沢くんの隣にいるのが、すごく自然で、すごく幸せで、すごくあったかい、ってことに。
 ドジでワンコっぽいおれと、頭が良くて桜みたいな守沢くん。おれたちは全然違って、だけど全然違うおれのことを受け入れてくれる守沢くんを大好きだと思う。そして、そのことを実感できるこの時間が、とってもとっても大切だった。

(ああ……本当に、)

 あなたのことを、好きになって良かった!